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「非日常が学びの場」──妙高でのワーケーションの課題と可能性

 幸か不幸か、昨今のコロナ禍でリモートワーク、テレワークに対する関心が急速に高まっていますね。ワーケーションもそうした時代の要請にしっかりと応えられるワークスタイルを提供できると個人的には考えています。

 今回、妙高ワーケーションをモニターとして体験することを通じて、さまざまな可能性や課題があると感じました。本稿では、妙高ワーケーションの現時点での課題、また、どういった業務・職種に活用すると効率が良いか、といった点についてわたしなりに考えてみました。

二次交通問題とモバイルワークステーションの可能性

 ワーケーション参加にあたって、都市部からお越しになる方の最大の悩みはやはり「二次交通」なのではないでしょうか?二次交通の課題を考える際に、まずモバイルワークステーションの話をしておこうかと思います。
 
 企業単位で妙高市にいらっしゃる方、もしくは個人利用でも都市部にお住まいで自家用車を持たれていない方には、おそらく現地での移動手段、いわゆる「二次交通」がどの程度発達しているのか、利便性がいいのか、ということは常に気を使われる点の1つではないかなと考えています。
 
 個人的な話で恐縮ではありますが、わたしも以前は東京都内に居住をしており、趣味で地方のマラソン大会に出場する機会が多かったのですが、やはり気になるのは「空港や駅を出てから宿/会場までが遠い」ということ。このいわゆる「二次交通」問題は、地方都市であれば大なり小なり抱えている問題かとは思います。

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 ワーケーションで妙高市にいらっしゃる方々もおそらく新幹線で上越妙高駅までお越しいただくのは全く難しくないでしょう。ですが、問題はそこから先。モニターとしてこんなことを言うのも失礼ですが、率直に言うと「車が無ければかなり不便」でしょうね。

 レンタカーという手段もあるのですが、やはり日常の移動手段に限られてしまうと思います。そして何より、駅前のレンタカーは高い(笑)。日常の足代わりに使うにはやや割高で、かつ用途が限られてしまうと思います。

 こうした二次交通の問題を軽減してくれる手段の一つが、今回のワーケーションの目玉の1つでもある「モバイルワークステーション」という移動手段について、です。

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 モバイルワークステーションは四駆の軽トラックをベースとして、二台にオフィスボックスが積載されている、文字通り「動くオフィス」です。車ですから当然移動の足としても利用でき、かつ駐車場や安全な場所に停めてオフィスとして利用することも可能です。
 
 車はお持ちでなくても、普通免許は多くの方が取得されているのではないでしょうか? 妙高市は大都市のように車が前後左右にひっきりなしに往来しているような環境ではなく、車幅も広いため、普段車を運転されない方でも安心して運転ができるかと思います。

 モバイルワークステーションは、わたしが妙高市に滞在している2021年1月~3月まで実証実験を行っており、気軽にモバイルワークステーションを利用できました。NTTドコモのモバイルWifiが使えるため、スキー場など電波の入りにくいと思われる個所でも快適に仕事ができました。

賢く使おう!モバイルワークステーション

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 わたしは滞在中に3回利用させていただきましたが、モバイルワークステーションを利用する上での注意ポイントを少し書かせていただきます。

 まず車両が軽自動車という特性上、長距離・高速での移動にはやはり向きません。また軽トラのためカーナビ内蔵ではなく、そして車内のバックミラーを使って後方確認をすることもできません。移動にはそれなりの気を遣うな、というのが正直な感想です。

 馬力や速度の問題もあり、大通りをぶらぶらと移動しながら場所を探す、というのもあまり現実的ではない気がします。そのため、移動するスポットはクラインガルテン妙高の周辺や、事前に行く場所をピンポイントで決め、そこに向かって移動する、という使い方がいいのかなと思います。

 また利用時間帯は午前中~午後3、4時くらいまでかなと思います。特に、私が利用したのは冬季なので5時を過ぎると外はすっかり暗くなり、キャビンの中は真っ暗になってしまいます。そのため、利用される方が各自で「~時までに(日が沈むまでに)終わらせる」といった形で業務時間のリミットを設け、集中的に取り組む使い方が良いかと思います。

 カフェ調の室内にはなっていますが、その雰囲気に甘えてまったりしてしまうと、あっという間にお昼過ぎ、夕方になってしまいますので注意が必要ですね(笑)

 業務中に少し気になったのは、トラックのあおり部分を閉じているときでも、案外と地上の冷気が入り込んでくるな、ということでした。車内には電気毛布も常備されていますから、女性の方や冷え性の方は、足元の防寒をしっかりとなされた方が良いな、と感じます。

 モバイルワークステーション利用で最大の悩みどころは駐車する場所だと思いますが、それさえクリアできてしまえば、自分の好きなワークスタイルで働くことが可能です。

 わたしの場合は動画制作用に集中して取り組めるという点でとても気に入っていますが、車内には小型のモニタもありますので、たとえば本社とのオンライン会議でちょっとしたプレゼンテーションをする、といったタイミングでも活用できるのではないかなと思います。

 また、1日分の飲食料を近くのコンビニで調達して持ち込み、キャビンの中で1日閉じこもって仕事をすることも可能かと思います。キャビンの上部を閉め切るとほぼ完全な個室状態で仕事ができ便利だと思います。それこそ「モバイルネットカフェ」みたいな感じでしょうね(笑)

 外の空気を吸いながら、のんびりと仕事をしたい、なんて方にとっては、天気のよい日はキャビンを開放すれば外の空気を感じながら働くことができます。最高の環境だと思います。日の光をまぶしく思いながら、サングラスでパソコンに向かって仕事をするのも普段のオフィスでは中々味わうことのできない、楽しい経験かなと思います。

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プロジェクト型業務との相性がよさそう

 ワーケーションは普段のオフィスとは異なる特別な場所で、一定の定められた期間を過ごします。そのため、短期集中して取り組むプロジェクト型の業務には最適だと感じます。システム開発・クリエイティブ制作等、一定の期間でアウトプットを出すことを目的とする業務に対しては、ワーケーションはとても効果的なのではないかと思っています。

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 実際、わたしもこの記事作成やプロモーション動画作成、またわたしが運営する学習塾の教材用/プロモーション用コンテンツなどのクリエイティブ業務など、定常業務ではなく短期集中で行う業務には最高の環境でした。

 わたしは冬季の滞在ですが、心配していた冬の寒さもほとんど気になりませんでした。あえて気になる点としては、食卓机以外に別途業務用のデスクがあればいいな、と思ったので、折り畳み可能なデスク・チェアを一式持ち込むだけで自社にいるのと何ら変わらない環境を作り出すことが可能です。

 これをさらに応用すれば、「本社では定常業務、妙高ではプロジェクト型の非定型業務を集中的に行う場所」という形で、ワーケーションを自社の業務プロセスの中に完全に組み込んでしまうことも可能でしょう。

 本社と妙高ワーケーションとを、業務の特性ごとに使い分けた働き方ができれば、東京/妙高を往復するきっかけづくりにもなりますし、やり方によっては「妙高プロジェクト」といった形で、社内でブランド化することも可能かと思います。

 「妙高で社内の新規プロジェクトにチャレンジ!」みたいな社内公募がかけられれば、フットワークの軽い若手や中堅は積極的に手を上げやすくなるでしょう。

 また「あの会社は妙高市で何だかすごいプロジェクトをやってるらしい」という評判がたてば、その企業への注目が増し、妙高市でのプロジェクト活動を売りにした採用活動も可能となるのではないでしょうか。

 妙高ワーケーションをうまく活用して、こうした活動を社内のキャリアパスの一つに組み込んでみても面白いかもしれません。

研修活動とのコラボも興味深い

 企業の新人研修など研修活動全般にはとても相性が良いかと思います。新人研修だけでなく、幹部候補生研修・幹部研修・役員研修をはじめ、社内のさまざまな教育・自己啓発活動の場として妙高をサテライトオフィス化しても良いかと思います。

 場合によっては、現地企業と定期的にコラボレーションできるような場が持てれば、都内で高い外注費を払う必要もなく、経費削減にもなり良いのではないかとも思います。
 
 そこまでやるかどうかは今後の課題としても、さまざまな体験型のアウトドアアクティビティがあり、ガイドの方や参加者とも交流ができる機会が多々あるので、そうしたところで地元の事情を聞いたり、単に雑談するだけでもとても楽しいですし気づきも多いかと思います。
 
 企業単位で行かれるのであれば、地元の同業種の方々との交流会も定期的に開かれると、より充実したものになるのではないかと思います。

 個人利用の方にとっても、都内でジムに通う感覚で気軽に、さまざまなアウトドアアクティビティ施設にアクセスできるのはとても魅力ですね。わたしはウィンタースポーツは全くできないのですが、レンタルスキーを借りてクロスカントリースキーに少し挑戦してみました。

 1日ガッツリ時間を取られることもなく、施設まで往復30分程度の場所にあり、たとえば午前に早めに仕事を終え、午後2~3時間程度遊び(気分転換し)、夕方から業務復帰、という働き方も全くありですね。メリハリつけるのが得意な人なら、こっちでの生活の方が楽しいんじゃないかな、と思います。

 これが観光地での仕事となると、集中したい人にとっては「折角観光地に来たから少し遊ばなきゃ」「温泉はいらなきゃ」「グルメしなきゃ」と余計なプレッシャーにさらされて、仕事モードが変に中断されて煩わしい思いをする方もいらっしゃると思います。

 ですが、妙高市というのは「ザ・観光地」とは異なり、遊びでリフレッシュできる環境、仕事に集中できる環境があります。そのため、常に頭がオンの状態で働き続けたい方にはいい環境なんじゃないかなと思います。

 天気のいい日は数時間外でリフレッシュしてもよし、一日中クラインガルテンやハートランドに籠るもよし。このあたりがワーケーション利用のいいところなのかもしれませんね。

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「合宿の街」を活用しない手はない

 わたしは市民ランナー、トレイルランナーとしても、今回のワーケーションモニターに期待をしていました。というのは妙高市は全国に誇るトレイルランニングレース「信越五岳トレイルランニングレース」の開催地でもあるからです。

 滞在中に、妙高市在住の高島由佳子さんという、同大会の女性部門で優勝、また大会新記録も樹立されたトップアスリートの方にお話をお伺いすることができました。

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 大変気さくなお人柄とともに、地元の妙高市への強い愛着がとても印象的でした。と同時に、なんと石川弘樹さんのお話も伺うことができたのはラッキーでした。

 石川弘樹さんといえばトレイルランナーでおそらく知らない方はいないというくらいの、それこそレジェンド級の方。その方がここ妙高市に事務所を借りて、信越五岳トレイルランニングレースのための活動をされている、というお話を伺いとても驚きました。

 マラソン大会もトレイルランニングレースも、多くの方のボランティアによって成り立っているスポーツイベントです。高島さんにお伺いしたところレース出場だけでなく、ボランティア参加の申込ですら高倍率の抽選になる、というお話をうかがい、改めて当レースの人気の高さをうかがい知ることができました。
 
 このようなお話をお伺いする中での気づきが多々あったのですが、高島さんをはじめとして、妙高市には、実はオリンピック級のトップアスリートが数多くいらっしゃるという事実を知り、興味深いなと思いました。

 たとえば企業単位で研修に来られる場合など、そうしたトップアスリートの方々との座談会や交流の場を設けても良いかなと思いました。一例として、スポーツ用品メーカーの方々がトップアスリートの方々と交流する中で、新しい商品開発につながるヒントなどを得る機会も少なくないのでは、と思いました。

 また信越五岳トレイルランニングレースの話で言えば、わたしのようなアマチュアランナーであっても、大会やボランティアに参加したいと思う人はたくさんいるはずです。この記事の読者のなかにも、都市部にお住まいで、週末に趣味でランニングやトレランを嗜まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 ですが、遠地でのレースとなると「仕事の都合で1泊2日、良くて2泊3日しかできない」という方々が大半なのではないでしょうか? 「大会には参加したい、ボランティア等で裏方のお手伝いもしたい、でも仕事が……」という制約を抱えてらっしゃる方も多いはず。せっかくの地方レースを思い切り楽しみたい、でも週末だけでは時間が足りない……都会に住む多くのランナーは、得てしてそうした悩みを抱えているのです。

 そんな方々にとって、1週間単位、できれば1か月くらいのまとまった期間を「仕事をしつつ、週末は山でトレーニング(大会前ならコース試走も!)、ボランティアで林道整備をしながら地域に貢献」という生活は憧れのライフスタイルに違いありません。
 
 そんな時に、このワーケーションが有効活用できるのでは、と考えています。クラインガルテン妙高を拠点として、遠方のため参加が難しかったそうした活動、実現が難しかったワークスタイルを容易にする可能性がワーケーションにはたくさん詰まっているはずです。

 わたしも昨年東京都内から石川県に移住をしましたが、最初のきっかけはやはり金沢マラソンでした。スポーツイベント、特にマラソンをはじめ、多くのランニングイベントは「ご当地でしか味わえない食べ物」を売りにしており、必ず何かしらの「お目当て」があります。

 地方のスポーツイベントは、こうした「お目当て」のために都市部から毎年参加してくれるリピーターが多いのも特徴です。妙高市も信越五岳トレイルランニングレースという、全国規模で知られた大会を毎年開催していますし、こうしたリピーターの方々というはまさにワーケーションが目的とする「関係人口」のコア部分を形成していると言えるのではないでしょうか。

 ワーケーションが、そうした都市部の市民ランナーと地元妙高市とをつなぐ接点となる可能性は大いにあるのかな、と思っていますし、実際にわたし自身がそういう形で今後も利用したいなと考えています。一人でもそうした方々にワーケーションを利用してもらいたいですね。

日常生活での失敗を通じた学びと気づき

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 「人材育成」と大上段に構えなくても、また運動がそれほど得意な訳でも、興味があるわけではない方々にとってももちろん、日常生活からの学びや気づきも多く、それが十分に当人にとっての「研修」になるのかなと思っています。

 たとえば先日こんなことがありました。灯油ストーブをうっかり買い忘れ、燃料が夜中に切れてしまい暖を取ることができなくなってしまいました。その晩は仕方がないので布団にくるまりながら仕事をし、「翌朝一番でガソリンスタンドに灯油を買いに行けばいい」とたかをくくっていました。

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 ところが、翌朝は膝上まで埋まってしまうような積雪で、車を出すために車庫の雪かきをしなければならないという状況……。風呂の残り湯で手足を温めながら30分雪かきの後、車を車庫から出し(スタックしなくてよかった!)やっと灯油の買い出しが完了。家に火がともったのは起床してから2時間近く経ってからのことでした。

 リモコンのボタン一つで暖かい空気が出ることが当たり前の環境では、こうした苦労は想像ができないかもしれません。暖を取れるようになるまで2時間もかかるなんて冗談じゃないの? と思うかもしれません。

 灯油の買い出しや日々の雪かきは、聞けば当たり前のことだと思うかもしれませんが、やはり生活の中での実体験として自らが汗をかき、1日のうちの何時間かをその作業に充てなければならない、というのはリアルな生活体験を通じて「体感」するものだと思っています。

 中学校の教科書で習った程度の浅い知識で分かったつもりにはなっていても、雪国の方々が日常的に感じているそうした苦労、わずらわしさなどをリアルに体験することで初めて、ここに住まう方々のご苦労に対する理解や共感を肌感覚として持ってもらえる……そのような場であり、チャンスなのかなと思います。

 このような実体験から得られる気づきやフィードバックこそが、ていねいに組まれたスキル研修以上に実は大きな収穫をもたらすのではないかなと思っています。

 ですから、あえてわたしが言いたいのは「たくさん失敗しなさい」ということでしょうかね。暖が取れない状態で、手をかじかませヒーヒー言いながら雪かきした体験は、おそらく一生モノの経験になるでしょう。
 
 同時に、そうした失敗を通じて思うのは、「こんな歳になっても、知らなかった世界、考え方がたくさんあるのだ」という気づきや、常にいろいろな物事に触れ視野を広く保っておかなければダメだな、ということです。

 お金さえ出せばなんでも手に入る世界、それはごくごく一部の限られた世界の話でしかないのだ、ということにいま更ながらに気づかされます。

 たかだか灯油ストーブ一つとってもこれだけ気づきがあるのですから、日常生活でたくさん失敗をして、その中から少しでも多くのことを考え、気づき、自社での仕事に戻っていただけたらいいなと思います。

まとめ

 ワーケーションから得られる気づきや知恵は、仕事や研修だけからではなく、むしろ毎日の日常生活の中にこそ多く潜んでいると思います。先ほどの灯油ストーブの事件はほんの一例でしかないのですが、たくさんの「失敗」や「苦労」をしてもらいたいと思います。

 こうした「失敗」や「苦労」を通じて、妙高市に住む地元の方々の気持ち、ご苦労、日々の楽しみなどを肌身で知るきっかけにもなるので、けっして失敗することを煩わしく思わず、むしろどんどん失敗してそこから多くのことを気づいて学んでほしいなと思います。

 都会で生活していると当たり前のようになってしまっている便利な生活。二次交通の問題などはありながらも、あえてそうした不便さとともに生活してみるのもいいかもしれません。

 少し極端ではありますが、自由に移動できることのありがたさを痛感し、たとえば、バスや公共機関を今後利用する際も、職員の方に対する感謝の気持ちが芽生えるかもしれません。

 また雄大な自然を前に、自らが抱えていた悩みの小ささに気づいたり、思い悩んでいたことが吹き飛んでしまったり、メンタルによい影響を与えてくれるかもしれません。

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 そうした、仕事上の気づき・スキルといった以上に、人生にうるおいや豊かさを与えてくれるものが、このワーケーションにはたくさん詰まっているような気がします。一人でも多くの方がそうした豊かさに気づいてもらえるといいなと願っています。


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