XはやがてTに、そして//

自宅の窓からふと外を見やると、むこうの方で2台の赤と白の大きなクレーンが「これ以上ないだろうな」と思われるベストバランスでX字に交わっていた。

ビジュアル系バンドブーム世代の脳裏にXジャンプがよぎる。もちろんクレーンは飛び上がったりなどしないけど、きれいなX字をえがくそのクレーンがなんとなく気になりはじめ、折にふれて窓の向こうを見るようになった。

すると、刻々と動いていることに気付く。Xだったのが、斜め45度に転がったT字のようになったり、WEBサイトのアドレスに必ずある「//」になっていたり。視線を向けるたびに、クレーンはくるくると姿を変えていた。

あのクレーンはなんの工事をしてるんだろ?

そう遠くないうちに、わたしはきっと確かめに行くだろう。今どんなかたちを描いているんだろうと何度も見ているうちに、あのクレーンが何をしているのか、知らないままでいることなど、とてもできない気持ちになっていた。

通りすぎていく風景のひとつでしかなかったことが自分ごとになる瞬間は、日々の中でささやかに、音も立てずに訪れる。

Xだったり、斜め45度に転がったTだったり、「//」だったり。世界の片隅で奮闘するクレーンがその仕事を終える時、もしかしたら泣いてしまうかもしれない。

たぶん更年期だ。

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