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私だけの特捜最前線→41「死んだ男の赤トンボ!~流れ弾に当たった被害者を徹底的に深掘りしたドラマ」

※このコラムにはネタバレがあります

特捜最前線は、「事件が発生し、犯人を逮捕する」という本筋から外れたところで、ストーリーを作っていくというドラマを時々見せてくれます。今回紹介する「死んだ男の赤トンボ!」もその一つです。

特命課の刑事たちが麻薬取引の現行犯を逮捕する際、犯人が撃った流れ弾に当たって浮浪者風の男性が命を落としました。ドラマは、事件そのものではなく、男性が何者なのかに焦点を当てていく展開になります。

男性は一代で財を成した大企業の社長でした。外出した車から突然降り、そのまま行方不明になったと思ったら、浮浪者風の姿で死亡していたのです。なぜ、男性はその場にいたのか?謎は深まります。

辣腕経営者だった男性は、労働組合員など多くの人たちと敵対していました。側近である幹部に対しても、容赦なくカミナリを落とすようなワンマンぶりで、「殺されても仕方ない」と陰口を叩かれるほどです。

しかし、紅林刑事(横光克彦)らが身辺を調べてみると、辣腕経営者の外面とは違う、家族思いの父親像が浮かんできました。そこには、貧困が原因で幼い時に生き別れになった妹への情愛が根底にあったのです。

40年ぶりに再会した妹は、男性の会社が立ち退きを迫る児童養護施設の職員という皮肉な立場にいました。男性が施設を強制的に取り壊そうとすると、妹や子供たちは「赤とんぼ」を歌って抗議の意を表したのです。

「赤とんぼ」は、幼い妹をあやす時に男性が歌っていた子守歌でした。その郷愁の思いは男性の胸の奥底に残り、ある時、突然フラッシュバックして、男性を射殺現場となった公園へといざなっていったのです。

紅林刑事がメインとなったドラマですが、主役は男性役を演じた西村晃さんです。様々な顔をもつ男性像を見事に演じ分け、回想シーンでの登場ばかりという中で、圧倒的な存在感を見せつけてくれました。

「流れ弾に当たって死んだ男」というだけの被害者を、徹底的に深掘りしていくドラマは、特捜最前線ならではと言えるでしょう。脚本、演出、そして名優あってこそ、名作として残る作品になったのだと思います。

noteでは連載コラム、エッセイをほぼ毎日書いています。フリーランスのライターとして活動中ですが、お仕事が・・・ご支援よろしくお願いいたします!