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初めてのへき地

教員になってすぐの頃は、自分の出身校に勤めていた私ですが、とある転機がやってきました。

へき地を希望されますか?


教員って、いわゆる「公務員」である「教諭」と、「契約社員」みたいな立場の「講師」って二つの立場があるのです。講師でもさらに産休や育休の先生方の代打として契約する「期付き講師」というのもあります。

私はその「期付き講師」の試験に受かって、来年度からは新しい契約を結ぶことになっていました。
その際、勤務地希望調査書の最後の欄に「へき地を希望されますか?」という一文があるのですが・・・
悩みました。
元々海外青年協力隊にも興味があったんですが、さすがに経験も勉強も不足している私。へき地ならそれに近い経験ができるのでは?と考えました。
行きたい気持ちと、「やっていけるのか?」という不安な気持ち。
1日悩んで結局、
「結婚もしていない、子どももいない、親も元気な今のうちなら、誰にも迷惑かけないから!」と行くことに決めました。
それでも腹が決まりきらなかった私は、へき地希望の欄に「行くことは可能です」と控えめな言葉を書きました。

後で同僚にその話をしたら、
「へき地に行きたいっていう人は少ないから、そんなこと書いたら確実にへき地勤務になるに決まってる。」
と言われました。

フラグ回収

へき地勤務に行くかもしれないと家族に報告したら、母は
「まあ、〇〇村以外なら、県内どこでもこの家から通えるし、大丈夫じゃない?」
とたかを括っていました。
まあ、結局その村だったんですけどね。
見事なフラグ回収です。
辞令に書いてある〇〇村の文字を見たときは、吹き出しそうになりました。

辞令が出てすぐに、勤務校の校長先生へ挨拶の電話を入れました。
普通は4月1日からが新しい勤務地になりますので、それまでに次の学校へ連絡することはタブーなのです。ですが、へき地勤務は引っ越しが伴うため、特別に連絡を取ってもいいということになりました。
「よろしくお願いします。そちらに住んで勤務する事になると聞きましたが、何を用意すればいいでしょうか?」
と聞いてみると、
「まあ、一式かな。残しといてほしいもんがあったら、前に住んでたやつと話してみてくれ。」
一式がわからないから聞いてるんですが・・・と思いながら、
「え・・・っと、その方は今いらっしゃいますか?」
と聞いてみました。
「今日は休んどるよ。まあ、直接見て交渉するのがいいだろうよ。」
のんびりした校長先生の話し方は、少し好感が持てるなと思い電話を切りました。

下見は必須です


結局、電話から数日後とりあえず下見に行くことにしました。
初めての場所なので、父が運転してくれて私は道を覚えることと、ナビに専念。
母は観光気分で「温泉入りたいから」とついてくることに。家族3人で小旅行に出発です。
有名なお店で食事をしたり、絶景を眺めてみたり、緑のトンネルみたいなワインディングロードも私には好ましく見えました。
でも、着かない。
まだ、着かない。
5時間以上かかってたどり着いた頃には、
「こんなに遠いんだ。」
と、不安がぶり返して来ていました。一本立つか立たないかの携帯の電波がさらに不安を煽ります。

我が家とのご対面


「へき地勤務って、寮が多いと聞いてるよ。」
そう語っていた同僚の話から、てっきり私も寮だと思い込んでいました。
ですが、蓋を開けてみると、
平家の一軒家。庭付き・・・
村の教育委員会、太っ腹です。でも、これであの時の「一式用意して。」と言った校長先生の言葉の意味がわかりました。本当に一式だった。
洗濯機、冷蔵庫、エアコン、ガスコンロ!?
これは、思いのほか出費がかさむ・・・
ありがたいことに(?)前の住人が
「いや〜、まだ片付けが終わらなくて。」
と作業されていたので、
「置いといてもらっていいですか?!一式!」
と必死で交渉しました。
「捨てるのもお金がいるし、助かります。」
と相手も快諾してくれたので、結局、冷蔵庫と洗濯機は前の人のを使うことになりました。
エアコンとガスコンロは元々なかった・・・

真っ暗な帰り道


帰りの車中。
街灯もない真っ暗な山道を疲労困憊で押し黙っていた家族。
「・・・帰ってきなさい。1年我慢してあそこで勤務したら、地元の学校に戻してもらいなさい。」
母がポツリと、言った言葉に私は何も返事ができず、車のハイビームが届かない真っ暗闇の道の先を見続けていました。

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