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小学校に入学後2か月で「学校に行きたくない」と呟いた長男のはなし


「あした、学校に行かなきゃだめ?…行きたくないなぁ」

わたしは、この言葉をまさか長男が小学校に入学してから、たった2か月で聞くとは、思ってもいなかった。

…というと、ウソになる。

なんとなくそんな予感はしていた。

わたしには、2人の子どもがいる。

長男、けーちゃん。8歳、小学3年生。
次男、ゆっちゃん。4歳、年中さん。

今回のお話の主人公は、長男のけーちゃん。
彼がまだピッカピカの小学校1年生だったころの話。



我が家の長男は、繊細だ。
傷つきやすいガラスのハートの持ち主。

彼の話をするときは、必ず最初にこう伝えてる。

なぜか。

彼のエピソードを語る上で、この”繊細”というキーワードは、常について回る。

繊細とは、具体的にどういうことかと言うと、些細な言動でも傷つき、泣いてしまう。人見知り、場所見知りが激しく、環境の変化が大の苦手。


マイナスの面ばかり書いてしまったが、もちろん良い面もある。

空気を読むことが得意で、わたしが疲れた顔をして帰ると、なにも言わなくてもお手伝いをしてくれたり、弟の面倒をみたりしてくれる。

人の気持ちを敏感に察することができるので、いじわるをしたり、暴言を吐いたりはしない(弟を除く)
そういえば、大好きなかいけつゾロリを読んでいるときに「ゾロリは、口が悪いから、けーちゃん苦手だな」と呟いていた。

とにかく心優しい子なのである。


そんな子が、なぜ学校に行きたくないと言ったのか。


話は、長男が年長さんの秋まで遡る。


年長さんの秋といえば、入学する予定の小学校で「就学時健康診断」がある。主に、内科検診や、歯科・聴力・視力検査をする。


元々、人見知りと場所見知りが激しい長男。小学校も苦労するだろうなと思っていた。

しかも、彼が入学する小学校には、お友達や知り合いが一切いない。このことを伝えると「小学校に行きたくない」と、彼は言った。

だから、自分が通う小学校はこんなところだよ、こんなに楽しいところだよと知ってもらうために、この就学時健康診断は、良い機会だったと思った。


就学時健康診断の当日、わたしは、めちゃくちゃ張り切った。
小学校に着くと、不安で顔がこわばる長男の手を引いて、昇降口まで歩く。校庭の横を通りながら、小学校にある、ありとあらゆるものを褒めまくった。

「わぁ~見て、でっかい学校だね!」
「おぉ~ひっろい校庭!ブランコもあるね!!」
「あ、見て!すんごい長~い滑り台まであるよ!」

テンションを上げに上げまくった。春から通う小学校は、こんなに楽しいところだよとアピールしまくった。

長男も、不安そうにギュッと握っていた手が、少しゆるんだ。

校舎に入ると、それはそれは年季が入った建物だった。ボロボロの下駄箱。軋む廊下。壁には「○○の絵・昭和48年度卒業生」と書かれた、古めかしい絵が飾ってある。「わたし、生まれてないやん…」とぽつりと呟く。

それもそうである。この時点で、創立145年だったそうだ。

昔ながらの古い校舎を歩きながら、小学校なんて何十年ぶりだろう。わたしが通った学校もこんな感じだったなと、懐かしんでいると、今回の会場である図書室に着いた。


図書室には、イスが30脚ほど並べられてある。もうすでにお母さんの横に、ちょこんと少し緊張した面持ちで座っている子どもたちの姿がある。

わたしたちも、いそいそと長男の名前の書かれた椅子に腰かける。


緊張で固まる長男。
キョロキョロと周りを見渡すわたし。

「あれ、おかしいな…」

と訝しげに座っていると、校長先生が入ってきた。ありがたいお話が始まる。


そこで、わたしは衝撃の事実を知る。

「来年度入学予定のお子さんは、16人です。少子化の影響で、年々減ってきていますが…」
と淡々と話しをする校長先生。


え?16人!すくなっ!!

周りのお母さんたちがざわつく。コロナ禍だから、この健康診断は分散して行われているのだと思っていた。

少子化どころの騒ぎではない。過疎である。


わたしは、地元ではなかったので知らなかったのだ。
4年前、自然が多い環境と、庭つきの一戸建て、家賃の安さに惹かれてこの地に越してきた。

たしかに、ご近所さんは、おじいちゃんおばあちゃんばかり。子どもはほとんど見かけない。わたしたちが子連れで引っ越してきたので、近所の方にはものすごく喜ばれた。「子は宝だねぇ」と、何度も声をかけられた。


なるほど、こんなにも子どもが少ないから、あんなに喜んでくれたのか。今さら納得した。

納得しつつも、動揺を隠せないまま、子どもたちは健診会場へと席を立つ。


「16人ってことは、1クラスしかないのか。クラス替えがないのは、彼にとってもいいことだな。人数少ないと、先生の目も届くし。」
と、長男が戻ってくるまでの間、少人数クラスの良いところを必死で考えた。


健診が終わっても、まだ少し固い表情の長男。校舎を歩いて帰る途中、わたしは恐る恐る聞いた。

「小学校どう?通えそう?」

「うん!待っているときに、車の絵を描いたよ。先生も優しかった。かっこいい男の先生がいたんだよ!」と、さっそく推しメンを見つけたみたいだ。

よかったぁ~

朝から張り切り過ぎたわたしは、その言葉を聞いて、ひどくほっとした。


しかし、安心したのもつかの間、この直後にとある事件が発生する。



それは、小学校入学を目前に控えた2月のころだった。

長男は、突然、聞いたこともない病気になってしまった。


「IgA血管炎」という病気だ。


うん。生まれてうん十年経つけど、一回も聞いたことないよ。

ひと昔前は、アレルギー性紫斑炎や、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、アナフィラクトイド紫斑病とも、呼ばれていた。

ヘノッホ?アナフィ…

いや、どう発音すんの?


どんな病気かというと、血管に炎症がおきて、足に紫斑(あざのような発疹)ができたり、腹痛や関節痛の症状が現れる。

原因不明の病気で、3歳~10歳くらいの男の子が、発病しやすいようだ。年間10万人に10~20人くらいの発症率らしい。

そんな確率で罹患するなら、宝くじにでも当たってくれた方がよかったのに。という、珍しい病気になった人の90%くらいが言いそうなことを思う。

幸いなことに、長男の症状自体は、比較的軽い方だった。

はじめに、足に紫斑ができ、時間差で両ひざの裏の関節が痛くなった。

腹痛を伴うようになると、入院して治療しなければならない。と病院の先生から聞かされた次の日に、腹痛の症状が現れた。


心の準備ができないまま、2週間の入院生活を余儀なくされた。しかも、一回の入院だけじゃ完治せず。入学式が終わった5日後に、2回目の入院生活に突入。せっかく小学校に入学したのに、慣れる暇すらなく、3日間だけ学校生活を送り、病院へと舞い戻ったのだ。


無事に2回目の入院を終えたころには、もう世の中はゴールデンウィーク直前。学校には行かずに、そのまま自宅療養に入った。

なので、長男が本格的に小学校に通えたのは、ゴールデンウィークがあけたころだった。


1ヵ月遅れでスタートした、長男の小学校生活。

たった1ヵ月。されど1ヵ月。

この1ヵ月間が、彼の学校生活の命運をわけることになる。


ゴールデンウイーク明けになると、一緒に入学したクラスメイトたちは、小学校生活にも慣れてきていた。1日の流れも把握しており、次になにをやるべきか、どんな準備をするべきかが、わかっていた。


ある程度のベースが出来上がっていたところに、右も左も分からない長男が登場。

もともとマイペースでのんびり屋さん。その上、失敗が大嫌いな完璧主義。間違っていないかいちいち確認するので、基本的に行動が遅い。

サクッと言えば、みんなが当たり前にできていることが、できなかった。


なにをやったらよいかもわからず。指示されたことも、間違っていないか几帳面にチェックする。

それがクラスメイトの目についたのだろう。世話焼きの女の子に、常に急かされていたようだ。

「これは、違うよ」
「もう~、これはこうするんだよ」

という言葉を一日中ずっと浴びていたらしい。

繊細な彼にとっては、こんな些細な言葉でも傷ついてしまう。世話を焼いてくれた女の子もよかれと思ってやってくれたのに。長男にとっては、ひどいことを言われた感じがしたのかな。


また、クラスメイトが10人と超少人数なので、逆に先生の目が届きすぎたのだろう(実際に入学したのはたったの10人だった)

ワンテンポもツーテンポも遅れる長男がいるおかげで、クラス全体のペースが乱れた。担任の先生も、早くみんなと同じように行動ができるように、つきっきりで指導をしてくれた。

それが、彼の目には、みんなより厳しくされていると感じたのだろう。

慣れない学校生活で、いろんなことが重なり、彼は常に神経をすり減らしていたようだ。


わたしは、そんなこととは梅雨知らず。
帰宅したときに「今日学校どうだった?」という問いに、彼の「楽しかったよ」という一言を鵜吞みにしてしまったのだ。

学校にもうまく馴染めそう。病気も徐々によくなってるし、もう入院する心配もない。全てにおいて安心しきっていた。

なので、ゴールデンウイーク明けからの1ヵ月間は、なにごともなく過ごしていた…ように見えただけだった。



それが、月が替わって6月になり、急に先生から学校でのトラブルの電話がくるようになった。


学校からの電話って、ドキっとしますよね。
ケガでもしたんじゃないか。具合でも悪くなったんじゃないか。良いことで学校から電話がかかってくることはほぼないので、よくない電話だろうと容易に想像できた。


心臓をバクバクさせながら、電話に出てる。先生の声が、ワントーン低い。話しを聞くと、私が想像していた内容とは少し違った。

お友達の手がぶつかっちゃって、息子が泣いてしまった。
息子がお友達にちょっかいを出しすぎてケンカになり、謝りません。
などなど。


学校生活でよくあるお友達同士のトラブルだと思う。だけど、彼はそのトラブルの対処がうまくできなかった。

いつまで経っても泣き続けている。気持ちの切り替えができずに、授業も受けず、給食も食べずに、その場に固まってしまう。

最終的に、いつもこのパターンだった。


最初は、先生もどう対応したらよいのか困った様子で電話をかけてきた。

それが、3回、4回と回数が増えると、いつまでも泣き止まない息子の愚痴のような、どういう育て方をしているんですかと言わんばかりのキツイ内容に変わっていった。

それが多い時だと、週に3回。ほぼ毎日、仕事中でも、仕事終わりでも、しょっちゅうかかってくるようになった。


最初は、わたしも申し訳なく「そうですか、すみません」と、話を聞いていた。そして帰宅後、長男にそれとなく事情を聞いてみた。

彼も、その日学校で泣いちゃったことは、わたしには言わないですよね。わたしが帰宅すると、元気いっぱいに出迎えてくれ、学校ではこんな楽しいことがあったんだよと、教えてくれる。

先生の話と、真逆だ。変だな。聞いていたよりも、全然元気じゃん。

わたしは、混乱した。
どっちの話を信じたらよいのかわからなかった。 


今思えば、息子のから元気は、わたしへの気遣いだった。毎日仕事で疲れて帰ってくるわたしに、心配をかけちゃいけないって思ったのかな。

本当は、いっぱいいっぱいで、SOSを出したかったんだろう。

気づいてあげられなくて、ごめんね。


先生もよかれと思って、頻繁に電話をくださったのだと思う。

入学当初、わたしは先生に、息子は病気を患っているので、なにかあれば逐一報告をくださいとお願いしたので、気を遣ってくれたのだろう。


しかし、わたしは、そんな先生からの電話におびえるようになっていた。


いつまた先生から電話がかかってくるかもしれない。

今度は、息子はなにかやらかしたのだろうか。

どうやって、トラブルなく学校生活を送れるのだろう。

仕事中も、家に帰ってからも、1日中頭がいっぱいになる。仕事も家事も手につかない。


この状態が、一か月ほど続いた。

わたしは、少しノイローゼ気味になっていたと思う。

このころになると、わたしは、

「この子は、どこかおかしいのかな?」

「もしかしたら、発達障がいなのかな?」

「入学してまだ2ヵ月だけど、もう転校したい」

「学校が合わないのかな?」

「1年生でも通えるフリースクールってあるのかな」

なんて考えが、一日中頭をぐるぐる回っていた。

同時に、長男もとても不安定だった。うちでも些細なことで、よく泣いていた。

「そんなことで泣かないんだよ!」と、何度言っただろう。

違う。こんなことを言いたいのでない。でも、どんな言葉をかけたらよいのかわからず、途方に暮れた。

光が見えない暗い暗いトンネルに、入り込んでしまった気分だった。



そんな中、またいつものように先生から電話がかかってきた。ちょうど病児保育に預けていた次男を、迎えにいく途中だった。

スマホを持つ手が震える。

意を決して電話にでると、先生の息遣いが荒い。興奮しているのが、電話越しに伝わってくる。

今回の電話の内容は、授業中にお友達の手が息子に当たってしまったというものだった。お友達が謝ってくれたけど、息子がいつまでも泣いている。
気持ちを切り替えることができずに、給食の時間になってしまった。
教室で給食を食べることを拒否したので、職員室で食べるように促した。
しかし、職員室も嫌がったので、校長室で食べさせようとした。

こんな感じだった。

教室ならまだしも、職員室や校長室まで行くってことは、とうとう他の先生や校長先生にまで迷惑をかけちゃったか。

というか、そこまでして給食を食べさせなくてもよくないか?

先生の話を聞いて、だんだんイライラしちゃったんですよね。

そして、ついにわたしは、キレた。


いつもは、職場で電話に出ていたので、ある程度感情を押し殺せた。
しかし、今日は誰もいない車の中。積もりに積もった不安な感情を爆発させてしまった。

「こんなことで、いちいち電話をかけてこないでください!」

「なんで、息子がやられた方なのに、いつまでも泣いたくらいで、電話をかけてくるんですか?」

「先生は、うちの子がどこか変だと思ってるんですか?」

など、この1ヵ月間の不安を吐き出すように、泣き叫んでいた。

最終的に「うちの子、そういう子なんで!」と吐き捨て、震える手で電話を切った。


先生と大バトルがあった2日後。

せわしなく夕飯の準備をしているわたしに、長男がすすすーっと寄ってきた。


「あした、学校に行かなきゃだめ?…行きたくないなぁ」

と、ぽつっと呟いた。

「あ、とうとう言われちゃったな」と、長男がいづれそう言ってくるのではないかと薄々と感じていた。


わたしは夕飯づくりの手を止め、うつむいている長男の顔を覗き込む。

そして、すかさず
「うん、いいよー!よしっ、学校休んじゃおうか。あしたはママもお仕事サボっちゃおうっと。あ!そしたら、みんなでトイザらスに行かない?」と、努めて明るく振舞った。

長男のしょんぼりしていた顔が、ぱぁっと晴れていく。
「うん!いく!!」と、元気いっぱいに返事をしてくれた。

次の日は、たまたま旦那も仕事が休みだったので、ついでに次男も保育園を休ませ、家族4人でお出かけをした。

ちなみに、このお出かけ(といっても、近所のトイザらスに行くだけだけど)、実に半年ぶりだった。

病気で入退院を繰り返していた長男。運動制限もかかっていたので、この半年間、外出は近所のスーパーのみ。公園にも、ショッピングセンターにも行けなかった。休日は、ずっとおうちで療養していた。

そんな事情もあり、半年ぶりに家族みんなでのお出かけが、めちゃくちゃ楽しみだったのだろう。

わたしは、すぐに会社に連絡を入れた。正直に「長男が学校に行きたくないと言っています。明日は一緒に過ごしたいので、休ませてください」と伝えた。

「それは、いいね。最近大変そうだったもんね。一緒にいてあげてください」と、快く休ませてくれた。上司や会社に感謝である。


翌日、ワクワクが止まらない長男と、おこぼれラッキーで、突如大好きなトイザらスに行くことになった次男は、勢いよく車に乗り込む。

うちからトイザらスまでは、車で30分くらいかかる。

車の中では、いつもは大人しくDVDを見ている長男。

しかし、今日はずっと外を眺めては、
「あ、ママみて!ユニクロの看板がある!」
「あ、パパ、スシローがあるよ!!」
などど、田舎の子が急に都会に出てきたかのように、見るものすべてに感激しては、はしゃいでいた。

わたしたちにとっては、当たり前に通り過ぎるお店の看板も、ずっとおうちや病院にいた長男にとっては、全てが新鮮だったのだろう。

そんな長男の姿に、心がきゅっと締め付けられる。


感傷に浸っているうちに、トイザらスに到着。


一応、あのお決まりの忠告をしておこう。

「今日は、おもちゃは買いません」と、宣言するわたし。
「うん、わかってる」と、素直な長男。
「え~、なんでぇ~」と、拗ねる次男。

なにかしら買ってあげるつもりだったが、どんな反応をするかなと思って言ってみた。

仏頂面の次男は、さっそくアンパンマンのおもちゃを発見し、瞬く間に満面の笑みに変わる。

そんな次男のうしろに、こっそりマインクラフトのエンダーマンのぬいぐるみを隠し持った長男が現れる。


彼にとって、ぬいぐるみは大親友。
大好きなぬいぐるみをぎゅっと抱きしめると、心が落ち着くのだろう。その証拠に、うちには、数えきれないほどの彼のお気に入りのぬいぐるみたちが、ぎゅうぎゅうに鎮座してる。

やっぱりぬいぐるみを持ってきたのかと、微笑むわたし。

「仕方ないなぁ~今日は特別だよ」と、長男にこそっと声をかける。
「うん!でも、ママ、ゆっちゃん(弟)のも、買ってあげて?」と、これまたこそっとお願いをされた。

こういう自分以外のことにも、細やかに気を遣える優しい子なんだよなぁと心がじんわりした。

エンダーマンをレジでピッと通して、彼のもとへ。
お気に入りのぬいぐるみを買ってもらい、長男は大満足。

次男もおこぼれおもちゃのアンパンマンを買ってもらい、にっこにこ。


その後、お昼はマクドナルドでハッピーセットを食べ、フルコースのお出かけを堪能した。

はしゃぎすぎたのか、車の中で兄弟仲良くスヤスヤと眠ってしまったので、早めに帰宅。


夕飯のとき、長男の様子を伺いながら「あした学校どうする?」と聞いてみた。

すると、長男は「うん。明日は行くよ!」と元気に答えてくれた。

彼は気遣い屋さんなので、念のため「明日も休んでもいいんだよ?」と付け足す。

「ん~大丈夫。お友達と遊びたいし」と笑顔で返ってきた。

「そっか、ならよかった。また、学校行きたくないなって思ったら、いつでも言ってね」と、言葉を添えた。



問題が解決したわけではない。
だけど、学校を1日休んで、久しぶりにお出かけをして、たーっぷり充電し心が満たされたのだろう。

翌日は、いつも通り学校に行った。

その日以降、彼は「学校に行きたくない」と言うことはなかった。




トイザらスへのお出かけから、数日経ったころ。
わたしは、長男の繊細な性格についてドンピシャに書いてある、とある本に出合った。

「HSCの子育てハッピーアドバイス 著者:明橋大二」
長男のような繊細な子を育てるママ向けの本だ。
(HSCというのは、HSP繊細さんの子どもバージョンを指します)

本の内容は、繊細な子どもの特徴を、これでもかってくらいに的確に書かれている。まるで長男をカメラで観察したのかなと思うくらいだ。
また子どもの繊細な性格を考慮した育て方のコツや声のかけ方が、優しい言葉で綴られている。

わたしの中でうまく言語化できなかった、彼の繊細さに対するモヤモヤや悩みに対するアドバイスが豊富に載っていた。

そしてこの本の最大の特徴は、巻末に学校の先生向けのページがあることだ。

学校に行けなくなる不登校や、行き渋りがある子には、長男のような繊細な子が多い。そんな繊細な子には、学校の先生の理解が重要だ。ということで、この本では、先生向けに学校での繊細な子に対する対応が細かく記されている。このページをコピーして先生に渡してもよい、というありがたい心遣いまで盛り込まれている。


これだ!と思った。

ちょうど夏休みに入ってすぐ、大バトルをした担任の先生と個人面談がある。とんでもなく顔を合わせずらいが、ここで逃げちゃダメだ。きちんと向き合う良い機会だ、と自分に言い聞かせる。この本の先生向けのページをコピーしてお渡しして話し合おう。そう決めた。


個人面談当日。
先日の大バトルについて、なかなか謝罪することができずにいたわたし。先生も、表面上は穏やかに見えるが、あまり目を合わせてくれない。

面談も終盤に差し掛かる。
意を決して、おずおずと本のコピーを渡しながら、
「この間は、本当にすみませんでした。
これ、息子の繊細な性格について書かれている本で…
こんな感じで、学校でも対応してもらえるとありがたいです」
と、おどおどしながらも、最低限伝えたいことは言えた。

コピーにじっくり目を通してくれた先生は、
「たしかに、けーちゃん(長男)は、ここに書かれている通り繊細さんですね。うんうん。こんな感じで対応すればよいのですね。よくわかりました。
この資料はとても参考になるので、他の先生と共有してもいいですか?」
というお言葉をいただき、先生間でもシェアしてくれることになった。

やっと、わたしも先生も笑顔を見せた。

出口の見えないトンネルに、光が差した瞬間だった。

あとがき


子どもを産んだとき、まさか我が子から「学校に行きたくない」と言われる日がくるなんて、夢にも思わなかった。

だけど、育てていくうちに、だんだんと雲行きがあやしくなった。

こんなにも繊細だから、いつか学校に行きたくないって言うんじゃないか、とある程度心の準備はしていた。


だから「学校に行きたくない」と言われたら、仕事を休んで長男と一緒に過ごそうと心に決めていたのだ。

もしあのとき、わたしが一瞬でも「うーん」と困った顔をしたり、「学校に行きなさい」と諭していたら、きっと彼は従っただろう。そして「学校に行きたくない」と言わなくなっただろう。もう二度とわたしに、SOSを出すことをしなかったかもしれない。

空気を読む子なので、わたしの顔が少しでも曇ると、心配かけたくないと思ってしまうのだろう。SOSを出す場所を失って、彼の心が限界になるまで、ムリして学校に行っただろう。

彼のSOSを、すぐに受け止めることができた。
学校を休んで、心の充電ができた。
いつでも休んでいいよと、逃げ場をつくってあげることができた。
学校に掛け合って、先生の協力を得ることができた。

このことが、彼にとってはよかったのかもしれない。


今回、わたしと長男との奮闘記を記すことで、同じように繊細な子を育てている方の役に立てたらいいなという思いで、ちょっと、いや、かな~り恥ずかしいのですが、赤裸々に書いてみました。

もしも、お子さんから「学校に行きたくない」と言われたら、その時どんな言葉をかけてあげるか、どう寄り添ってあげるか、あらかじめ心の準備をしておくとよいと思います。

学校にも、遠慮せずに本気でぶつかってみるのも、ひとつの手かと。
わたしは熱くなりすぎちゃったので、わたしを反面教師にしてもらえれば嬉しいです。先生に我が子はこういう性格なので、こういう風に対応してほしいと、冷静に伝えてみてください。

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