漫画考察レビュー:コメディとシリアスの最適バランス値『小林さんちのメイドラゴン』
去る2021年7月19日、ある読切漫画が、エンタメ業界に衝撃を与えていました。
『ファイアパンチ』や『チェンソーマン』を描いた、藤本タツキ先生による最新作短編漫画『ルックバック』です。
9月3日に単行本が発売となる今作は、業界人や著名人たちのシェア・拡散も手伝い、その観覧数は発表2日弱でなんと400万にも達したそうです。
傑作と絶賛されるなか、たくさん読まれた結果いくつかの批判や指摘も生じ、8月2日には、内容が一部修正されたという発表がありました。このレビューを書いている今現在では、その修正部分に対する議論が起きています。
また、発表された時期と物語の内容から、読者の間ではこのような憶測も出ました。
これは、京都アニメーションへ意識を向けたものではないかと。
『ルックバック』が掲載された日は、2021年7月19日の午前0時。その2年前の前日である2019年7月18日、言葉にならないような事件が京都アニメーションを襲いました。
ここでその関連性の推察について論を進めるつもりではなく、こういった憶測も、多くの人々がさまざまな思いを京都アニメーションへ強く抱いているがゆえ、自ずと生まれたものではないかと竹谷は感じました。
個人的に申せば、業界史に残るだろう名作「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」、「けいおん!」は言わずもがな、なかんずく「響け!ユーフォニアム」が大好きで、人生を通して心に残るものを、しかとこのアニメからもらいました。
そして、京都アニメーションは、今夏テレビアニメに帰ってきました。
音楽グループ fhána のすてきな楽曲「愛のシュプリーム!」に随伴されるオープニング映像の超抜クオリティを見、テロップに表示される「京都アニメーション」という文字列を読み、なんだかこみ上げてくるものに目頭が熱くなりました。
今回オススメするのは、その原作となった漫画『小林さんちのメイドラゴン』です。
ドラゴンたちのかわいさ
ドラゴンの語源はラテン語のドラコで「竜、大蛇」から来ているのですが、さらにさかのぼるとそもそもの意味は「見る」らしいです。「見る」から「眼」へと意味が転じ、「睨む大きな眼」というような雰囲気からあとはその場の流れで、現実では大蛇、伝説ないし空想では竜を指すようになったと学んでいます。
つまり、ドラゴンは畏み恐れられる存在であり、それは『小林さんちのメイドラゴン』でも変わりません。我々と同じ、社会があって会社がある現実世界を舞台にしています。
しかし諸事情あり、人類をはるかに凌駕する神のごとき力を持つドラゴン・トールが、ただの人間かつ社会人である小林さんの家に住み着き、家事メイドとして働くようになります。そして、そのトールに引っ張られるようにして、ほかのドラゴンたちもやって来ます。
というのが物語の大筋なのですが、とにもかくにも出てくるドラゴンたちがかわいい。竹谷のイチオシは、ご存知カンナカムイことカンナちゃんです。
ドラゴンと名乗る通り、本来はザ・ドラゴンといった外見をしているのですが、人間と同棲するためにうろこを変化させた服装のデザインはもちろん、語弊のある言い方かもしれませんが髪型や肉体等、人間バージョンの造形がすごい良いのです。
しかし、真なるかわいさは、内面からじわじわと、それでいて本人から滔々と外気へ漏れ出る流体的なものでありますから、ドラゴンたちがかわいいのは、その心あってのことと言えます。外見は内面の一番外側、という名言さえあります。
当然ですが、ドラゴンは別世界の存在です。ゆえに、人類による人類のためのルールなど知るよしがありません。
人間は弱く、寿命も短く、ほんの少し力をこめればやすやす倒せてしまうような小さい生物です。
それでも、仲良くしたい。そうしたい理由がある。だから、人間の生活を懸命に学び共生しようと努力する。
トールを始めとする、ドラゴンたちの健気さに胸を打たれ、どんどんどらごん愛おしく思えてきます。
あと、カンナちゃんがイチオシと先述しましたが、エルマも大好きでした。すみません。
小林さんのカッコよさ
歌手の小林幸子さん然り、声優の小林ゆうさん然り、小林と名の付く方は基本的にカッコいい、と統計が出ています。
また、これは持論ですが、コメディは時折シリアスな展開を挟むと、一層深い面白さが出ると考えています。スイカに塩をひとつまみ振ると甘さが際立つようなもので、竹谷の敬愛する篠原健太先生の漫画『SKET DANCE』も、同様の観点から大好きです。
『小林さんちのメイドラゴン』は、ドラゴンのかわいさと双璧をなすように、人間である小林さんが時折見せるカッコよさが、トートロジー的に申せば、カッコいいのです。
ドラゴンが人間の生き方を理解し、ともに生きていくためには、ドラゴンたちだけの一方的な頑張りだけでは限界があります。
そこには、人間側からのアプローチも必要なのです。
小林さんがトールたちを認め、トラブルに遭遇しながらもドラゴンたちを突き放さずに日々を過ごしていけるのは、ひとえに小林さんの優しさと、気丈さと、多角的で芯のある見解があってのことだと思います。
”一に多様性、二にダイバーシティ、三四がなくて、五にみんな違ってみんな良い”と表したくなるような世ですが、小林さんの環境に至っては、多様性どころか造語するなら”異様性”に満ちた状況です。そんな事態下でも、彼女は真正面から対峙し、排斥せず、受容していこうと努めます。
カッコよさも、その真たるものは内面からゆっくりと徐々に、それでいて本人から流麗に醸し出されるものでありますから、上記のような小林さんの御心あってこそ本当のカッコよさと言えます。「外見でひとを判断してはならない」という見る側の有名な心構えがありますが、事実として、精神のきれいなひと、もしくはそうあろうとしているひとは、自ずと外見も整っていくものです。
そうして、折りに触れ小林さんのカッコ良さが噴出するからこそ、普段のコメディがより旨味を増し、ドラゴンたちは一層かわいく映るのです。
もちろん、ドラゴンがカッコよくて、小林さんがかわいい場面も多々あります。そういう普段とは逆の面が垣間見えるのも、本当に大好物です。
最後となりますが、漫画が気になる方は、まずアニメをご覧いただければと思います。丹念丁寧に作り上げられた最高峰のアニメーションは、きっと原作漫画を買いたい衝動に駆らせてくれるはずです。
漫画からアニメ、アニメから漫画。『小林さんちのメイドラゴン』を読みながら観られる今を、心から噛み締めています。
最終回を観る時、「もう最終回か~、あと数話続いてくれないかなあ~」という気持ちで臨めるアニメに出会えたことの幸せを思います。
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