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酔わずして気持ち悪い

 普通自動車免許を取得してからもうすぐ1ヶ月となる。両親の車を借りて練習を重ね、ずいぶんと安心して車を乗りこなせるようになってきた。運転は楽しい。集中力が必要になるので余計なことを考えずに済むし、それでいて流れる景色を眺めながら思索にふけることもできる。ドライブは僕のようなネガティブ人間にはもってこいな気分転換なのだ。

 もうひとつ、僕が大学を中退してから1年になる。当時の友人たちとは稀に連絡を取り合う程度で、絶縁しているわけでもないがコミュニケーションを積極的にとることもない。そして、もうすぐお世話になった1つ年上の先輩がたが卒業される。目上の方に自分から頻繁に連絡するというのも憚られるので、本格的にバラバラになる前にご挨拶したいという気持ちを持っていた。

 そこで、まとまった休みが頂けたのを機に、大学時代を過ごした山口県に足を運ぶことにした。流石に実家の車を何日も持っていくことはできないので、当地でレンタカーを借り、在学中にはできなかった山口でのドライブも満喫したいと思ったのだ。今回は、その中でも1人で行動した夜のことを記していきたいと思う。友人や先輩と過ごした時間はとても楽しく、充実した時間であったが、文字に起こして皆様にお伝えするものではなく、当人同士で共有していればいいものであるから、今回は省略する。


 また、先に断っておくが、今回僕が山口を訪れるにあたって、連絡した友人とそうでない友人がいる。どちらも住んでいた頃には非常に仲良くした方々なのだが、この時期に実習等で忙しいと思われた人たち、グループには声をかけなかった。と同時に、まだ僕は社会的に「結果」を出せていないので、向ける顔がないという思いも事実として存在する。いずれにせよ、来年、同級生たちが卒業するまでには、彼らとも会って話しておきたい。


 夜、夕食を共にした後輩を家まで送った後、もう少しドライブがしたくなった僕は、近くのコンビニに寄り、行き先を思案していた。方向性は何となく決まっている。山口といえば工場、そして工場といえば夜景である。男ひとりで夜景観賞など珍しいのかもしれないが、僕はこれが結構好きだ。街や人が「生きている」姿が実感できてとても美しい。女性と観に行ったことは数えるほどしかないが、ひとりでも十分楽しめるものだ。

 先述の通り、僕は在学中には免許も車も持っていなかったので、山口県内でも行ったことのない土地は多数存在する。通過だけなら経験があるものの、降り立ったことのない市町村もいくつもあった。せっかくだし地名に馴染みがあるけど行ったことない場所に行きたい、そう思った僕が検索した中から選んだのが、山陽小野田市にある「竜王山公園」である。

 実家のある九州から山口へ行き来する際、小野田と宇部は幾度となく通過してきた。が、山陽本線が両市街地を通っていないこと、そもそも用事がなかったこと、帰省やUターン時には荷物が多かったことなどから一度も立ち寄ったことがなかった。竜王山公園を選んだ理由のひとつはそれである。他にも、宇部市にはときわ公園などに友人が訪れているのを見ていたので、行ったという話も周りから聞いていない場所であることなどを決め手に、僕はカーナビをセットし、国道262号線を南下し始めた。ちなみに、本来山口市から山陽小野田市へ向かうのであれば国道9号線の方が早いのだが、そちらのルートは昼間に友人と下関へ向かった際に通ったので、違う道を選択したというわけだ。

 夜間ということで防府市までの通行量も少ない。視界はあまり良くなく、またネズミ捕りの危険性もあるので速度には注意して走行した。友人には運転技術を褒めてもらったものの、日常生活からして運転が得意なわけはないと自分で思っているので、自惚れを起こさないことを常に念頭に置いている。トンネルをくぐって長い坂道を下ると防府市街地だ。国道2号線に入り、今度は西を目指す。

 先ほどよりは増えたとはいえ、車通りは少ない。その割にトラックが多く、初心者マークをつけたデミオが何台も追い抜いていくことになった。車線変更の練習としてはこの上ない交通環境だ。なんでもそうなのだが、特に運転はやらなければ上達しない。経験してきたからこそ、この後に乗ったバイパスの速度にも慌てることがなかったのだ。これを日常生活においても適用していかねばならないのだが……。

 バイパスを降り、宇部市に入ったくらいの頃から雨が降り始めた。路面が最も危険なのは雪道だが、視界が最も悪いのは夜の雨天時だ。それも通ったことのない道である。僕の不安はみるみる高まっていった。宇部駅前を抜け、市街地へと走っていったが、道のりの記憶が曖昧なのは車窓が暗くてよく認識できなかったからだろう。日中も運転していて多少の疲れも影響していたかもしれない。

 また、仮に晴天の明るい間に通っていたとしても、僕が宇部、山陽小野田の景色を脳内に染み込ませられていたかは分からない。大学1年生の頃、帰省の寄り道にと思い、山陽小野田市在住の知人にランチができる場所や見るべきものを尋ねたことがあるが、紹介できるようなものはないとの返答を頂いた。そんな土地あるのか?と当時は思ったのだが、実際に走っていると特に変わったところのない地方都市という印象の街で、工場群などは目を引くものの、これ!といった名所も浮かばず……というものだった。もっと深く検索したり他の知人に訊いてみたりするのも手だったかもしれないが、申し訳ないが、そこまでしようと思えなかったというのもまた事実だ。

 そんな風に思っていると、あっという間に山陽小野田市に入っていた。あれこれ言っておきながら、海沿いを走っているとやはり工場の灯りは壮観で、展望台まで上らずとも楽しめる景色であった。山道に入り、僕は公園への上り坂をゆっくりと走った。天気のためか、平日だったからか、対向車も頂上の駐車場に停まる車もなかった。駐車に関してはまだまだ未熟な僕でも、ぶつける車がなければ安心というものだ。

 が、エンジンを切って外に出ると、風雨はより激しさを増していた。傘も持っていなかった僕は、雨に打たれながら真っ暗な展望台の階段をスマートフォンのライトだけを頼りに登っていった。


 到着。雨もあり、ろくな写真も撮れず、また灯りもぼやけてしまっていた。夜景観賞にとっては最悪のコンディションであり、決して気分の良いものではなかったが、ひとまず無事の到着を喜んだ。


 ここからは、極めて個人的な話(いつもそうだろ、というツッコミは勘弁願いたい)かつ特定の人物を不快にさせる可能性の高い文章で、帰路のことを書いていく。苦情があれば受け付けるし、そんなことさえなく幾人もの方々との繋がりをバッサリ断ち切りかねない。僕の異常性にまつわる話である。大変お恥ずかしい話だが、読んで頂きたい。


 雨に打たれて身体を冷やした僕は、山を下りた後、近くのセブンイレブンでペットボトルの暖かいココアを買って飲みながら、この雨と風は天罰なのだろうな、と思った。ここまで読んだ当時の友人ならご存知の方も居るだろうが、僕が小野田に居るということは、それだけでかなり異常な行動なのである。

 もうお分かりだろう。僕が異常な行動を起こすとき、それは異性が関係しているときだ。小野田は僕が好意を寄せていた女性の住む街であり、大学時代に小野田のことを尋ねた知人というのも彼女のことである。



 入学直後、ほぼ一目惚れのような形で恋をしてしまった僕は、彼女の気を引こうと必死で連絡を取っていた。しかし、仔細あって……というか僕が他の女性に惹かれていくのにつれ、次第に関わりを失っていった。その中の誰ともお付き合いしていた訳ではないが、当時の僕は誠実さの欠片もなかった。結局その後は異性関係もそれ以外も全く上手く行かず、中退に至ったのは皆様がご存知の通りだ。

 後から知ったのだが、彼女も創作活動をしており、それがなおさら僕を惹きつける要因となった。ちょうど僕が引越しをした時期に少し連絡を取り、その後も彼女の創作が発信される際に稀にSNSでメッセージを送ってやりとりをしている。容姿端麗であり、紡ぐ絵も文章も美しさに溢れている。時として僕の理解の範疇も超えてしまっているような、女性としてはもちろん、人間として尊敬できる方なのである。

 が、物事には二面性があり、創作/表現を行うという共通性があるということは、価値観同士が顕著に晒されあってしまうということでもある。僕の文章を読んだことがない方であれば、僕が普段何を考えて生きているかをあまり知らずに接することもできるが、読まれてしまえばそうはいかない。僕は彼女の内面を向いた文章に触れたことがない(彼女も己に関しては書かないと言っていた)のでどうかはわからないが、おそらく彼女にとって僕は価値観の合わない人間なのだろう。こんなことを言うのは恥ずかしいが、僕とやり取りした日に限ってネガティブな内容の投稿が為される彼女のSNSを何度も見ていれば、いくら鈍い僕でも察しがつくというものだ。

 では何故未だにこんなに未練たらしくnoteに駄文を吐き散らかしているのか? それはひとえに僕が「フラれていない」からである。僕が過去の想い人たちと決別できているのは、明確な別れの言葉を投げかけて頂いたからだ。きちんと玉砕しているからこそ、次へ向けて進んでいっているのだ。今回の女性に対しては、それがない。当たり前である。僕の方から告白していないのだから。喜ばれないことがわかっているから明確な愛のメッセージを送ることもせず、しかし、彼女は僕に好かれていることに気付いている、そんな状態が続いているわけだ。


 そんなわけで、まっすぐ帰ればいいものを、僕は市街地をグルグルと周遊した。視界に入ったセブンイレブンに寄り、チョコレートを買った。山崎まさよしの歌じゃないんだからさあ、もうこんなのストーカーと変わらないじゃねえか、誰か俺を殺してくれ、そう思いながら再び車を走らせた。

 

 彼女は弊noteを読んでいるらしい。ここまで読んでくれているかはわからない。気味が悪すぎてブラウザバックしたかもしれない。もしここまでたどり着いていたら、本当にごめんなさい。あなたを傷つけたくはなかったけれど、僕の破綻した人格から、こういう文章を生成してしまいました。僕はあなたを尊敬していますし、愛されるべき存在だと思っています。世の中はあなたの望む通りであるべきだと思っています。そんなあなた相手に自分から幕引きのできない僕をお許しください。SNSをフォロー解除、ブロックしてもらっても構わないし、なんならその方が僕もキッパリ諦めがつきます。そうでなくてももう関わらない方がいいのも頭ではわかっているけれど、僕の狂っている部分がいつどうなるか、僕の中でもわからないところがあります。とにかく、こんな文章を読ませて、心身を無駄に消費させてしまうこと、本当に申し訳ないです。


 こんな感情を抱きながら夜のドライブを完遂し、友人の家に戻った。もうこのコースを通ることはないだろうし、あってはならない。僕は、未だに自分の異常性と戦って生きているし、生きていかねばならない。このnoteを読んで下さる皆様を、僕から守る為の文章になっていれば役に立つかもしれない。そもそも書かなければ誰も傷つけることはなかったのだが……。


 そう言いながら、こんな段階になってすら、匿名もしくは直接メッセージで「そんなことないよ、○○(本名)くんのこと嫌いじゃないよ」と言われる期待も捨てきれない自分への気持ち悪さは拭えない。僕は一生、エチケット袋を携行して生活せねばならないのかもしれない。

 

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