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初恋の相手が義妹になった件。第15話

 正直、台所で百花はこの上ないくらい足手纏いだった。
 包丁は怖くて持たせられず、フライパンも持てない。冷蔵庫から食材を取り出すことと、調味料の分量を量るくらいしか役に立たなかった。

「調理実習とかどうしてたんだ?」

「料理が得意な班にいたら、みんながやってくれるから」

 僕はそれを聞いてため息を吐く。

「でも、悠人と結婚したら困らないね」

「それでも、できることに越したことはないと思うぞ。僕だっていつもできるとは限らないし、それで困るのは百花だぞ」

「ぐぬぬ」

 僕はこんなに見事な「ぐぬぬ」を聞いたことはない。

「……まあ少しずつ練習していこう。でも、あとは僕がやっておくから、百花はゆっくりしといて」

 そう言うと、百花はその場を退くことはなく、隣で料理の様子を見ていた。
 僕はその目線を特に意識することなく、作業を進めていく。

「ほらできたよ」

「わーすごい!」

 生クリームがなくとも、牛乳を代用した簡単カルボナーラ。
 多くを望まなければ具材なんてなくてもカルボナーラソースさえ絡んでいれば十分美味い。

「カルボナーラって難しいんじゃないの?」

「まあちゃんと作ろうと思えばもう少しだけど、ペペロンチーノにたまごと牛乳入れて何ちゃってって感じのものだよ。ま、ネットで見たレシピを真似ただけだけど」

 あっという間に食べ終えた僕らは洗い物を終えると、ソファーにいる二人を百花は見ていた。

「悠人、二人起こさなくていいかな」

 流石に寝過ぎだ。体も痛くなるだろうし、そろそろ起こすか。
 僕は父の肩を叩く。少し唸り声を上げて、父は目を覚ました。

「あれ、寝てたか……ってもうこんな時間じゃないか!清恵さん!」

「ん……どうしたの? って、もうこんな時間!?」

 二人は飛び起きて、僕らを見つめる。

「夕食、簡単にだけどパスタ作っておいたから、食べて。足りなかったら何か作って貰えば」

「あ、ありがとう……流石悠人君ね」

「私も手伝ったよ」

「……まあ手伝ってたな」

 僕は苦笑いを浮かべながら頷いた。

「そう、ありがとう」

 僕は風呂掃除をしに向かった。ここ最近は母に任せっきりだったから、久しぶりに自分でやろうと思ったからだ。

「私も手伝う」

 二人で風呂場に立つと少し緊張した。
 もちろん、服を着ているが、本来裸で立ち入る場所にこうして二人で立っているのだ。僕が一方的にドキドキしていた。

「変な想像しないでよね」

「馬鹿言うなよ!別にそんなこと……」

 僕はとりあえずスポンジと洗剤を持って浴槽を磨き始めた。
 百花は鏡や棚などの細かい部分の掃除を担当した。
 とりあえず二人で浴室内をピカピカにして、僕は栓をするとお湯張りスイッチを押した。
 脱衣場に出た二人は、少し湿った肌と髪をどうするか悩んでいた。
 足をタオルで拭くと、一旦、部屋に戻った。
 階段を上がろうとした時に、母がこちらに来た。

「ありがとう。お風呂もやってくれたのね」

「いいよ。前はいつもやってたんだし」

「そっか、そうよね」

 母はそう言うと「パスタ美味しかったよ」と耳元で囁く。
 なぜかドキドキしたが、僕はその高鳴る鼓動を悟られないように部屋に戻った。
 前に百花が言っていたが、清恵さんは綺麗だし正直、歳不相応の若々しい外見だ。
 だからか、距離を詰められると少し身構えてしまう。

「何考えてたの?」

 階段の途中で止まっていた僕を見て百花が言う。

「どうすれば百花が素直になるのか」

「は?」

 百花はそれを聞くと僕に歩み寄り、キスをしてくる。

「そんなの考えなくても、私は素直だから無駄なことはしないことね」

 僕は本当、一生懸命愛されてる。そんな百花に応えるように僕は強く抱きしめた。

「どうしたの……急に」

 僕もよくわからない。ただ、こうしたいだけだった。
 僕が抱擁を解くと、百花は不思議そうに僕を見ていた。

「ごめん」

「謝らないで……その、嬉しかったから」

 百花はそう言うと、部屋のドアを閉めた。
 僕も自分の部屋に入り、ベッドに寝転んだ。とりあえず耳にイヤフォンを突っ込むと音楽を流した。
 滑舌の良いボーカルと、調和性の高いギターが鳴り響く。僕の大好きなアーティストだ。

「そういえばこの曲の曲名もラビューラビューだな」

 僕は今日行った喫茶店のことを思い出していた。ただの偶然か、店主の好みでそうしているのか、気になりはしたが、今は特に詮索することなく、曲を聴いた。その後も数曲聴いてイヤフォンを外した。
 丁度、風呂が沸いた音が鳴っていたので、僕は着替えを持って下に降りようとした。

「あ」

 百花と鉢合わせて、百花も風呂に入ろうと思っていたらしい。

「……お先どうぞ」

「え?」

「僕は後でいいよ」

 そう言うと百花は少し考えてから、口を開いた。

「一緒に入らない?」

「……は?」

「だから一緒に……」

「わかってる。でも、なんで?」

「一緒に入ってみたいなって」

 僕は悩んだ。脳内で何人もの自分と議論を交わした。白熱した殴り合いも伴う議論の末に出した答えは……。

「わかった。だけど、一つ言っておくけど、僕だって男だ。一緒に入ったら興奮することだけは忘れるなよ」

「わかってるよ……」

 百花のどこか覚悟の決まったような表情に、僕は違和感を覚えた。
 だがまず第一の関門がある。リビングにいるであろう両親に悟られずに二人でまず脱衣場に向かえるかだ。
 ただ一つ、母は別に反対しないだろう。僕らの関係を楽しんでいるファンの一人だからだ。

「いくよ」

 さっと廊下を通り過ぎて、なんとか脱衣場にバレずに入れた。
 そしてここからは僕の自分との戦いが始まる。

「ぬ、脱ぐよ?」

「うん……」

 僕らは互いに恥じらいながら、お互いの裸を見る。
 邪魔なものを剥ぎ取り、二人はお互いを見つめるが、目線を互いに外さず、首から下をどうにか視界内でぼかしていた。

「た、タオル巻くね」

 僕も股間を隠すようにタオルを当てがった。

「ふう……私達ダメだなぁ……」

「だな……大人にはなれないのか」

「それはシタイってこと?」

「違うよ。大人なら、裸を見るくらいどうってことないんじゃないか?」

「大人でも羞恥はするでしょ。見るのも、見られるのも」

「そうだな」

 僕らは浴室に入り、湯煙の中で少しは恥ずかしさを取り除くことができた気がした。

「背中流すやつ?」

「そうだね。お互いの背中を洗うってやつ。私、初めてだ」

 僕らは先攻後攻を決めるためにジャンケンをした。
 結果、百花が勝ったため、百花は先攻を選んだ。

「ほら座って」

 僕はバススツールに座るとまず頭にシャワーを掛けられた。

「ちょっと、背中だけじゃないのかよ!」

「いっそ全身、洗いっこしようかなーって」

 僕は自分の手でシャンプーを取り、泡立てるが、百花にそれを止められた。

「あっちょっと!」

 百花の胸が直に僕の背中に触れて、僕の脳内にあるコントロールセンターが大パニックを起こし始めた。

「えへへ、泡ゲット」

 百花は何も気付いていない。今の体制では、完全に胸を押し付けている状態だと言うことを。

「さて、洗ったげるからジッとしててね」

 体を離した百花は何事もなかったかのように、シャンプーをし始めた。
 僕は仕方なく、されるがままになった。
 上から順番にシャンプー洗顔と終わり、ついに体を洗う。

「……ドキドキするね。男の子の身体をまじまじ触るの初めてだ」

「や、優しくしてね」

「何でそんな女っぽいこと言うのよ」

 百花はそう言うとボディータオルを力一杯押し付けてきた。

「まあ冗談として……」

 まじまじと僕の体を見る。その恥じらいを含んだ視線と表情に、僕も釣られて恥ずかしくなった。

「変なこと、考えないでよね」

 そう言って百花は僕の身体を本格的に洗い始めた。

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