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脳卒中後の姿勢制御における麻痺側の反応性について

こんにちは!
理学療法士をしているyukiです。

紹介する英論文はこちら↓


掲載雑誌:Neurorehabilitation and Neural Repair, 2009
Impact Factor:3.982
本文文字数:6264文字
本noteの参考文献数:19本(リンクにてPubmedへ)

では、目次になります!


はじめに

 脳卒中患者は静的立位を取る際に健常者よりも体幹を揺らしたり、非麻痺側下肢への荷重を強める。

さらに、脳卒中後の姿勢制御は、視覚情報に依存しやすい(1-3)。

姿勢制御に関する先行研究では、

3ヶ月間のリハビリ介入中に感覚操作(目の開閉)と認知的操作(目を開けて計算課題)の2つを評価し、

脳卒中患者では体重負荷の非対称性が顕著であり、特に前額面での動揺性と動揺速度が増加することがわかっている。

これらの反応は時間経過とともに減少したことから、リハ介入の過程で姿勢が安定し下肢の荷重分布が改善したことが示唆されたが、それでも非対称性は約10%ほど残存していた。

体重支持の非対称性は注意を要する計算課題を行うことで増加したことから、体重支持が完全に自動化されていないことが示唆された(4)。

 さらに、その他の先行研究では、脳卒中後のCOP(身体重心)軌跡は、健常者と比べて規則性が高い結果となったが、リハにより規則性が徐々に低下し、姿勢に注ぐ注意量が減少したことを報告している。

姿勢制御から計算課題に注意を移すことで、COP軌跡の規則性が低下したことから、COP軌跡の規則性と姿勢制御の自動制御には関連性が指示される結果となった。

また、COPの規則性は方向(前後・左右)にも違いがあり、脳卒中患者は前額面のバランスをより制御していることが示唆されている。

Vanら(5)は近年、脳卒中後の姿勢制御の左右差を評価している。
その結果、麻痺側は非麻痺側と比べて、姿勢コントロールを抑制するための貢献度が非常に低いことが明らかとなった。
また、動的な立位を制御する際の関与として、静的な制御と比べてはるかに小さいことがわかった。

さらに、Vanらは、麻痺側下肢の障害と姿勢制御の関係性を把握するためには全体のバランス制御ではなく、それぞれの下肢の機能レベルでバランス制御を評価する必要があると主張している。

臨床的に評価された麻痺側の運動感覚障害とプラットフォーム上の揺れに対する動的バランスとの関与には高い相関関係が期待されている(5)。

静的立位での両側下肢のCOPは、COP軌跡の平均振幅(Acop)と速度(Vcop)の違いを観察することで、姿勢制御に対する各下肢の貢献度について明確なデータを示せることがわかっている(6,4,7,8)。
足関節を安定させるモーメントが下肢筋により非対称性に発揮されるほど、AcopとVcopの両下肢間の非対称性は大きくなる。

いわゆるこの動的非対称性は、姿勢を安定させる足関節モーメントを発生させるために非麻痺側で有利に働く代償機構を反映していると言えるが、これまでこの仮説を裏付ける研究が行われていない現状である。

COP軌跡の動的構造を分析することで、規則性、次元性、局所的安定性を把握する上で特に適していることが証明されている(9,10)。

これまでの研究で、COPの規則性が全体的なバランスコントロールの変化や方向性(横方向と前後方向)の違いについて情報を提供することを明らかにした(9,11,12,13)。

脳卒中患者における姿勢制御の左右方向の違いは、麻痺側と非麻痺側のCOPの規則性の違いとしても現れると仮定し、COP規則性を定量化することで、姿勢制御の理論的な理解や病態に伴う変化(9,12-14)、発達的観点(13,15)、課題の制約(9,11)、専門知識などのメリットをさらに広げることができると考えられている(12)。

そこで、本研究の目的として

従来の方法(AcopおよびVcop)と動的な方法(COPの規則性)を組み合わせて、臨床的に評価される麻痺肢の感覚および運動障害と姿勢制御の左右差の関係について、さらなる知見を得ることを目的とした(5)。

本研究では脳卒中患者を対象に入院中のリハビリテーションにおいてゆっくりとした起立運動を長期的に検討した。

仮説としては、非麻痺側下肢が姿勢制御に大きく寄与していることが予想され,非麻痺側下肢が麻痺側下肢よりも大きな振幅と速度を持つ,より規則的なCOPデータが現れると考えた。
さらに、サブグループ解析を行うことで,この関連性のある寄与に対する臨床的決定要因の影響を明らかにすることとした。
足クローヌスにより、麻痺側下肢の選択的な筋制御が低下し、麻痺側下肢の感覚が損なわれている対象者では、左右方向の制御の非対称性がより顕著になるという仮説を立てた。

対象と方法

対象者:脳卒中患者33名(平均年齢61.2±13.0歳、発症後平均期間9.8±5.2週間)
対象者基準
除外基準
1. 入院時に自立歩行ができていた方
2. 姿勢制御を阻害する可能性のある薬剤を使用していた方
3. 言語による指示に従う損なう認知的または精神的な問題を持っていた方

・ベースライン評価時に30秒以上の介助なしでの起立運動が可能になった時点から、2、4、8、12週後にわたって評価した。

評価方法
・各評価において,静的立位姿勢で,
1. 開眼(EO)
2. 計算二重課題実行での開眼(DT)
3. 可能な限り静止して対称的に立つように指示した後の閉眼(EC)
の3条件について,2回ずつ試行を行った。

それぞれの試験で、患者は両腕を体幹に沿わせ、フォースプラットフォーム(周波数60Hz)上で30秒間裸足で立ち、足は固定されたフットフレームに合わせて踵を8.4cm離し、つま先を矢状正中線から9°の角度で外側に向けた。

臨床評価項目として
・Brunnstromによる下肢運動麻痺
・足クローヌスの有無
・麻痺側足関節の位置感覚は、背屈と底屈の角度が異なる3つの角度で、患部の足首と非患部の足首を一致させるように指示してテストを行い、1回以上のミスがあった場合には「感覚障害」と採点した。

解析方法
・デュアルプレートフォースプラットフォームを使用して、麻痺側と非麻痺側でそれぞれ左右・前後方向のCOP軌道を記録した。
・非麻痺足と麻痺足のCOP軌道の構造をより詳細に調べるために,COP規則性を求めた。
・体重負荷の非対称性と姿勢の安定性は,それぞれの足中心から絶対的前額面平均偏差と動揺面積(COP軌跡に沿った約95%を囲む楕円で覆われた面積)を定量化した。
・COPの規則性はCOP軌跡のサンプルエントロピー(SEn)で定量化された。SEnの値が小さいほど、COPの時系列が規則的であることを意味する。

※その他、具体的な測定方法は情報量調整のため割愛しますので、本文等でご確認ください。

統計解析
3つの被験者内因子(下記の3つ)を用いて、反復測定分散分析(ANOVA)を行った。
1. 両脚(2段階:麻痺側と非麻痺側)
2. リハビリテーション(5段階:ベースライン、2週間後、4週間後、8週間後、12週間後)
3. 条件(3段階:開眼立位、計算2重課題での開眼立位、対称性閉眼立位)。

被験者間因子としての3つの臨床的要因(足クローヌス、Brunnstrom Stage、体性感覚障害)については、それぞれ個別に反復測定ANOVAを実施した。

結果

1. 全体的な姿勢調節体重負荷の非対称性と動揺面積について

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5,319字

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