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【取材記事】合皮原料をサステナブルへ 110年の技術を基盤に世界トップシェア化学メーカーが挑む環境配慮型の製品開発

DIC株式会社は、印刷インキ、有機顔料、PPSコンパウンドで世界トップシェアの化学メーカー。1908年印刷インキの製造と販売で創業し、その基礎素材である有機顔料、合成樹脂をベースとして、自動車、家電、食品、住宅など様々な分野へ事業を拡大し、現在、世界の60を超える国と地域にグローバルに事業を展開しています。
今回は我々の身近な製品に使われる靴やバッグ、車のシートなどの合成皮革や人工皮革、接着剤などの新原料である、環境配慮型「水系ウレタン樹脂」製品「HYDRAN™GPシリーズ」開発の経緯や困難、製品の特徴を中心に、グループが目指すサステナビリティについて小寺さん、鈴木さん、亀山さんにお話を伺いました。

【お話を伺った方】

小寺 保貴様
パフォーマンスマテリアル製品本部Nプロジェクト プロジェクトリーダー

鈴木 悠太様
パフォーマンスマテリアル製品本部Nプロジェクト 兼 ウレタンレザー材料営業グループ

亀山あゆみ様
コーポレートコミュニケーション部


■合皮素材をサステナブルにシフトする技術チャレンジ

mySDG編集部:御社のご紹介からお願いいたします。

亀山さん:弊社は「大日本インキ化学工業株式会社」という社名でしたが、グループ企業の連携強化とグローバルで認知される企業を目指し、2008年に創業100周年を迎えたことを機に社名を「DIC株式会社」に変更しました。

現在は本社を中央区日本橋に構え、グループとしては国内30社、海外160社、全体で190の会社がございます。現在の連結売上高は1兆円を超え、世界全体で2.2万人の従業員を有します。事業内容としては印刷インキが祖業になりまして、印刷インキ、有機顔料、合成樹脂などの製造・販売をしています。印刷インキ、有機顔料、PPSコンパウンド(高機能樹脂)は世界でトップシェアの製品になっております。

mySDG編集部:100年以上の歴史がありつつも、常に漸進的に事業を拡大されて来られた企業様ですね。1962(昭和37)年にオーストラリアのインキ製造会社へ技術供与をされ、海外に商圏を広げられたのも早いですね。

創業以来、常に世界のニーズにいち早く対応されてきたのだと思いますが、今回新開発された「HYDRAN™(ハイドラン)GPシリーズ」も、今、世界中で急務とされている環境保護に対応する製品なのですよね。

小寺さん:はい。当社は「2050年度カーボンネットゼロ」を標榜しておりまして、CO2の排出量を持続的に削減していくためにさまざまな環境対応製品の拡充を行っています。その中の一つとして今回の製品を開発しました。

従来、当社のポリウレタン事業は「溶剤系」を中心に製造販売していましたが、お客様から環境対応型製品の要望があり、新しい樹脂製品の開発に着手しました。

小寺さんポリウレタン樹脂は柔軟性や強度、耐摩耗性、耐薬品性、耐光性などの優れた特性を持つ樹脂で、合成皮革・人工皮革に使用されています。用途としては、靴や自動車のシートや家具、カバンなどです。

合成皮革・人工皮革は、布地の上にポリウレタン樹脂を塗り、天然の革に似せて作っているのですが、このポリウレタン樹脂が、今回開発した「HYDRAN™GPシリーズ」です。

mySDG編集部:いわゆる合皮ですね。私も合皮の靴やカバンを持っています。環境対応をした合皮の原料を開発したということですか?

小寺さん:そうですね。「水系」ポリウレタン樹脂の「HYDRAN™GPシリーズ」は、ポリウレタン樹脂を水媒体に分散させた材料で、「溶剤系」に比べVOC(揮発性有機化合物)が少ないのです。

環境対応が進む欧州や中国も含め、各国は「溶剤」に対する環境規制の強化が進んでいますので、今後世の中は、健康や環境に配慮した水系ポリウレタン樹脂への移行が進むでしょう。こうした環境対応へのニーズが非常に高まっていることが開発の背景になります。

■環境配慮型「水系ポリウレタン樹脂」HYDRAN™GPシリーズ

mySDG編集部:環境配慮型製品への要望は、海外からのお客様からが多いのですか?

鈴木さん:「HYDRAN™GPシリーズ」に関しては、合成皮革・人工皮革をターゲットにしている製品で、日本のお客様からの要望はもちろん、欧州、中国等の海外のお客様からも多数要望を頂戴しています。

mySDG編集部:新しい試みの製品とのことですが、開発期間はどれぐらいかかったのですか?

鈴木さん:難しい製品ですので、かなり時間がかかりました。5年以上前から一番最初の基礎の部分を研究し、進めていました。従来の技術を用いた開発ですと、半年〜1年ほどの開発期間ですが、今回はかなりチャレンジングな目標設定をした上での開発でしたので長期間要してしまい、今年やっと製品になりました。

mySDG編集部:環境配慮型の「HYDRAN™GPシリーズ」は従来の液状ウレタン樹脂と、どのような違いや特徴があるのでしょうか。また開発にあたって困難はありましたか?
 
鈴木さん:我々が今回ターゲットにしてる液状ウレタン樹脂は、合成皮革あった人工皮革に加え、塗料、接着剤などにも使われていて、従来は「石油系溶剤」に溶かしているものが主流でしたが、人体への健康的な問題と、燃焼させるとCO2が出てしまうという課題がありました。

そこで水にウレタン樹脂を分散した「水系ポリウレタン樹脂」にニーズが集まるのですが、水系ウレタン樹脂は、風合い、屈曲性、耐加水分解性、保存安定性など一部の性能面で溶剤系に劣るといった課題があり、さらに含有するアミン系物質の影響で臭気にも課題がありました。

例えば、新車に乗るとはじめに匂いが気になることがありますよね。従来品では、その匂いの大元になるような原料を使わないと樹脂が作れなかったんですが、「HYDRAN™GPシリーズ」は、溶剤も使わないですし、匂いになる原因の元も使わず、健康面と気分面でも不快だった部分を解決しました。
この課題解決はとても難しいことだったのですが、水系ウレタン樹脂の性能面での課題も解決した上で、さらにバージョンアップしたものを開発することができました。

mySDG編集部:その他、特徴はありますか?

鈴木さん:その液体の中に入っているウレタン樹脂量が多いというのが特徴です。従来の溶剤系ウレタン樹脂は、1キロの溶液に大体、溶剤:70%、ウレタン樹脂:30%の割合だったんですね。従来の水系ウレタン樹脂は、おおよそ水:65%、ウレタン樹脂:35%になるんですけれども、今回はウレタン樹脂の濃度を50〜60%に上げることができました。

例えば、1回の製造で製品が1キロできるとします。ウレタン樹脂を100%換算で1キロ生産するには、樹脂濃度が35%であれば3回製造が必要なところ、今回のものは樹脂濃度が50〜60%なので製造が2回で済む。

固形分が高い分、生産回数を減らせ、エネルギー消費やCO2排出の削減にも繋がります。これは性能そのものとは別の特徴であり、付加価値です。

mySDG編集部:開発時に最も難しかったことや課題だったところはありますか?

小寺さん:合成皮革の風合いや、長期間の使用を可能にするため、空気中の湿気や水分に影響を受けて分解反応が起こることを防ぐ、耐加水分解性など全てをバランスよく作ることが難しかったですね。

mySDG編集部: 使用後についてなのですが、役目を終えたウレタン樹脂はリサイクルできるのですか?

鈴木さん:ウレタン樹脂はリサイクルシステムがまだ確立されていません。現在では最後に残ったものは焼却処分になります。
ウレタン樹脂の特性上、耐久性が必要な部分に使われることが多いので、耐久性があると丈夫なために再利用がしにくい。化学製品のリサイクル例をあげると、ポリエステル繊維の洋服などは販売店などで回収して、再利用をするシステムが出来上がっています。
ウレタン樹脂は今後どのようにしていくのか。耐久性がありつつ、リサイクルのできる素材の開発が今後の一番の課題です。

■サステナビリティ戦略を着実に進め、グローバル規模でゴールを目指す

【 DIC株式会社グループにおける太陽光発電の導入事例(左:東北工場 右:中津工場)】

mySDG編集部:DIC株式会社として、今後の展望や目標をお聞かせください。

亀山さん:長期計画ではサステナビリティ戦略を立てております。一つの目標は冒頭に申し上げた「2050年カーボンネットゼロ」です。そのゴールを目指し「2030年までにCO2の排出量を50%削減」の途中目標を設けています。

もう一つは2030年までにサステナブル製品の売上高比率を60%に引き上げることです。2020年の時点では40%なので、20%引き上げる目標設定をしています。グループ全体で、サステナビリティの取り組みを加速しているところです。

今回は樹脂製品に限ったお話でしたが、顔料や印刷インキの事業も含め、全ての事業においてサステナビリティ製品を増やしていく計画で動いております。

mySDG編集部:具体的に着実に実行されており圧巻でございます。海外支社でも同じように取り組まれているのでしょうか?

亀山さん:はいそうですね。特にアメリカ・欧州に拠点を持つ、弊社グループ会社のSun Chemical社と連携しながら取り組みを進めております。特に欧州においてはその環境規制が日本以上に厳しいので、サステナビリティ製品に関するニーズも高いんですよね。中国も環境規制が厳しくなってますので、グローバル規模での取り組みになっています。

mySDG編集部:各国に支社がある御社視点からご覧になり、海外のサステナビリティに関する取り組みに関して、日本との違いを感じるところはありますか?

小寺さん:世間一般の方がおっしゃるように、日本よりも欧州の方が進んでいるなと感じます。また、中国に関しては溶剤系の設備投資が国からの認可が下りにくくなり、水系化へと加速する方向に進んでいます。中国は環境対応について国をあげて急速に進めている印象です。

我々の今回の製品のお客様は合皮メーカーなのですが、その先にいる自動車メーカーは環境対応に対して様々なアプローチを検討されていますが、合皮素材に関して言えば日系よりも欧州メーカーの方が若干意識が高いと感じますし、アパレルでもやはり欧州メーカーの環境対応が進んでると感じます。

mySDG編集部:今後、サステナブル製品開発を計画している製品はありますか?

小寺さん:水系ウレタン「HYDRAN™GPシリーズ」に関しては、今は合成皮革、人工皮革が中心ですが、ウレタンの用途としては接着剤や塗料など、他にも大きな市場があるので、これから用途を広げていきたいと考えています。

mySDG編集部:本日は貴重なお話をありがとうございました。


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