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㉑-②攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

リュカの腕が、腹の底まで抉ったような感覚だった。
自分の体がまるで、二つに分かれたような衝撃だった。
だが、何故か生きている。エリーが気を失っている。ルシアが腕を抑えている。
俺はリュカの背に乗りどこかへ連れて行かれている。
どこに向かうんだ?
俺はエリーと一緒に王都へ向かわなかればいけないんだ。離してくれ、降ろしてくれ。

「……!」

ベッドの上。よくもまあ、何度も目覚めたらベッドの上ということもあるもんだ。
気がついてすぐ腹を摩る。

「腹減った……」

少しふらつく足取りでベッドのを抜け出して部屋の扉を開ける。
どこかわからない。ボスウェルの宿にしては作りがしっかりしているし、少し肌寒い。

「ルカ!」

エリーがそう言って駆け寄ってくる。

「もう大丈夫なのですか?」

「ああ、もう平気だ。てか、俺あんまり覚えてないんだけど、なんでベッドの上で眠ってたんだ?」

「ごめん……私のせいだ」

「リュカ……」

リュカの姿を見て少し思い出してきた。
リュカを止めようとして腹を裂かれた事、それからリュカに連れてこられた事を。

「私がいけないんだ。私が……だから、なんでもする!ルカの言う事なんでも聞くから!」

「いいよ別に……事情があったんだろう? じゃなきゃリュカがあんな事するわけがない」

エリーもルシアも呆れ顔だった。

「全く、お人好しにも程がある。それで身を滅ぼすことになり得るかもしれないんだぞ」

「そうです!実際、死にかけたんですから、もっと怒ってもいいのに……」

「私が言うのもなんだけど、私は許されない事をした。だからどんな罰でも受ける……その、ルカが望むなら体ででも……」

リュカはそう言いながら来ていたシャツの胸元を引っ張る。

「は、はしたないですわよ!」

「でも、ルカくらいの年頃なら喜びそうかなって。それに私、エリーよりは胸大きいし」

「ぐぬぬぬ……」

エリーは顔を真っ赤にして怒っていた。
前にも気にしている素振りがあったが、胸が小さいのが悩みなのか。

「俺はエリーの方が好きだけどなぁ」

俺にはわかった。
俺は間違ったのだと。
そしてその投下した爆薬が大きな畝りを作り押し寄せる。

「ど、ど、ど、どう言う事ですの!私達、兄妹ですよ!」

「え、兄妹?」

「そうです!そのことについて、父に聞かねばらないのです!」

「ほら、騒いでないで、席に座りなさい」

長老夫人がそう叱りつけると、孫であるリュカはもちろん、その貫禄に慄いたエリーと俺も急いで席に着いた。

「全く賑やかだね。リュカはちゃんと謝ったのかい?」

「うん、ばっちゃん」

「この子は昔からはやとちりというか、せっかちな性格だからね。そのせいで治療法が上手く行かなかったことに腹を立てたんだ。本当にごめんなさい」

「いえいえ……俺も気持ちはわかるんでl……」

「本当、人がいいのですね」

「ねえ、ばっちゃんはエリーとルカが兄妹って知ってた?」

「ああ、さっき聞いたよ。まさか姫様があの愚王の娘じゃなかっただなんてね」

「愚王……ですか」

これまでの街でも何度かその言葉は聞いていた。
民に寄り添わない政治を敷く王。つまりはエリーの父。過去にも反国王組織が作られたこともあるらしい。が、それらを処する暗部組織があるとも聞いたことがある。

「ルシアさん、未来ではどうなっているんですか?」

「それは答えられん。それを言った時点で私は未来に強制送還されるだろうな」

「過去を変えることには関われるのに?」

「直接未来でどうなるか、それを伝えることが禁じられているだけで、過去の改変は許されている。まあ、それで未来の存在がなくなってしまうこともあるがな」

「以前のルシアさんみたいな?」

ルシアは頷きながら牛のステーキを頬張る。
特製のタレに肉汁が混ざって、それをパンに染み込ませる。タレのバターと合間って物凄く美味い。

「これは?」

「温帯地域で獲れる穀物さ。殻を取り除いて丁寧に水洗いして炊き上げたものだよ」

丼に築かれた白い山。黙々と湯気が立ちこめる。

「そこに、タレをしっかりつけた肉を乗せて一緒に食べてみな」

俺は言われた通りにする。
タレと肉汁を肉で掬うとそのまま白い山に乗せて一気に掻き込んだ。

「うま……」

ほくほくのこの穀物は米というらしい。
その米が噛めば噛むほど甘さを滲み出す。

「本当美味しそうに食べるねえ」

「本当に美味しいんですよ!」

団欒の時間。やっぱり俺はこの時間が好きなのかもしれない。
そして長老が鎧をくれた。
昔、父がここに置いて行ったものらしい。
その時俺も一緒だったらしいが、もちろん幼い頃のことであるから覚えていない。

「ようやく、騎士らしくなった」

「ただ、剣はウィルに預けたままですわ」

「だったらこれを間に合わせで使うといい」

イシュバーンに渡された剣は竜の装飾のある騎士剣だった。

「いいんですか?」

「ああ、軽くて丈夫なドラゴニウムで作られているこの里でしか作られてない物だ」

「ドラゴニウム……聞いたこと無いですわね」

「でも父さんのと比べれば少し短いな……」

「極東の国では、長い剣と短い剣を両方使う、二刀流という流派があるらしいが、まあ、好きに使ってくれ」

「二刀流……」

その言葉に俺は引っかかった。なんだかかっこいいじゃないか。

「ありがとう……」

俺達はとりあえずもう一泊してから王都へ向かうことになった。
鎧を脱いだ俺は部屋に戻り、さっきまで眠っていたベッドに腰掛ける。
しばらく貰ったドラゴニウムの剣を振ってみたりしていると扉をノックする音が響いた。
扉を開くと、そこには少し酒に酔ったルシアが立っていた。

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