「かがみの孤城」辻村深月
廊下側、最前列。1番。
いつもそこが、彼女の席だった。
席替えの季節になって、学級委員が意気揚々と場を取り仕切る。生徒が座る机を順番に周っていき、手作りのくじ引き箱から番号札を一枚ずつ引いてもらう。皆が自分の希望する番号を思い、くじを引く。でも、僕たちは決して1番を手に取ることはできない。
恐らく隣席同士になった女子2人が手を取り合ってきゃあきゃあと歓喜している中、僕は13番を引いた。今座っている位置と同じだ。くじ引きを終え、僕以外の生徒たちが机を移動させる。ガタガタと騒々しい教室の中で、僕は1番の席を見つめていた。
あの頃の彼女に想いを馳せながら。
あらすじ
学校での居場所をなくし、閉じこもっていた”こころ”。ある日突然、部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡を潜り抜けた先にあったのは、とても大きな城のような建物。そして似た境遇にある6人の少年少女がそこに集められていた。
待ち受けていたかのようにこころ達の前に現れたオオカミの面をつけた少女が言う。
「この城の奥には、誰も入れない部屋がある。入れるのは一人だけ。願いが叶うのは一人だけだ、赤ずきんちゃん」
突如始まった”願いの鍵”探し。
こころが叶えたい願いとは。
7人がたどり着く運命とは。
すべてが明らかになるラスト、驚きと感動があなたを待っている。
アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン、
読後
遠藤文乃。えんどうあやの。
それが彼女の名前だった。親同士が仲良く、文乃とは小さいころからよく一緒に遊んだ。小学校に上がると、僕たちの仲の良さは周りの児童たちからは異質に見えていたようで、「〇〇くんとあやのちゃんはけっこんするんだよね」と冷やかしを受けることも常だった。しかし、それに否定も同意も必要なかった。
時間が流れるとともに、僕はただただ文乃に惹かれていった。
中学校に上がり、5月。文乃は学校に来なくなった。僕の知らないところで一部の女子生徒から嫌がらせを受けていたようだった。その理由も原因も分からないまま、僕の好きな人は僕の前から居なくなった。
5月の運動会。
10月の文化祭。
2月の修学旅行。
溌溂とした笑顔。
勇ましく懸命な顔。
友達と肩を寄せ合いバスの後部座席に眠る寝顔。彼女のそれが、僕の思い出に鮮明に刻まれるはずだった。しかしそれが叶うことはなかった。
2年生になった春、配られた学級通信に彼女が転校する旨がひっそりと綴られていた。
自立できないミズゴロウ より
――――――――――――――――――――――わたしたちきっと、未来で会えるよ。
「かがみの孤城」 辻村深月
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