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品質管理人

「今日って時間とれる?」

出社して開口一番上司からこんなことを言われた。

何かお願いされるのだろう、そう思いながらぜんぜんいいですよ~と適当な返事をする。

少しして渡されたのは大きなバケツと当時勤めていたメーカーの泡ハンドソープ。

「このハンドソープのポンプをひたすら押してほしいんだよね、25000回くらい」

結局その日僕は大きなバケツに山盛りの泡を何度も作り、10年分の泡プッシュを一日で経験することとなった。

品質管理

大学を卒業後、僕は2社の勤め先を経験している。

1社目は化粧品メーカー、2社目は現在勤める製薬メーカー。
2社とも所属は品質管理部。

大学が化学系だったこともあり、そして僕自身化学、とくに有機化学が好きなのでいまだに好きな分野で働けていることは非常に幸運なことだとおもう。
とはいえ別に、研究者のように日々化学について研究しているわけではない。

化粧品や製薬メーカーの品質管理は化学に携わる部分が多いだけで実際のところその業務内容は多岐にわたる。

そもそも品質管理とは何をしているのかといえば、製品の品質を維持したり、向上させるために分析や検査、改善活動をする。

分析や検査は化学的な分析機器を使うこともあれば、わかりやすくフラスコをくるくるさせることもあるし、微生物試験だってする。

製品の外観検査や資材の検査だって品質管理の仕事だ。

さて、冒頭のハンドソープ25000回は1社目の化粧品会社での出来事だった。

化粧品と聞くといわゆる口紅やファンデーションなどお化粧に使う製品が思い浮かびがちだが、メーカー的に化粧品とはもっと広い範囲をいう。

たとえばシャンプーも化粧品だしボディミルクも化粧品だ。

詳しくは「薬機法 化粧品」とかで調べれば定義が出てくるがそんな話をここでしても面白くないと思うので割愛する。

話を戻すと、ハンドソープの25000回はクレーム起因の耐久テストのためだった。

よく物の耐久性を宣伝するため「10万回の耐久テストを実施!」なんて広告を見るけどおおよそそんなところである。

ただ、普通そんな耐久テストは機械がやるし、そもそもたかだかハンドソープのポンプでそんな売り文句のために耐久テストはしない。

仮に品質試験としてやるなら、それは化粧品メーカーではなくポンプメーカーが行うことだ。

しかしこの時は自社製品のクレーム対応としてポンプを新しいものに変更していた。
クレーム報告書に「実際の使用シーンを想定して人が耐久テストしたよ~」なんて記載するためにわざわざそんなことをするはめになったのだ。

と、こんな感じで品質管理はクレームの調査や対策をしたりもする。(この管轄は会社によると思うけど)

1社目の化粧品メーカーは扱っている製品は名が知れているものだったけどいわゆるその一部部門を担当している子会社だったため会社自体の規模はそこまで大きくなかった。

だからこそ分析機器を用いた試験から、理化学試験、微生物試験、生産不具合やクレームの原因究明・対策などかなり幅広い業務を経験することができた。

とくに市場からあがってくる謎クレームや生産時に起こる謎不具合の原因究明はなかなかに面白い。

急に粘度が爆上げするジェル、白くてさらさらした結晶が析出する泡ソープ、何気ないある条件でだけなぜか分離するクリーム

社内ではもはや事件ともいえる様々な出来事の原因究明と対策をした。
化粧品メーカーには5年ほど勤めたがわりと濃い日々を過ごせていたと思う。

さてそんなこんなで化学的物理的微生物的分析をする品質管理だけど、品質管理における分析といえばもう一つ、というかむしろ品質分析というとこちらのほうが主とまでいえることがある。

それが統計的手法だ。

統計的手法

品質管理検定というものがある。

あまり知られていないが品質管理の人や製造メーカーで働いている人であれば一度は聞いたことがあることだろう。

僕も一応2級は所持している。

製品の品質を保つうえで最も難しいことは何か。

それは結局製品をひとつひとつすべて検査することはできないということにある。
要するに1日10000個製品をつくったとしても、10000個をひとつひとつ検査していてはとても時間が足りないのだ。

だからこそ品質検査は全数に対してするのではなく10000個に対してある程度の数、たとえばランダムに200個抜き取ってそれを検査し全体の品質を予測する。

これを抜き取り検査なんていうけれど、結局これはあくまでも予測に過ぎない。
それゆえまれに不良品が存在してしまう。

誰しも何かを買ったときそれが不良品だったなんて経験はあると思う。
それだって全数検査をしていれば不良品ははじかれるわけで。

各企業工夫してカメラや人の手で全数検査をうたっているところもあるが実際それは気休めに過ぎず、完全に不良品を検出できるような検査を全数に対して行っている企業は少ないだろう。

不良品を完全に検出できるちゃんとした検査をするなら結局抜き取り検査になってしまう。

抜き取り検査に限らず、品質管理において予測から結論を出すことは多々ある。

だからこそ予測の仕方は非常に重要であり、その精度を高めるために使われるのがこの統計的手法である。

統計的手法はいろいろあるが基本的なところでいえばQC7つ道具。

と、ここまで書いてふと思ったが、この話っていったいどこに需要があるのだろう。
個人的に品質管理ってすごく面白い職種だと思っているから、紹介したい気持ちはあるけれどついついオタク気質から普段聞き慣れないような単語を並べてしまった。

反省しつつやっぱり僕は品質管理がすきだから次は統計的手法についてもう少し話そう。
需要は自分。この精神は大事である。




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