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私だけの特捜最前線→46「深夜便の女!~衝動殺人を犯した男の動機を、妻の姿から語らせたドラマ」

※このコラムにはネタバレがあります

今回紹介する「深夜便の女!」は、とても切ないストーリーです。主役となるのは、東京へ仕事を探しに出かけたまま数カ月も行方不明になった夫を探しに、単身上京してきた妻(長内美那子)です。

110円のために殺人を犯してしまった男

通勤途中で若いサラリーマンが殺害された事件を捜査する紅林刑事(横光克彦)は、現場に散らばっていた50円玉1個と10円玉3個を発見します。犯人が落としたものだとみて、証拠品としました。

そんななかで、神代課長(二谷英明)の友人という大企業の専務宛に、事件を起こしたことを示唆する脅迫状が届きました。その筆跡が、妻が探している夫のものと似ていたため、紅林は妻の夫探しに協力します。

結局、事件の犯人は夫だったのですが、そこに至る過程が非常に切ないのです。夫は事件当日の朝、面接を受ける会社までの電車賃100円と会社にかける電話代10円だけを持って簡易宿泊所を出ます。

夫は、専務が仲介してくれた会社なので再就職がほぼ決まりだと思っていました。しかし、会社に電話すると「聞いていない」との返事。続けて専務に電話をしたら「忘れてた」とあっさり言われてしまうのです。

絶望に打ちのめされる夫に、通勤を急ぐサラリーマンがぶつかり、なけなしのお金をばら撒いてしまいます。罵声を浴びせるサラリーマンに激情し、思わず近くにあった鉄パイプで殴りかかってしまったのです。

事件の遠因を作ったのは専務でした。この男はふだんから「上から目線」で人を見下すような態度を取っていました。専務が夫に対して、あまりにも無責任だったことに紅林は怒りをあらわにします。

紅林を制しつつ、神代は静かな口調ながら「たった110円のために人を殺す男もいる。その気持ちがお前にわかるか」と怒りをぶつけます。二人の姿に、専務も事の重大さをようやく悟るのでした。

妻の存在がドラマに厚みを持たせる

さて、このドラマの主役である妻について触れておきましょう。妻は、事件とは全く関係がありません。しかし、事件を起こしてしまった夫の身の上を語る上で、妻の存在が重要な位置づけになっているのです。

紅林刑事との会話を通して、夫が仕事探しに出てきた理由、夫と専務との関係、そして重要証拠となる脅迫状を入れた封筒の持つ意味、それらが少しずつ紐解かれ、やがて事件の動機へとつながっていきます。

夫を思い続けるけなげな妻を演じる長内美那子さんは、まさにはまり役でした。夫の消息がわかり、安堵してコップ酒を飲む姿・・・その直後、夫が容疑者として逮捕されるのを見て、絶望に打ちのめされる姿。

そして、夫が現場検証に立ち会うのを物陰から見守る姿。現場検証を終え、被害者が倒れた場所に手を合わせ「許して下さい」とつぶやく姿。と、その時、妻はおもむろに植え込みの中で何かを探し始めるのです。

不思議に思う紅林に、妻は「夫が落としたお金、10円足りないんです」と言います。確かに、夫の手元には90円残っていたはずですが、現場に落ちていたのは80円。これには私も思わずハッとしました。

妻は植え込みから10円を探し出し、笑みを浮かべます。その10円玉に、夫の姿を見たのかもしれません。「後味の悪いドラマ」がウリの特捜最前線ですが、久々にスッキリ感の残ったラストシーンでした。

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