酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第15回「十三西口しょうべん横丁、初めての夜」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
一人酒ができなくなって幾歳月・・・再開の日を、ただ黙々と待ち続けていても仕方ないので、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第15回「十三西口しょうべん横丁、初めての夜」である。
はじめに
これまで大阪で一人酒をした主なエリアは、天満、京橋、新世界そしてあいりん地区であった。だが、どこか忘れている。それも濃いところを・・・そうだ、十三だ。関西以外の人だと、地名すら読めないところ、それが「じゅうそう」である。
あいりん地区ほどではないだろうが、十三もかなりディープなゾーンだと聞いている。梅田駅から阪急電車で2駅、新大阪からも近く、寄ろうと思えば簡単に寄れたまち。ようやく足を踏み入れるチャンスがやって来た。
十三へ出陣じゃぁ!
十三「丸一屋」~西口改札から徒歩2秒は本当だった
十三は阪急電車の駅やガードを挟んで東口と西口に分かれている。西口の駅に隣接する一帯は「しょうべん横丁」というダークな飲み屋街。酔ったオヤジたちが、駅側の石垣に立ち小便をしていたことが名前の由来だそうだ。
初めての十三ならば、やはり西口の方がいいだろう。しょうべん横丁は、ちょっと匂いそうな感じだが、きっとコアな店があるに違いない。ちなみに横丁の小路の奥に公衆便所があるが、男の小便側は吹きっさらしで、近くを通ると確実に匂う。
口明けはどうするか・・・十三では考える必要が無い。なぜなら、西口の自動改札を過ぎて直進すれば、立ち飲み酒場「丸一屋」に突入してしまうからだ。丸一屋に用がない人は、わざわざ右左折しなければならない。
「改札から徒歩2秒」のカンバンに偽りはなかった!
生ビールの中ジョッキとキスの天ぷらを注文する。カウンターの中には若い兄さん2人が元気に切り盛りしている。彼らは非常にノリがよく、それが店の活気にもつながっている。ノリに乗じて、ついでにおでんの玉子と大根を頂戴した。
気分よく飲めるとはいえ、立ち飲みなので長居無用。目的はその先にあるしょうべん横丁の探索なのだ。サッと飲むのには絶好に立地条件とはいえ、店を出る時、まっすぐ歩き過ぎると、改札に入ってしまうので注意が必要である。
十三「平八」~界隈で最も安いと宣伝する店
丸一屋を出て、駅沿いに細い小路を歩く。まるで長屋のように小さな店が居並んでいる。お客で賑わっている店もあれば、ドアに閉ざされ中がうかがい知れない怪しい店もある。1軒1軒調べ歩くには、かなり通わねばならないだろう。
最も奥の公衆便所付近からUターンをする感じで一つ向こうの小路を歩く。今度は両側に店が居並んでいて、さらににぎやかさを増す。そのうちの1軒で店のオヤジから呼び込まれ、ふらふらと店内に入り込んだ。大衆酒場「平八」である。
この店は界隈で最も安いと自称している。
品書きを見て、確かに安いとは思う。でも、動物園前「大万」の激安にはかなわない。レモンチューハイと串カツ6本セットを注文。大阪に来たのだから串カツは外せないな。
串カツのラインナップはエビ、カツ、玉ねぎ、しし唐など。衣は薄め、二度漬け禁止のソースは濃いめだった。良くも悪くもといった感じだろうか。
それよりも、目の前にある大皿料理がなかなか美味そうだ。店内をうろうろしている店員に声をかけ、切り干し大根を頂戴した。ヘルシー志向というわけではないが、串カツのような油系には、あっさりした肴を追加するのがいちばんいい。
十三「立呑の店くれは中島酒店」~東口の角打ちで渋く飲む
しょうべん横丁をいったん離れ、ガードをくぐって東口も物色する。西口ほど酒場は林立していないが、飲み屋はそれなりにありそうだ。商店街からちょっとだけ離れている角打ちの店を訪ねる。「立呑の店くれは中島酒店」だ。
角打ちらしい落ち着いた雰囲気。しょうべん横丁の飲み屋とは違う。中年のご夫婦が切り盛りしており、先客も静かに飲んでいる。自家製と思われる塩辛があったので、日本酒と一緒に所望。さらにホタルイカも頼んだ。
角打ちのわりには、おでんをはじめ肴は一通りそろっている感じ。繁華街から外れているせいもあってか、とにかく静かである。ご常連でも来れば、また雰囲気は変わるのかもしれないが。
東口にはもう一つ、有名な角打ちがある。
実は、中島酒店に来る前に、その角打ちの前を通ったのであるが、店先に自転車がずらりと置かれ、店内からおっちゃんたちのガヤガヤとした話し声が聞こえてきて、思わずたじろいでしまった。一見で入るのには勇気がいりそうな店。その名はイマナカ酒店。
・・・余談が過ぎた。中島酒店の話だったな。塩辛は美味かったし、日本酒もしっかりと飲み干した。角打ちには長居は似合わない。イマナカ酒店には入れそうにないので、再びしょうべん横丁へと繰り出すとするか。
十三「吾菜場」~定番酒場、初めての来訪
かなり飲んではいるが、まだまだいけそうな感じだった。さっき寄った平八の周辺にも、なかなか良さそうな酒場が居並んでいる。どの店も、カウンターやテーブル席はお客さんでいっぱい。そのうちの一軒に潜り込む。
後に、十三の定番酒場となる「吾菜場」である。
最初、屋号が読めなかった。「あなば」と読ませるそうだ。あなば、とは穴場のことであろう。洒落た屋号が気に入った。おばちゃん店員に芋焼酎のお湯割りと「きずし」を注文。大阪の一人酒にきずしは欠かせないのだ。
さすが4軒目となると、相当酔っ払ってくる。こののち、吾菜場には何度も訪れるのだが、初来訪の時のことは、あまりよく覚えていない。でも、居心地がよかったことだけは確かなはずである。だから、二度目、三度目があったのだ。
もうちょっと飲めそうだったので、阪急電車で梅田に戻り、新梅田食堂街でもう1軒だけはしご酒をした。吾菜場で打ち止めでもよかったのになぁ。
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2009年3月の備忘録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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