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初恋の相手が義妹になった件。第13話

 目が覚めた時のことはよく覚えている。百花が僕の腕にしがみついており、身動きが取れなかった。
 母はというと、僕に背を向けて寝ていたので、そちらの被害は特になかった。
 抜け出すことができないので、しばらく僕は空を見つめていた。

「……」

 虚無が僕を包み込む。そこにある、あまり見慣れない天井と見つめ合う。

「……悠人?」

 百花が目を擦りながら起きると、僕の腕から離れた。

「おはよう、百花」

「おはよう……」

 百花がベッドから出ると、それと一緒に僕も抜け出した。

「お母さん、よく寝てるね」

「うん。疲れてるんじゃない?」

 とはいえ、まだ明け方だったので、そのまま僕は自分の部屋へ戻ろうとしたが、とりあえずこの乾いた喉を潤したかった。

「あー、私も欲しい」

 百花の分のグラスを用意して、ピッチャーからお茶を注ぐ。

「ありがとう」

 百花はグラスを受け取り、一息に飲み干し空にすると、一つ大きな息を吐いた。

「なんか中途半端な時間よね。寝直すにもなって」

「確かに、別に朝活するわけじゃないし、この時間に起きてもな……」

 僕も同じ様にグラスを空にする。
 結局、僕らは自室へ戻り、自分たちのベッドで寝直すことにした。
 それから数時間後、けたたましいアラーム音で目を覚まし、一階へ降りると、母が朝食の準備をしていた。
 少し話したが、どうやら昨日の記憶が無いらしい……。僕らを一緒のベッドで寝るように言ったこととかも、覚えていないとのことだ。

「私……悠人となにかしたとか、ないわよね?」

「もちろん、その一線は越えないようにしたよ」

「そう。ごめんね……」

 少し落ち込んでる母を励まそうにも、どうすればいいかわからなかった。
 少ししてから百花が降りてきて一緒に朝食をとり、学校へ向かう。ここからはいつもと変わらない時間が流れていく。授業を受けてご飯を食べて、学友と笑って話す。
 何も変わらない日々が、どれだけ有り難いものなのか、僕は思い知る金曜日がやってくる。

 その日は父が帰ってくる日でもあった。出張から帰ってきて久しぶりに家で酒を飲み、釣られて母も一緒に酒を飲んでいた。
 やはりというべきか……酔いつぶれた二人を寝室に押し込んで、僕は自室で寛いでいた。
 スマホの通知に気付き手に取ると、そこには美夜子さんの名前があり、そのメッセージによると送り主はどうやら陽菜さんだった。

『ごめん、今日泊めてくれない?』

「え……どうしてですか?」

『……美夜子と喧嘩した』

 喧嘩した……と言う割には、美夜子さんのスマホを使っているのではないだろうか?

「美夜子さんは?」

『実家に帰った。一人じゃなんか寂しいから。百花ちゃんの部屋でも、リビングにでもいいから、お願いできない?』

「わかりました……で、今どこですか?」

『外見て』

 僕はカーテンを開けて、窓の外を見る。

「あ……」

 家の前に咲洲ひながいた。小さい声で「おーい」と言いながら手を振っている。僕は一階に降り、出迎えるとめちゃくちゃいい匂いがしてドキドキした。

「ごめんね。あ、お風呂は済ませてきたから……なんというか話し相手が欲しいなーって感じで……」

「まあ、なんとなくわかりますよ」

 リビングに通し、お茶を出すと陽菜さんはなぜか得意げに僕を横に座るようにと、ソファーをポンポンと叩く。

「……で、なんで喧嘩したんですか?」

「ああ、えっとね、その……」

「なにか言いづらいことなんですか?」

「……ごめん。今考えたら高校生には刺激の強い事かもしれない」

「てか、他に友達いないんですか? この前の紗季さんとか」

「紗季は体に障るとあれだし、沙友理は今、海外だし……」

 僕はため息をつく。どうしてか、美夜子さんはお姉さんという感じだが、陽菜さんは割と同い年ぐらいの感覚になる。精神年齢が近いせいだろうか?

「で、夜の営み関係で喧嘩したってことですか?」

「うん……美夜子がね、せがんできたんだけど、私、朝早くから撮影だったからもう寝たかったの。それでキツく言っちゃって……」

「それ、陽菜さんが悪いんですか?」

「そうなのよ!私、悪くないよね!」

「……まあ、美夜子さんの気持ちもわからなくはないけど」

「悠人君は、どっちの味方なのよ?」

 ジッと睨む陽菜さんは、僕の顔を覗き込むようにしていた。

「悠人、誰と話してるの?」

「あ、百花ちゃん。お邪魔してまーす」

「さ、咲洲ひなさん!なんでいるんですか!」

 陽菜さんが事情を説明すると、百花はため息をついてソファーに腰掛けた。

「でも、なんか話してると落ち着いてきた」

 陽菜さんは大きな欠伸をすると、僕は百花の部屋で一緒に寝てはと提案した。

「え、私でいいのかな? 緊張するなぁ……」

「気にしなくていいよ。毛布貸してもらえれば、ここで寝れるし」

「いやでも……」

 僕は悩んだ挙げ句、毛布を取りに行った。

「ごめんね。こっちがわがまま言ってるんだから、気を使わないでね」

「よかったら僕と一緒に寝ますか?」

「悠人……それは私が怒るからだめ」

「そうだよ。あ、それじゃあ、百花ちゃんが悠人君と一緒に寝て、百花ちゃんのベッドで私が寝るとか……は、厚かましいよね」

 百花は掌を叩き「それだ!」と叫んだ。

「それが一番丸く収まるよ!ね、悠人、それでいいじゃない」

「そんなに僕と一緒に寝たいのか? それとも陽菜さんに気を使って?」

「まあまあいいじゃない。あ、あと私明日休みだから、別に本当にそこまで気を使わないでいいからね」

 結局、百花の部屋で陽菜さんは寝て、百花は僕の部屋で一緒に寝ることになった。
 何度も一緒に寝るようになってから、もうドキドキしたりはしなくなっていた。
 が、そう思っていたのは僕だけで、その日の百花はいつもと違い、なぜか艶っぽかった。

「なんか、言葉にするのが難しいけど……雰囲気違うな」

「え、そう? そんなつもり無いけど」

 百花はベッドの中で僕に抱きつくと、大きく息を吸い胸を膨らませた。それにより、僕の背中に百花の柔らかい胸が押し付けられる。

「恋人同士なら、これくらいは当たり前でしょ?」

 まるで、自分が優位に立った様に言う百花。
 僕は少し悔しくなり、百花の方を向いていきなりキスをした。

「これくらい、当たり前だろ?」

「いきなり過ぎるし、なんかズルい」

 僕は膨れた百花の頬を突く。

「ほお……」

 漏れ聞こえる声の方を見ると、こっそり覗いている陽菜さんがいた。

「あ、続けて続けて」

「見世物じゃないですよ」

 そう言って百花は扉を閉めた。
 陽菜さんは扉の向こうで文句を言いながら、部屋に戻っていった。

「ねえ悠人、私さ、そろそろ先に進みたいんだけど……」

「つまり、するってこと?」

「うん……どうかな?」

「じゃあ脱いで?」

 僕は百花の体に直接触れる。すると百花は、少し嫌がってから身を委ねる。

「……あんまりジロジロ見ないで。悠人のも、硬くなってる」

 僕のそれが、百花の太ももに当たっていた。

「硬くならないのはそれはそれで問題だからな」

「触ってもいい?」

 僕が小さく頷くと、百花はそれを触り始める。
 正直、他人に触られるのが初めてな僕は、下腹部を裏側から擦られているような感覚に身悶えた。

「……百花のも触っていい?」

「汚いからやだ」

 僕は仕方なく、直接胸を触ることにした。

「こっちはいいでしょ?」

「うん……あっ!」

 突起に触れる度に、百花は反応を見せる。その時の顔がとてつもなく可愛い。
 百花の胸は柔らかかった。それをずっと揉み続け、百花は僕のそれをずっと弄り続ける。

「……これを挿れるんだよね?」

「そうだね……」

「は、入るかな……」

 固唾を呑む百花は、僕に不安そうな表情を向ける。
 それを消すように僕は百花にキスをした。絡み合う舌に、水気のあるノイズが立ち、その小気味良い音をずっと聞いていたくなる。
 気づいた時には、僕らはキスをしながら眠っていたらしく、窓から光が差し込んでいた。
 隣ですやすや眠っている百花を置き去りに、僕はベッドから出る。
 時計は午前七時。一応、陽菜さんの様子を伺いに、僕は百花の部屋の扉をノックした。
 中から返事があったので扉を開けると、陽菜さんはまだベッドの中だった。

「起こしちゃいましたか?」

「ううん、起きてたよ。昨日早かったからね、アラーム設定そのままだったから……」

「よく眠れましたか?」

「うん。ありがとう」

 陽菜さんはそう言うとベッドから出て立ち上がった。

「少し、嫉妬しちゃうな。百花ちゃん、可愛いから」

「取らないでくださいね。あと、ちゃんと美夜子さんとは仲直りしてください」

「わかってるよ……でも、あの子スマホを置いて行っちゃったから……変にすれ違いにならなかったらいいけど」

 陽菜さんの嫌な予感が当たらないことを祈りながら僕は両親に陽菜さんが泊まったことを説明しに降りた。
 一緒に降りてきた陽菜さんを見て、二人は驚いたと同時に、僕を責めた。

「悠人、百花という子がいながら、浮気相手と堂々と……しかも咲洲ひなだなんて……」

「あー、勘違いされてるようですが、私は百花ちゃんの部屋で寝てたんですけど……」

「え、じゃあ百花は?」

「僕と一緒に寝てたよ?」

「なら……いいのか?

 二人は顔を合わせながら、首を傾げていた。

「朝から騒がしいなぁ……」

 欠伸をしながら百花が降りてくると、僕に「おはよ」と囁くとお尻を叩いてきた。

「百花は知ってたの?」

「うん。びっくりしたけど、流石にソファーで寝てもらうのはあれだしって」

 両親の安堵のため息とは裏腹に、陽菜さんはその様子を面白いものを見るように見ていた。

「まあ、何事も勉強になるからね。いい仕事をしてるなって思うよ」

 役者ってそんなものなのかと僕は思いながら、コーヒーを淹れた。

「あ、私ももらっていい? ブラックでいいよ」

「陽菜さんブラックで飲めるんですね。なんか大人だなぁ」

「百花ちゃんくらいの時にはもうブラックで飲んでたよ? 甘いの飲むと喉乾いちゃうし」

 陽菜さんは完全に我が家に溶け込んでおり、朝の食卓で共に談笑していた。
 朝食も終えて一息ついた頃にインターホンが鳴りカメラを見ると、外には美夜子さんが立っていた。

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