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札幌銭湯スタンプラリー2023のこと(その15・喜楽湯)

札幌銭湯スタンプラリー2023、15軒目は喜楽湯さん。

喜楽湯は大変個性的だ。他の銭湯とは色々な面で一線を画している。

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例えば立地。
多くの銭湯が住宅街にひっそりと存在している中、喜楽湯はススキノの端、かつ国道沿い、かつ中央区役所(建て替え中)とプリンスホテルの近くという、なんとも絶妙な場所に存在している。

例えば造り。
喜楽湯の乾式サウナと広々水風呂は地下にある。何かの比喩とかではなく、本当に地下なのだ。
「広々水風呂」と韻を踏んだ点は評価してほしい。

例えば営業時間。
ダントツで早い。驚異の午前11時開店だ。
「驚異の午前11時」という文言を記すのはこれが最初で最後だと思うが、とにかく早い。

以上のような理由から、喜楽湯は非常に個性的な、他とは違う銭湯といえる。

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「自分は個性あふれる、他のくだらない人間とは違う存在だ」
そう思い、口にし、誰も知らない音楽を聴いたり、誰も知らない小説を読んだりするのは、青春という患いの代表的な症状である。

この患いは概ね自然に寛解する。
誰も知らないと思っていた音楽も小説も、実は結構たくさんの人が触れている。個性でもなんでもなかったと気づいたときに人は少し成長し、自分と同じものを好む人間が他にいるんだと驚き、それを歓迎する。マスであることは、そんなに悪くない。

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個性的とか異質とか、そういった存在はナチュラルボーンだ。「俺は人と違う!」という時点で凡庸である。普通に、自然にやっているのに、結果として何か他と違ってしまっている。それが「本物」だ。

喜楽湯が「うちは他の湯とは違う!」と意識した形跡はない。恐らくナチュラルボーン個性的だ。

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日曜日。さすがに午前11時とはいかなかったが、昼を少し過ぎた時間にお邪魔した。

日曜の昼下がり、たぶん銭湯はファーストチョイスでない。結果としてだが、そこそこ個性的な行動だろう。

まして夏だ。子どもと水辺へ遊びに行ったり、仲間とビール片手にバーベキューをしたり、優先される選択肢は他に山ほどあるはずだ。

暑いので家に籠るのもよいだろう。上沼恵美子のやっている、なんか腹の立つ番組を見ながら「なんか腹立つ!」とテレビに罵声を浴びせ、アイスコーヒーを啜るなんてのも一興だ(ネット局限定)。

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でも私は、喜楽湯だった。「俺は他の人間とは違う!」という思いからではない。単にデカい湯船に浸かりたい、スタンプを押してもらいたいからだ。

他に客はいないだろうと思いつつ、番台へスタンプ用紙を差し出した。

無言で力強く押印。

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予想は裏切られ、日曜昼下がりの喜楽湯は驚くほど混んでいた。

「日曜の昼間からひとっ風呂なんて、俺ってば粋〜!個性的〜!」なんて輩はいない。みな、これが必然といった佇まいだ。

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この日は月に一度の薬湯デー、ペパーミントの湯が爽やかな香りを放っていた。

凡庸だけど個性的な面々は
「ペパーミント⁉︎ハッカだろ、ハッカ!」
といいたげに眉間へ皺を寄せつつも、夏らしいその香りに耐えられず、口元だけは笑っていた。

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爽やかな匂いを纏い、表へと出た。230号線を西11丁目駅に向けて歩く。

「♪さわ〜や〜か〜な日曜〜」

思わず熱唱。これはさすがに個性的すぎた。イッツアビューティフルデイ!

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