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「昔々のTGV」1990年3月(アンジェ~パリ~アヴィニョン~ニース~パリ):「TGV(フランス高速鉄道)乗車記録」 プロローグ

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(左)パリへ向かうTGVがニース=ヴィル駅のホームに入ってきたところ。
(右)現在のTGVは全席禁煙だが、当時は喫煙席と禁煙席があった。

*本文中に、写真はありません。
*駅や列車の設備、システムなどは、ひんぱんに変更されます。
記述内容は、あくまでも乗車当時のものであることをご理解ください。
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手元に、一枚の写真がある。古い、古い写真だ。

1990年3月の日付が入ったこの写真で、私は同級生とふたり、うれしそうに笑っている。
背景には、かすかに「アンジェ・サン=ロー駅」という表示が見える。
ここは駅のホーム。これからパリ行きのTGVに乗るところだ。

TGVはフランスの新幹線とも呼ばれる高速鉄道で、「テージェーヴェー」と発音する。
全席指定で、現在は日本からでもフランス国鉄のサイトで乗車券を購入することができる。

しかし1990年は、そのような時代ではない。
私たちは、アンジェ・サン=ロー駅の窓口に並び、パリ行きの乗車券を買った。
はっきりとは覚えていないが、当時は自動券売機もなかったように思う。

1カ月前から、私は東京で通っていた大学のプログラムで、学科の仲間たちと一緒に、フランス北西部の都市アンジェへ短期語学研修に来ていた。

研修が終わり、2週間の自由行動のあと、最後にパリで集合し、日本に帰国するというスケジュールだった。
そこで、この自由行動期間中に、私は親しい同級生とふたりで、南フランスをまわろうと決めたのである。

そのためにはまず、アンジェからパリへ移動しなければならない。
パリからは、また別のTGVで南へ向かう。

ホームに列車が入ってきた。
いよいよ、旅のはじまりだ。

当時の乗車券は、もう手元にない。
第1話以降は電子チケットを保存してあるので、正確な数字をお伝えすることができるが、このプロローグは、あいまいな記憶だけを頼りに書いている。

現在、アンジェからパリへは、途中停車駅の数によって異なるが、おおむね1時間40分から50分で行くことができる。
そのため、30年前もそのくらいか、あるいはもう少し時間がかかったかもしれない。

私たちは期待と不安でどぎまぎしながら、2等席に並んで座っていた。
東京からパリに到着したときは、空港からアンジェまで貸切バスで向かったため、パリの街なかへはまだ足を踏みいれたことがなく、列車での移動もはじめてだった。

控えめな照明の車内は、ほどほどに混みあっていたが、騒々しくはない。
外国人と思われる乗客は、私たちだけだった。
旅程を確認しあっているうちに、気分も落ちついてきたが、車窓からの眺めを味わう余裕が出てきたころ、列車はパリに到着した。

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