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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第43回「八王子の激渋酒場をはしご酒」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第43回「八王子の激渋酒場をはしご酒」である。

はじめに

長野県諏訪地方に住んでいる私が東京へ出てくるとき、必ず通るのが八王子市。中央本線の特急あずさ号が停車するので、ちょくちょく立ち寄っている。若者が多く、大都市らしさはあるが、意外に奥が深いまちだ。

八王子駅から西へ数分歩を進め、怪しげなゾーンをかいくぐると、渋そうな酒場や飲食店がちょこちょこ現れる。都会に来たので、今風の店で飲むのもいいだろうが、激渋酒場があるならそちらを選びたくなるのが、中年オヤジのサガというもの。

ならば、激渋酒場をさまよってみるか。

八王子「金扇」~マイペースなやきとりの店

三崎町という信号機のある交差点の近くに、もつ焼「金扇」という店がある。カウンダ―だけの小さな酒場だが、激渋酒場の口開けにはもってこいだろう。早速入ってみよう。

店を切り盛りしているのはご夫婦のようだ。まずは小ビールとそら豆を注文。するとご主人から「焼き物はどうしますか」とお声がかかる。もちろんお願いするつもりだ。タン、軟骨、コブクロをいただくことにしよう。

この店は良くも悪くもマイペースである。

ほかにお客がいなかったのに、焼き物はなかなか出てこない。それもそのはず、ご主人が一串ずつ炭火でじっくり焼いているからだ。大阪のイラチな客だと、文句の一つでも言いたくなるだろう。もともとマイペースの私は気にならないが。

ビールを飲み干してしまったので、麦焼酎の水割りを追加。徳利に入った焼酎、水、氷をセットで出し、自分で割って飲むスタイル。2杯分は作れるのでかえって割安。じっくり焼きあげたやきとり、それと谷中ショウガを頂戴し、腰を据えて飲ませてもらった。

口開けには上々。ごちそうさん。

八王子「広小路」~やみつきほるもんは美味い

続いても、三崎町交差点からすぐのところにある大衆酒場「広小路」を目指す。こちらもかなりの激渋酒場で、店先に掛かっている暖簾が店の歴史を物語っているかのようである。

ちょうどグループ客が店を出た後という絶好のタイミングで、カウンター席に陣取り、まずはハイワサーを注文。水着の女性のヒップを撮影した「美尻」の広告でおなじみの博水社のブランド名が、そのままメニューに載っているのも珍しい。

そして名物「やみつきほるもん」を頼まねば・・・

広小路といえば、やみつきほるもんが代名詞なのである。なぜ、そんなことを知っているのかと言うと、実は吉田類さんが酒場放浪記で紹介して店だったから。放浪記を欠かさず視聴しているので、チェックは怠りない。

さて、やみつきほるもんである。見た目は脂身の串で、かなりクセがありそうに見える。が、口の中に入れると、脂のギタギタ感はなく、想像以上に美味。名物になって間もないそうだが、ほとんどの客が注文するとのことだ。

広小路は創業が1964年というから、間もなく50年(当時)になろうかという老舗酒場。もともとは大将のお兄さんがやっていた店だったそうで、お兄さんが若くして亡くなられたため、大将が後を継いだという。

酒場放浪記の裏話も聞いた。ある時、ディレクターが来店し、あれこれ注文して飲み食いをしてから、やおら出演交渉を始めたのだそうだ。大将が「飲み食いの後じゃあ、断れないでしょう」と苦笑いしていたが、番組が白羽の矢を立てたのもよくわかる。

収録日には、ご常連に店に来てもらうようお願いもしていたそうだ。そうして舞台を整えたなかで類さんが来店し、大将や女将さん、ご常連としばしの時を過ごす。新型コロナで貸し切りでの店紹介となってしまった今では見られない光景だ。

八王子「いかりや」~ご主人と女将さんが醸すご常連酒場

さて、3軒目にやって来たのは小料理「いかりや」である。実はこの店は3回目の来店で、この時は金扇、広小路で飲んできた後だったので、ご常連につられてカツオのたたきを注文したことくらいしか、店内のことを覚えていない。

なので、過去2回の来店エピソードを書かせてもらおう。

初来店は2012年5月。すごく気になっていた店だったのである。そのわけは「いかりや」という屋号を見れば、もしかして・・・と思うだろう。ご主人は、故いかりや長介さんの実弟なのである。

そんなことはおくびにも出さず、たまたま通りかかったという顔で店に入る。さりげなくご主人の顔を見たが、少し長さんの面影があった。この店は典型的なご常連酒場のようで、私のような一見が来るのは珍しい。だからといって一見をおざなりにはしない。

次第にご常連たちの話に加わっていく。ふとしたことから、客の一人が「オヤジさんはいかりや長介さんの弟さんだよ」と教えてくれた。それは知っていたよ。でも、わざと大げさに驚いても見せた。その後も会話が弾んだことは言うまでもない。

2度目の来店は1年後の13年5月。大相撲夏場所観戦で東京入りしたのに合わせて再訪したのである。長さんの弟ということは承知済みなので、話題にはしない。

むしろこの時は、ご主人ではなく女将さんとあれこれ話をさせてもらった。女将さんは「放駒部屋(元大関魁傑が師匠だった当時)の力士が毎場所、番付表を送ってくれるのよ」と言いながら、夏場所の番付表を見せてくれたのだ。

もとより、私が夏場所観戦に行くことを知ったうえで、話を振ってくれたのである。ご主人も話し好きの方だが、女将さんも結構おしゃべりだ。この夫婦の味わいこそが、いかりやの雰囲気を作り出しているのだろう。

「うまい酒、おいしい料理、ここにあり!!」という大看板が目印だったいかりや。ご主人が他界されて店を閉じたようだ。4度目の来店ならず、残念無念である。


今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2014年6月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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