七月短歌

注染の浴衣の薔薇よ
愛すれば愛するほどに青く染まる指

色水の流れてゆくにまかせては洗う注染 夏は来にけり

鞄から出ているうさぎの両耳も
優先座席に座す理由とされ

二万でと声かけられて五万でと
答えるほどには貧困である

「妖精の翅もぎったの」
300円のネイルホリックで指先染めて

いちじくの木を呪うよに夜毎われ
トリキュラーの色見つめ飲み込む

自殺企図のちの仕打ちの月経にラジオは森田童子を流し

雨あがりぬらり線路の黒色の終末ののちの世界うるわし

かささぎが橋をわたしてくれねども
大蛇になって君を焼きます

ほのぐらき生活福祉課窓口でプリンセスみな保護受給者、と

けほけほと粘膜熱しぼんやりと輪郭のない淋しさを追う

湖を歩けなくても歩けると信じて沈むさまを見ていて

初句:幸せの

幸せの過ぎゆく速度の速さかな
傷つきやすい紅いペディキュア

幸せの速度と思う 血が腕をしたたり落ちてゆくのを見ては

初句:ささやかな

ささやかな供物として飛ぶ高層階
君だけが知る美(は)しき世界よ

初句:どうせなら

どうせなら梔子の香にうもれつつ
来ない明日の話をしよう

初句:息をする

息をする君の息だけすいこんで
ゆるやかに心中したき昼

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