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初恋の相手が義妹になった件。第12話

 ウサギのロゴの入ったTシャツに僕の手のひらが乗る。
 その触れた布の感触に、僕は興奮していた。

「悠人……」

 僕はそれを抑えられずに、ただ欲望のまま身体が動いてしまった。

「大人しくして」

 その一言に危機を感じたのか、百花は僕を突き飛ばした。

「……そういうことは、なしにしようって言ったじゃない……なのに、なんで?」

 僕は黙って俯いた。

「ごめん……」

 百花が部屋を出ていくのを、僕はその場に立ち尽くし、その姿を黙って見送るだけだった。
 言葉を何か、発するべきであったが、狭い出口に、色んな言葉が鬩ぎ合い、詰まりを起こしていた。

「私もごめん。なんか曖昧な態度ばかりだよね、私」

 そう言って部屋の扉が閉まった。
 夕飯の時、余りにも無言を貫いたせいで、両親は喧嘩でもしたのかと心配していた。

「そうだ。父さん、水曜日から週末まで出張で家を空けるから、悠人、二人のことよろしくな」

「よろしくって、何をよろしくなのか……」

 僕は食べ終えた食器を直ぐに流し台へ持っていき、部屋に戻った。
 それから水曜日までは、僕と百花の間の気まずい空気に感化されてしまったのか、家の中は静かだった。

「それじゃあ、行ってきます」

 父が出張に出掛けた水曜日の朝、僕は普通に学校へ行き、授業を受けて放課後になると家に帰り、夕飯の時間まで部屋で寛いていた。


「悠人」

 ノック音の後にそう言って、百花が部屋に入ってきた。

「あの……お母さんが呼んでる」

「わかった」

 僕は返事をして、部屋を出る。至って普通のことだ。


「あ、悠人。これ手伝ってくれる?」

「餃子……ですか?」

「そう。三人でやれば早く終わると思って」

「いいですよ」

 僕は黙々と餃子を包んだ。
 別に他を気にしないためにしているわけではない。元々、餃子を包むのは好きだからだ。

「……百花、もうちょっとどうにかならない?」

「お母さんと悠人が上手過ぎるのよ」

 歪な形の餃子を数個見ながら母はため息を吐いた。
 僕は変わらず餃子を包み、なんならペースを上げてやっていた。
 できた頃には腹の虫も丁度泣き始める頃で、テーブルの真ん中にホットプレートを出して、餃子パーティーが始まった。

「お母さん、たまには飲んじゃおっかな」

「やめときなよ……弱いんだから」

 百花がそう言って止めたが、母は構わずビールを飲み始めた。
 焼きたての餃子をビールで流し込む。徐々に出来上がっていく母を見て、僕は苦笑いしかできなかった。

「ねえ……二人はどこまでしたの? キスはもうしたんでしょ?」

「もう、お母さん何言ってるのよ」

「その様子だと、キスはしたのね。じゃあ、エッチはしたの?」

「……酔いすぎだよ、母さん。水飲みな」

 僕は水を汲んで来て、母に差し出す。
 その水を一気飲みすると、母はその場に伏せって寝てしまった。

「もう……」

「どうする? ベッドまで運ぶか?」

「とりあえずソファーでいいんじゃない? 部屋から毛布取ってくる」

 百花は両親の寝室へと向かい、僕は母を抱えてソファーに横にさせる。

「悠人……」

「起きてた?」

「悠人に優しくされるのって、こんなに嬉しいのね。百花に嫉妬しちゃいそう」

「何言ってるんだよ。母さんには父さんがいるだろ」

 僕は母が触れた右頬に手をやり、その手を元に戻した。

「百花は?」

「毛布取りに行った」

 僕はもう一杯水を汲んで来て、ローテーブルの上に置いた。

「なんか、慣れてるわね」

「父さんが……たまに酔い潰れる時があったから。それでかな」

「へえ、そうなんだ。私の前ではそんなの見せた事ないわ」

「大体、母さんの命日にね……酔い潰れると夢で会えるからってなんかロマンチックなこと言ってた」

「……ねえ、私ってちゃんと悠人の母親やれてるかな」

「十分できてるよ」

 僕はそういうと、ソファーの空いているスペースに腰掛けた。


「毛布持ってきた」

「ありがとう、でも部屋に戻るくらい、大丈夫だから」

 立ち上がる母は、足元が覚束ない。
 千鳥足のようになりながら寝室へ向かうのを僕は横でサポートした。

「ごめんね、悠人」

「気にしないで」

 ベッドのそばまで来ると、母は僕に腕を絡ませたままベッドに倒れ込んだ。

「ちょっと!」

「お母さん、何してるのよ」

「えー別にいいでしょ? 私だって悠人に優しくされたいな」

 僕を引き剥がし、百花はそのまま僕を引き摺って部屋から出た。

「全く……」

 僕らは食器などを片付けると、僕の部屋に戻った。

「何でついてくるんだ」

「もしかして、お母さんとキスとかしてないでしょうね」

「するわけないだろ。親だし、人妻だし」

「それがいいっていうじゃない?」

「どこ調べのデータだよ……」

 僕は呆れながら言うと、百花は僕に後から抱きついた。

「素直になって喋っていい?」

「いいよ」

「正直、嫉妬した。お母さんでもさ、悠人にとっては異性には変わりないから、もし悠人が靡いたらどうしようって」

 百花の力が徐々に入るのがわかる。

「日曜日からちょっと距離取ってたから、なんかね、どんどん悠人が欲しくなる。会ってないわけじゃないけど、こうやってくっついたりしてなかったから、悠人の体温を感じたくなる」

「で、さっきのを見て爆発しちゃったのか?」

「そうかも……だからね」

 百花は僕の向きをひっくり返すと、そのまま顔を引き寄せてキスをした。

「……今日はいつになく激しいな」

「この前悠人がした感じ……本当にがっついて来る感じがなんかよかったから」

 たしかに、いつものソフトなキスよりも何か違う。

「悠人はお母さん、好き?」

「……好きだけど、百花ほどでなないよ」

「そう……例えばさ、私がお父さんと仲良く腕組みとかしていたら、どう思う?」

「嫌だな……想像したくない」

「私も、悠人がお母さんとそれし過ぎてると嫌」

「なるほど、そう言うことか」

 嫉妬しちゃうから、あんまり母とはベタベタしないでくれということか、と僕は納得した。

「でもお母さん、スキンシップ多いからなぁ……」

 頭を抱える百花を見て、僕は笑った。

「お母さん、年齢より断然若く見えるし……」

「確かに、父さんより年上だよな?」

「そうなの……だから私心配で」

「何が?」

「悠人が魅了されないか」

 僕は何を言ってるのかよくわからなかったが、とにかく、百花は母に僕を取られたくないんだろう。

「その為にも私、頑張らなきゃだね」

「何を?」

「こう……お母さんみたいにおっぱい大きくするとか?」

「あー、母さんたまに胸元の防御力極端に低い服着ている時、まじでやばいよな」

「母親、そんなエロい目で見ない方がいいよ」

「エロい目では見てない。ただ、すごいなぁって博物館の展示を見るくらいの感覚だよ」

 僕はそう誤魔化すと、百花は何故か、シャツの襟を引っ張って僕に見せた。

「どう?」

 シャツの中にある二つの丘。それを覆う白いブラ。柔らかそうなその膨らみに僕は一つ息を飲んでいた。
 どう、と訊かれても、どう答えればいいのかわからなかった。

「うーん、やっぱり母さんから比べると控えめっていうか、でも十分あると思うよ……って何で僕が鑑定しなきゃいけないんだよ!」

「うふふ……でもさ、なんか見られて恥ずかしいって思わなくなってきた」

「……そんなもんなのかな」

「でもさ、よく揉まれたら大きくなるって言うじゃない」

「揉めっていうのか?」

 百花は顔を赤くしてそれを否定した。
 ペシペシ叩く音が響く中、一階から大きな物音が聞こえたので僕らは急いで下に降りた。

「イテテ……」

「お母さん?」

 水を取りに行こうとした母が、盛大に転けていた。
 僕らは手を引き、母を立ち上がらせると、母は僕に抱きつくように引かれた勢いで倒れてきた。

「あー悠人……」

「ちょ、ちょっと、お母さん!」

「んー? 百花、嫉妬してる?」

「そ、そうだよ!」

「えー、じゃあもっと嫉妬させちゃおっかな?」

 母は唇を尖らせて僕に向けてくる。

「遊んでないで、ほら、水飲むんでしょ?」

 僕はそれを解くとグラスに水を入れて渡す。

「もう……利行さんいなくて寂しいのに」

「だからってその息子を代わりにするとか最低よ」

 辛辣な百花からのコメントに、母は少し落ち込んだようすだ。

「ね、じゃあ三人で寝ない?」

「は?」

「ほら、私たちのベッド、広いからさ。三人で寝れると思うんだけど……」

 母に手を引かれながら、僕らは両親の寝室へと向かった。

「で、なんで僕が真ん中なんですか?」

「そうよ。真ん中は私が相応しいと思う」

 そう言って僕の上を跨ぐ百花。

「……あら、お盛んなのね」

 その体位に気づいた百花は恥ずかしそうに僕の上から降りた。

「まだ初心うぶなのね」

 僕らを見て大人の笑いを浮かべる母。
 僕らは結局、百花を真ん中にして眠ることになった。

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