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episode5:はじめまして



サークルの説明会は、お昼休み。
場所は講義後すぐに小走りで移動しないと間に合わない、棟の違う離れた教室だった。


今朝、一緒に行くはずだったナオちゃんからメールが入っていた。


"ごめん、ちょっと教授に用があって少し遅れちゃうと思う。先に行ってて!"



(いきなり一人で入るの緊張しちゃうよ〜)

一人で行くことを心許なく感じながら、廊下を小走りしてようやく教室前に辿り着いた。



ギイィ、と重たい扉を押して開ける。


「こ、こんにちはー‥」


「いらっしゃーい」
「ようこそー。一年生だよね?」
「このチラシ取って前の方の席に座ってね」


(な、なんだか思ってた以上にロックな先輩達…!!!)


金髪、赤いメッシュの入った黒髪、口元にピアス、革ジャン、黒いブーツ…中々派手な外見の先輩方に歓迎されながら、やや緊張気味に席についた。



その後サークルの説明が程なくして始まると

「遅れました〜」と、ナオちゃんが入ってきた。
ほっ、と、一先ず胸を撫で下ろした。


先輩たちの説明によると、まずは新入生達でバンドを組んで、7月に各バンドのライブ発表をする。それまでは仮入部の形でも良いとのことだった。
発表は、大学近くのライブハウスで、サークルメンバーだけで行われる。


一通りサークルの説明が終わった後、その場で席が近い人たちで集まって、自己紹介をする時間に移った。

周囲がざわざわし始めた時、
ナオちゃんが後ろから声をかけてくれた。


「しーちゃん!しーちゃんはこっちだよ〜!
(寮生の子たちからは、しおりという名前からそう呼ばれていた)
うちらのメンバーだから!」


ナオちゃんの声の方を見ようと後ろを振り返った。


すると、自分の後ろの席に誰かが座っていたことにやっと気がついた。





「あっ、はじめまして‥」



「はじめまして」




ボーイソプラノの、少年みたいな柔らかい声。

聞いたことがあるような、いつかどこかで出逢った同級生の誰かに似ているような、



くりっとした丸い瞳と、その日私は初めて出会ったはずなのに



胸の奥が微かにざわめいていた。


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