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札幌銭湯スタンプラリー2024のこと(その1・松竹湯)

札幌の夏といえば何か。

ビアガーデン。
札幌競馬。
ライジングサン。

いずれも素晴らしいが、不正解である。札幌の夏は、札幌銭湯スタンプラリーだ。

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昨年も7~9月に集中開催されたそのラリーを、私は見事完走した。手にした栄誉と名声は瞬く間に世界へと轟き、ノーベル銭湯賞、グラミー賞スタンプラリー部門などを総なめにしたのは記憶に新しい。

そんな私だったが、スタンプで埋め尽くされた用紙を眺めながら
「これは今年限りにしよう」
と密かに決めていた。

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理由は2つある。

ひとつめは、単純に大変だったからだ。
私とて暇ではない。酒を飲んだりタバコを吸ったりJリーグを観たりしなくてはいけない。その合間を縫って湯を巡るというのは、なかなかに困難だった。

ふたつめは、少しカッコをつけていうが、スタンプを求めて東奔西走するのは、私の思う銭湯の楽しみ方とあまりに乖離していたからだ。

銭湯というのは、仕事帰りや休日の昼下がりにフラッとお邪魔し、デカい湯船で手足を伸ばして
「よし明日も頑張るぞ!」
とささやかな決意をするためにある。日々追われるアレコレから逃れるための場所だ。

ところが血眼になりスタンプをもらって回ることで、銭湯そのものが日々のアレコレになっているような気がしたのである。

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別にスタンプラリーがダメだとか、そんなことをいうつもりはない。それはそれでよいけど、というやつだ。

いうなれば、ドラクエでカジノにハマるようなことである。それはそれでよいけど、デスピサロが待ちくたびれてるぞという話だ。
ちょっと例えを間違えたとは思っている。

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そんなわけでスタンプラリー引退を決めた私ではあったが、興味を失ったわけではない。今年も開催されるというので、どんな感じかなと、さつよくのサイトを覗いた。

すると
「今年のラリー達成者にはオリジナル手拭いをプレゼント」
とのこと。
「デザインは試作時のものです。実際の景品とは異なる場合がございます」
とあるが、さつよく加盟銭湯の屋号が千社札風にデザインされたその手拭いは、めちゃめちゃカッコよい。

「欲しい」
手拭いで心が動いた。空耳アワー以来である。

かくして私はあっさりと引退を撤回し、現役復帰を決意した。銭湯界の大仁田である。電流爆破どころか電気風呂すら苦手だというのに。

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2024年7月2日、松竹湯。

我が家から徒歩圏内の銭湯だが、昨年のスタンプラリーが初訪問だった。以降、それなりの頻度でお邪魔している。難癖はつけたが、ラリーで得たものも少なからずあるのだ。

ご近所の松竹湯に足が向かなかった理由は明白で、ネットか何かで「ロッカーキーの扱いが独特」という一文を目にしたからだった。
うっかりローカルルールを破ったりしたら、薪でボコボコにさえたうえ、バイブラに沈められるのではと恐れおののいていたためだ。我ながら小さい男である。

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仕事帰り、美園駅で降りて松竹湯へ。

「借りまーす」
とフロントの女将に告げ、傍らの鍵セラー(ワインセラーの鍵バージョン)から9番のキーを取り、脱衣場へ。慣れたものである。

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浴後、フロントに貼られた「スタンプ用紙 先着30名限定」の掲示を指しながら
「まだあります?」
とお尋ねしたところ
「ありますよ~」
とのこと。

スタンプの押された新しい用紙を受け取った。

「頑張ってくださいね!」
と女将。

おう、任しとけ。

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あっさりと引退を撤回した自分に対する情けなさもないことはないが、思えば私はドラクエでカジノに入り浸っていた。デスピサロは待たせたが、手拭いは待たせないぜ。

今年の夏が始まった。

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