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私だけの特捜最前線→69「死刑執行0秒前!~おやっさんの真骨頂と言うべき人間ドラマ」

※このコラムはネタバレがあります。

今回紹介する「死刑執行0秒前!」は、フィクション性の高い現実離れしたストーリーなのですが、特捜最前線の真骨頂でもある「人間ドラマ」の最高傑作の一つに挙げてもいい作品だと思います。

その主役となるのはおやっさんこと船村刑事(大滝秀治)。死刑の確定判決が出た死刑囚の無実を証明するために、真犯人と思われる同年代の男性に真実を語らせようと全精力を尽くすというのがドラマの肝となります。

死刑執行目前の男を救えるか?

死刑囚の罪状は、高利貸しをしていた家族4人を殺害した尊属殺人。事件から14年後、当時高利貸し一家が雇っていた用心棒の白骨死体が発見されたことから、船村は「無実を証明する新証拠だ」と行動を開始します。

ところが、死刑執行まで1日しかなく、それまでに真犯人を突き止めなければならなくなります。特命課は半ば強引に男性を容疑者として連行しますが、当然のことながら男性は潔白を訴えるのです。

さらに、死刑囚を有罪にした検事(菅貫太郎)が特命課に立ちはだかり、有罪の決め手となった証拠をタテに「不当逮捕した男性を釈放しろ」と迫ります。神代課長は、男性を別の場所に移し取り調べ続行を命じます。

男性は、妻と死別後に別の女性と結婚し、娘のうちの一人は弁護士を目指して勉強中でした。妻は幼い我が子と無理心中したのですが、その原因は高利貸しから借金をしたことだったため、動機は十分あったのです。

ドラマの結論から書きますが、船村の執念の説諭によって男性は自供し、新しい物的証拠となる用心棒の死体を埋めた場所を指し示します。時あたかも死刑執行の直前で、死刑囚は無実が証明されたのでした。

大滝秀治さん演じる人間ドラマ

この作品には、特捜最前線らしい人間ドラマあふれるエッセンスがたくさんあります。その多くの部分を名優・大滝秀治さんが演じることで、非常に印象的なシーンとなっているのです。

夜中にかけて長時間にわたる取り調べの途中、船村は「これが唯一の趣味」という煎茶を点てます。そのお茶は、船村自身も盆と正月しか飲まない貴重品で、それを男性に飲ませるのです。

このシーンの素晴らしいところは、船村自身がお茶を差し出すのではなく、若い津上刑事に代弁させていることです。船村が席を外していることもあり、恩着せがましさを感じさせない演出といえます。

ドラマのハイライトは、弁護士志望の娘が法律を盾に「不当監禁しているあなた方を逮捕できるんだ」といきり立つ前で、船村が「あなたと法律を論じているわけではない。心です」と語り始めるシーンです。

船村は「弁護とは、真実に目をつぶってごまかすことじゃない」と諭し、男性が葛藤する姿に「真実を語らせることが、お父さんを助けることになる」と訴えます。大滝さんの長ゼリフが見事な場面です。

死刑執行というタイムリミットに・・・

そして、単なる人間ドラマに終わらせないのが、長坂秀佳脚本の醍醐味です。死刑執行という取り返しのつかないタイムリミットを設定し、船村はじめ特命課に緊張感を生み出しているのです。

男性がついに自白するシーン。並のドラマではここで一件落着にしてしまいがちですが、神代課長(二谷英明)は「自白だけでは死刑執行は止められない」と、視聴者の希望をバッサリ断ち切る言葉を吐くのです。

神代は「客観的な物的証拠によって、新事実を示す必要がある」と言い切ります。そこで、用心棒が発見された現場に男性を連れていき、男性に埋めた場所を自供させるというプロセスを踏んでいくことになります。

当時山林だった場所が宅地造成ですっかり変わってしまった現場。すでに死体が発見されているため、それを知っている吉野刑事や津上刑事は、タイムリミットに間に合わないと焦り、男性に示唆するよう求めます。

しかし船村は「あの人は一生懸命思い出そうとしている。それを信じて待つ」と語ります。本当は一番焦っていたのかもしれませんが、まるで自分に言い聞かせるかのように静かに見守ったのでした。


死刑執行をタイムリミットにするという脚本の性格上、現実離れした部分が多々見受けられます。ただ、それはフィクションとしてとらえ、あまり重箱の隅をつつくようなことはしないほうがいいでしょう(苦笑)

それにしても、結果論として死刑囚は無実だったわけで、ストーリーとは別に重大な問題を突きつけたとも言えます。死刑執行された後で男性が真犯人と分かった時、いったいどうするつもりだったのでしょう?

起訴して死刑を求刑した検事、検察側の主張を認めて死刑判決を出した裁判所、そして死刑執行を命じた法務大臣・・・っと、これ以上書くと、死刑制度の根幹にかかわることになるので、深入りはやめておきます。

フィクションとして見れば、この作品は特捜の名作なのですから!


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