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みんなと同じことが出来ない息子を責めて、目の前で号泣した話


「子どもは、一人ひとり違う」


んなこたぁ、わかってる。


でも、比べちゃいけないと思いつつ、無意識のうちに比べている。

初めての子育てなら、なおさら。


わたしも例に漏れず、息子と周りの子を、よく比べていた。

「これはできる。これはできない」
こんな風に。

なにが正解なのかわからないわたしには、この方法でしか息子の成長度合いを判断することができなかった。

子育てに正解なんてないのにね。今ならわかるけど。


当時は、息子と周りの子を比べることで、安心していた。

いや、安心したことなんて、なかった。むしろ不安だらけだった。


「周りの子どもたちが普通にできることが、うちの子はできない。」

わたしは、この呪縛にかなり苦しめられた。

「うちの子は、どこかおかしいのでは…」と何度も疑った。

これからするお話は、そんな不安の渦中にいたわたしと息子の話。

わたしには2人の子どもがいる。

長男、けーちゃん。8歳、小学3年生。
次男、ゆっちゃん。4歳、年中さん。

今回のお話の主人公は、長男のけーちゃん。

長男は、とても繊細でガラスのハートの持ち主。
優しくて、穏やかで、マイペース。

今思えば、わたしのお腹の中にいるころから、とんと~んと、やさし~くお腹を蹴るヤツだった。

おとなしくて、手がかからない。「男の子のママってめちゃくちゃ大変」というイメージを、見事にぶち壊してくれた。

ただ、おとなしすぎて大丈夫かなと、思ったことが何度もある。

最初にそう感じたのは長男がまだ1歳のころ。

わたしは、おとなしい長男とは正反対で、とてもアクティブだ。子どもと一緒に参加できるイベント、ベビーマッサージやリトミック、絵本の読み聞かせ会など、イベントというイベントすべてに参加し、長男を連れ回していた。

で、毎回頭を悩ませることがある。


イベント会場に入れないのだ。

長男は、初めての場所をものすごく嫌がった。

会場の入口で立ち止まり、泣いてしまう。なかなか中に入れない。会場の中から、どんなに楽しそうな声が聞こえても、どんなに先生からやさしく声をかけられても、わたしの膝を掴んで動かない。

「せっかく来たんだし、お友達も待ってるからやろうよ~」と誘っても、岩のように動かなかった。ちょっとしたお地蔵さんのようだった。

わたしは、諦めて帰ればいいのに、イベントが終わるまでは、たとえ一度も会場の中に入れなくても帰ることをしなかった。

息子は、本当はやりたいのかもしれない。
会場の中の雰囲気をみて、ここは楽しいところとわかれば、最後の方だけでも参加できるかもしれない。

そんな思いだった。

だけど、実際は会場の外で、ぽつんとふたりきり。楽しそうにはしゃぐお友達を、息子とぼんやりと眺めるしかなかった。

毎回、わたしの心はざわついた。

「他の子は、すんなり会場に入れる。なんの躊躇もせずに参加できる。しかもすごく楽しそう。なのに、なんでうちの子はそんな簡単なこともできないの?」という思いだった。

イベントが終わると、お友達や先生が「次は、きっと参加できるよ」と励ましてくれた。


わたしは、いつも惨めな気持ちになった。

そんなことが続いたある日。

わたしは一度だけ息子に対して、ガチギレしてしまったことがある。


それは、彼がもうすぐ4歳になるころだった。

わたしは、二人目を妊娠していた。これからどんどんお腹が大きくなる。下の子が生まれるとイベントにもなかなか参加できない。

そこで、息子とふたりで参加できるのはこれが最後と「親子体操教室」というイベントに参加してみた。


正直、彼は体を動かしたり、走ったりするのは好きではない。

本人に「やってみる?」と聞いてしまうと、絶対に「やらない」と即答されてしまう。なので、彼にはイベントの内容を当日まで教えなかった。



一抹の不安を抱えつつ、親子体操教室の当日。
車で30分かけて、公民館へ向かう。集合時間ギリギリに到着した。


教室の中をちらっと覗くと、5,6組の活発そうな子どもたちとパパやママがいた。準備運動したり、走り回ったり。始まるのを今か今かと待っていた。

ほどなくして、子どもたちよりもさらに元気な先生が登場。「おはよー!」と、大きな声であいさつして回っている。


「あれ…うちの子、大丈夫かな…」と、さらに不安が募る。

雰囲気を察したのか、少しずつ顔が曇る息子。なんとか運動シューズを履かせ、重くなった手を引いて教室の入り口へ。

後ろを振り返り「今日は、ここでママと一緒に遊ぼ…」と言い終わる前に、

「いやぁぁぁぁぁぁ!ヤダ!入らない!!
けーちゃん、おうちかえるーー!!」と、泣き出した。


イヤな予感は的中した。

一気に周りの視線を浴びる。


うぅ…これはヤバイやつだ。今までにないくらい嫌がってる。と、わたしはかなり動揺した。一瞬このまま連れて帰ろうかなと思った。


しかし、今回はきちんとお金を支払って参加するイベント。無料だったら、もしかしたら諦めて帰っていたかもしれない。でも、たった800円だが、お金を払う以上やすやすと帰れない。

とりあえず、いつものように教室の外から見学することにした。

教室のなかでは、一人ひとり元気よく自己紹介をしている。みんな息子と同い年の子ばかりだ。

恥ずかしがらずに、自己紹介できるんだな。えらいな。
うちの子は、自己紹介すらできないだろうな。

少し心が重くなる。


みんなはさっそく体操を始めた。忍者の動きを取り入れた体操は、子どもたちもすぐに覚えることができて、とても楽しそうだった。

「きゃはは!」と、子どもたちの笑い声が響き渡る。
「がんばれー!」と、パパやママの声援も聞こえる。


先生が駆け寄ってきて「けーちゃんも、いっしょにやろう!」と声をかけてくれた。


息子は微動だにしない。


10分



20分




30分経っても、動かない。


みんなが楽しく体操をしている間、彼はじーっとみんなの様子を見ていた。


一方、わたしは
「なんで、うちの子はいっつもこうなんだろう。
なんで、他の子が普通にできることができないんだろう。
こういうイベントにふたりで参加できるのは、今回が最後かもしれないのに…」
と、いつものようにイライラしていた。

とうとう我慢のピークに達して「やらないなら帰ろう!」ときつく言ってしまった。
息子は「うん」と小さくうなずいて、あっさり運動シューズを脱ぐ。


先生に「すみません。今日は参加できないみたいです」と声をかけて、その場を離れた。


あぁ、そんなにイヤだったのか。
しょんぼりしながら、公民館の出口まで歩く。息子もおずおずと、わたしのあとについてくる。

すると、彼が「やっぱり、やる」と小さな声で呟いた。
「え!やるの?ほんとうに?」と、驚きながら後ろを振り返る。
「うん、できる」彼はうつむきながら答えた。


腕時計に目をやると、残り時間は10分しかなかった。
わたしたちは、走って教室に戻った。

大急ぎで教室に戻ると、息子は「やっぱり、やらない」とわたしの腕を引っ張った。


ここで、わたしはとうとうキレてしまった。

「あんたがやるって言ったから、戻ってきたんでしょうよ!

なんなの?なんで、みんなと同じことができないの!!」

と、周りにたくさんの人がいることも忘れて、息子を責め立てた。

そんな様子を見ていた先生が、慌てて止めに入ってくる。


「お母さん、怒らないでくださいね。最初は、みんなと一緒にできない子も多いんですよ。ここで怒っちゃったら、けーちゃんはもう行きたくないってなっちゃいますよ」

わたしは、先生の顔を見ることも、返事をすることもできなかった。

「けーちゃんは、みんなの様子をじっと見てよく観察していましたよ。次はきっと参加してくれますよ。次回は、再来週の土曜日ですからね。お待ちしてますよ~」

わたしは、今にも溢れそうになる涙をぐっとこらえた。
喉がカーッと熱くなり、言葉がでなかった。

息子の手をグイッと引いて、急いで外に出た。無言のまま、車に乗り込む。


そして、息子にブチ切れた。

「なんであんたは、むかしっからそうなの?

なんでみんなが普通にできることができないの?

あんたが、やっぱりやるっていうから戻ったんでしょうよ!

やりなさいよ!!もう二度と連れて来ないから!!!」

と言い放ち、大号泣。


先生からのアドバイスを、素直に受け取れなかった。ものすごく惨めな気持ちになっちゃって。今まで溜めていたイライラやモヤモヤを、全部吐き出すように息子にぶつけてしまった。


息子も
「ごめんなさい。うぅぅごめんなさいぃぃ。うわぁぁぁぁぁん!」
と、それはそれは大号泣。

車内はカオスだった。2人とも、泣いて、叫んで、地獄絵図のようだった。


涙で前が見えないとよく言ったものだ。
事故だけは起こさないようにと運転したが、正直どうやって家までたどり着いたのか、覚えていない。


家に着くころには、少し落ち着つき、ふたりとも鼻をスンスンとすすりながら、玄関のドアを開ける。

家で待っていた旦那が、元気のないわたしたちを見て「どうしたの?」と声をかけてくれた。

「んー。ちょっとけーちゃんとケンカしちゃって…」と、詳しくは話さなかった。どうせわたしが責められるのだろうから。

わたしも息子も一日中ずっとしょんぼりしていた。

ここで問題がひとつ。いや、本当はひとつどころじゃないけど。

今回の親子体操教室は全4回。あと3回もある。

2週間後の土曜日に、もう一度体操教室に連れて行くべきか。

それはもう、めちゃくちゃ悩んだ。


数日経ったころ、息子にそれとなく聞いてみた。

「けーちゃん、あの体操教室さ、今度の土曜日にまたあるんだけど、行く?」

悩むかなと思ったけど、息子はすぐに「いかない」とうつむいた。

あぁ、やっぱりわたしが、がっつり怒っちゃったから、イヤになっちゃったんだな。先生の言う通りだったな。怒っちゃダメだよと言われたのに。わたし、なにやってるだろう。と、心がぎゅーっと締め付けられた。


どうしよう…

息子の意見を尊重して、もう行かないか。
でも、次は参加はできなくても、教室の中には入れるかもしれない。


うーん…

答えがでないわたしは、一応旦那に相談してみた。

すると、旦那はあまり興味がなさそうに「そんなに嫌がっているなら、辞めちゃえば」と、あっさり言った。

そうだよネ。あなたはそう言うと思ったヨ。


だけど、それじゃあ、息子はなんの成長もしなくない?

イヤなことや苦手なことがあったら、また逃げちゃうんじゃない?

諦めるのは簡単だ。

でも、それは本当に息子のためになるのだろうか。


さんざん悩みに悩みまくった。

そこで、わたしは保育園の先生にも相談してみることにした。
旦那とは違って、先生はわたしの目を見て、しっかり話を聞いてくれた。

「そんなことがあったんですね。
たしかに、けーちゃんは苦手なことがあると、参加せずにお友達のことをじっと見てますね。そのままやらずに終わることも多いです。だけど、一緒にやるときもあるんですよ。
もう一度だけ連れて行ってみてはいかがですか?
むりに参加させようとせず、見学だけしてみてはどうですか?」

と、アドバイスをいただいた。

そっか。保育園でも同じだったんだ。初めて知った。

先生のアドバイス通り、やっぱりもう一度だけ連れてってみよう。
そう心に決めた。


2回目の親子体操教室の当日の朝。

息子に「もう一度だけ体操教室に行かない?今回どうしてもイヤだったら、次はもう行かなくていいからさ」とやさしく声をかけた。

彼は、小さくうなずいた。
わたしは、すこしホッとした。

参加できなくても、責めない、怒らないと、何度も心の中で唱えながら、公民館へと向かった。

きっと、たくさんの知らない子がいる教室に入るのも苦手なのだろう。前回の反省点として、今回は一番乗りで会場に入れるよう20分くらい早めに家を出た。

教室の前までは、すんなり行けた。
運動シューズを履くのを、少し嫌がった。


そして、教室の入口へ。

パタッと足が止まる。


やっぱり、だめか…と諦めかけたその時。

「けーちゃん、今日も来てくれたんだぁ。うれしいな~」と、先生がそっと声をかけてくれた。


すると、息子の不安そうな顔が、キリっと変わる。
意を決して、教室に足を一歩踏み入れた。


まだお友達がだれも来ていないことを確認して、安心したのだろう。すすすーっと、教室の一番うしろの端っこにちょこんと座る。


おぉ!がんばって教室に入れた!!すごい!!

この時点で、すでに泣きそうなわたし。

「えらいね!今日は、教室の中に入れたね、すごいね!!」と、いっぱいいっぱい褒めてあげた。


その後、続々とお友達が教室に入ってくると、息子の顔はまた少しこわばった。


期待と不安が入り混じるなか、2回目の体操教室が始まった。

相変わらず、先生もお友達も元気いっぱいに動き回る。


一方息子はというと、参加せずにこれまたじーっとみんなを観察してる。

そんな息子の様子を見て、気がついた。

「あぁそうか。この子は、初めての場所だけじゃなくて、初めてやることも苦手なんだ。どんなことをやるのか、自分にもできそうなのかを、じっくり観察して判断しているんだ」

その証拠に、自分ができそうな動きのところだけは参加する。できないと判断したものはやらない。もしくは「ママと一緒にやる」と言い、わたしの手を引いた。

そっか。そうだったんだ。
わたしは、周りしか見てなかったんだ。他の子と比べて、彼のできないところばかりを探しては、責めて。彼自身を、しっかりと見てあげることをしなかった。

息子には、息子なりの考えがあったのだ。彼が自分でいろいろと考えて行動しているなんて、思いもしなかった。

わたしは、猛烈に反省した。


その後、どうなったかというと…

途中何度か「ママ一緒にやろう」と言われたが、その回数がだんだんと減っていった。

最初は表情が固かったけど、慣れていくにつれて笑顔が増えた。



最終回の4回目の体操教室では、なんと最初から最後までひとりでやり通すことができました!


慣れるまでに、他の子の何倍も時間がかかったけど、これが息子のペースなんだね。やっと彼を理解できた瞬間だった。


体操教室の最後のお別れのとき。


先生から
「けーちゃん、あなたが一番成長しましたね。
最後まで来てくれて、本当にありがとう。
よくがんばりました!」と、褒めていただいた。

息子ははにかみながら、わたしの膝に顔をうずめた。

「お母さんも辛抱強くお子さんを信じて、連れてきてくれましたね。素晴らしかったです。お母さんもけーちゃんも、とっても成長しましたね!」と、息子とおなじように褒めてくれた。

わたしは、涙がこぼれないように堪えながら、頭を下げた。



いつもより背筋をピシと伸ばしながら歩く息子の手を取りながら、早足で車へ乗り込む。


そして、わたしは堪えきれずに、また号泣した。

なぜ泣いているのか理解できない息子は、キョトンとしていた。

以上が、わたしが息子に、みんなと同じことが出来ないことを責めて、目の前で号泣した話だ。

普通の子にとっては、なんてことない楽しいイベントも、わたしたち親子にとっては、高い高いハードルを乗り越えたイベントとなった。


その後わたしは、息子と周りの子を比べることは、めっきり少なくなった。できないことや時間のかかることも多いけど、この子はこの子と思えるようになった。


そして、この一件からまもなくして、次男が誕生。

長男とは真逆で、独自のスタイルを突き進む次男は、もう比べる比べないの次元ではなかった。

あんなに周りと比べて、悩み苦しんでいた日々は、いったい…

まぁそれもこれも、長男とわたしの号泣事件があったおかげだ。


先日、小学生になった長男が「ぼくはお友達と比べて、かけっこが遅いし、跳び箱は飛べないし、なわとびもできないし…」と、うじうじ悩んでいた。

わたしは
「けーちゃんは、たしかに運動系は苦手だよね。でもさ、理科とか算数とかは得意じゃん。それでよくない?人には、得意不得意って必ずあるんだよ。お友達と比べても、なーんの意味もないよ」と励ます。


すると「あ、そっか。ママ、いいこと言うね~」と、安堵した表情になる長男。

えらそうな事言ってるけど、これは全部キミが教えてくれたんだよ。

「ありがとね」と、思わず声がでた。

「え、なにが?」と、訝しむ長男。

「なんでもないよ」と、微笑むわたし。



これから先も、きっとキミは人と比べては、悩むだろう。
そんなときには、今回のこのお話をキミに送ろう。
同じことに悩んだ先輩として、キミの道しるべになれるといいな。

そんなことを思いながら、すっきりした表情の長男の頭を、ぐしゃぐしゃに撫でまわした。




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