タルコフを始めた。 ~僕の人生、恋愛、狂気を添えた初心者レビュー~

 Escape from Tarkov(以下タルコフ)というゲームを1週間くらい前に始めた。これは真の男のゲームだ。

 ジャンルはFPS。要は、1人称視点で銃を撃つゲームだ。しかし、初心者には銃を撃って敵を倒す快感を得ることが非常に難しいゲームである。

 まず、戦場に持ち込んで死んでしまったり脱出できなかったりした場合、持ち込んだ愛銃や苦労して漁った貴重品は例外を除いて全て失われる。当たり前と言えば当たり前だ。

 第二に、UIがなんにもない。最低限しかない。自分の姿勢と自分の怪我の具合くらいしか調べない限り分からない。拾った銃に弾がいくら入っているのか、マガジンをチェックしないと分からないし、分かっても「だいたい半分」くらいしか分からない。地図も持っていない限りは見れない。GPSで自分の位置が分かるなんてこともない。初めて降り立った場所ではどちらが北かもコンパスがないと分からない。方角が分かったとしても目の前の建物がマップの東側にあるのか西側にあるのか分からない。極めつけに、このゲームは最後にはエリアから脱出できないと何の意味もなくMIA(行方不明)になるだけだが、脱出地点がどこにあるのか調べても「トレイラーパーク」とか書かれた文字しかない。えっと……トレイラーパークってどこなんだい?はじめてのおつかいのような気分を大の大人が味わえる。初めて行った場所でそうなるのは当たり前と言えば当たり前だ。

 第三に、このゲームの戦闘は非常にシビアだ。どんな弱い銃弾でも頭に当たってしまえばほぼ確実に死ぬ。ヘルメットも運よく弾をはじいてくれなければ被ってても死ぬ。初心者が弾を撃ってもなかなか人は死なない。胴体を撃っても弱い弾では何発売っても防弾ベストは貫通できないし、高級なスコープもないから遠い敵にはなかなか当てられない。マガジンの弾を撃ち切ってしまったら自動で装填されるなんてことはなく、当然自分の手でカチカチと一つずつ詰めなおさないといけない。仮に敵を先に撃って倒したとしても、撃ち返されてしまい血を流したら止血剤を持ってなければそのまま倒れて死ぬ。足の骨が折れたら添え木を付けないとナメクジ並みの速度でしか移動できない。当たり前と言えば当たり前だ。

 ああ、なんて初心者お断りなゲームなんだろう。しかし、マップを苦労して覚えれば自分の庭のように歩けるし、高級なアーマーを身につければちょっとやそっとの弾ではビクともしない。ハクスラ要素があって自分の技術の向上以外に目に見えてゲームの進捗を楽しむことができる。いいゲームだと思う。

 このゲームは1週間前くらいに買ったと一番最初に述べたが、5日前に僕は女性を食事に誘って「彼氏がいるから」と断られた。自分でも性急なお誘いだったと思うが、仕方がなかった。久しぶりな失恋を経験し、自分が思ったより落ち込んでいることに驚いた。いま僕にある楽しみは、タルコフをやることくらいだ。

 現実はタルコフよりも厳しい。僕は大学卒業後は5年付き合った彼女がいる秋田に東京から帰って働くことにしたのだが、フラれた。いま僕の目の前にあるのは、クソみてえに毎日大量に降ってくる雪と、タルコフだけだ。

 タルコフは荒廃していて危険で血なまぐさいが、現実よりもあたたかい。タルコフ市に行けば人はいる(銃は持ってるけど)しジャンクを拾って帰れるが、秋田をうろついても人はいないし持ち帰れるものは雪しかない。

 久しぶりに素敵な女性と知り合えたのに彼氏がいたのは悲しいことだが、これは運命がタルコフをやれと僕に言っているのかもしれない。カタルシスは人を少し変える。この悲劇には意味があったのかもしれない。人は悲しいとき、ハネ返って狂うことができる。生きるためには狂う必要がある。狂うエネルギーと狂う方向がなければ、人生はあまりにも味気なく、つらく、寒く、悲しく、孤独をごまかすことができない。

 運命論者なんてものじゃないつもりだけど、僕はものごとに人生を俯瞰した意味を見出す癖がある。運命……。ロマンチックさとは無縁の僕だが、勝手にエモくなるためなら勝手に運命を見出してやる。古代人がただの点が散らばるだけの空から星座を見出したように!

 今日の僕の運命は、タルコフをやることなのだろう。失恋の傷が癒える頃には、僕は新たな恋を始めているかもしれないし、大金を稼ごうとしているかもしれないし、東京に戻っているかもしれない。時間がやる気を勝手に生んでくれる訳でもないが、時間が必要なことも山ほどある。

 さあ、銃弾が飛び交うタルコフ市へと戻ろう。頼れるのは自分だけ。人生と全く同じである。締まっていこうぜ。自分の頭で考え、最適な判断を下す努力あるのみ。人生も同じだ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?