自分の中の壁をハツリたい欲

【2024.4.1】

新年度あけましておめでとうございます。そう言いたい朝だった。

ここのところ「年度」でしっかりくくられた仕事に携わっているからかもしれない。

正午から相手先を訪問しての打ち合わせなどの予定があり、車で出かける。

駐車場を出た先に見える最初の横断歩道脇にピシッ!と音がしそうな真新しい制服を着たお嬢さんとぼっちゃん、そして子どもたちと同じくらいピシッ!と整えられたスーツの男女が道のようすをうかがっていたので、早めから減速して「さぁどうぞお渡りなさい」と促した。

フロントガラスのすぐ向こうを、手をつないだ姉弟がそれぞれ空いたほうの手をあげて反対側へと渡っていく。道路脇にある保育園で入園式だったんだろうな。

訪問先につくまでの1時間ちょっとの行く先々でピシッ!の人たちを見かけるごとに(新年度あけましておめでとうございます)の気持ちが盛り上がった。

運河のほとりにある洒落たお店でお昼ごはんを食べながら、2024年度もよろしくどうぞ一緒にやっていきましょう、という話をする。

食べ終え今年度から借りることにしたという事務所にお邪魔すると、オートロック式の扉の中はまるっきり廃墟で、時代が反映された凝ったつくりの建物が独特のカビ臭さに包まれていて愉快な気持ちがする。

キャンプ道具で当座をしのぎ、これから内装を整えるのだそうだ。壁をハツることがあるなら呼んでもらいたいなと思い、自分の中に壁をハツリたい欲があったことに驚く。

廃墟だけど気持ちのよい風が吹きこみ、夜がにじり寄るにつれて差し込む西陽のなんとも健やかなあたたかさに目を細めたり貰ったチョコパイをかじったりしながら新年度のたくらみが進む。

出入りする人を迎え見送り、電話が鳴ったりかけたりして忙しくする仕事仲間がふと電話の相手に「新年度あけましておめでとうございます」と言ったので、あぁやはり今日はそう言いたい日だったのだなと小さくこっそりうなずいた。

家に帰ると、ここのところ玄関まで迎えにくることがなくなっていたねこが飼い主の帰宅を察知してドアの前におり、今日という一日への感慨深さにだめ押しされた。

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