秘密と友達
進級して新しいクラスになって二週間ほどが経つが、私には友達がいない。
ある日、私のクラスに転校生がやってきた。彼女は名前と誕生日、好きな教科を言い終わると、みんなに向かってお辞儀をした。
「どうも、よろしくお願いします」
彼女の席は、私の隣だった。
「よろしくね」
彼女は私に向かって声をかけてくれた。私も彼女に返事をした。
「こちらこそ、よろしく」
一見、彼女はごく普通の女の子だったが、転校初日早々、奇行をやらかしていた。例えば、目に見えないものと会話しているかのように苛立った感じで独り言をしたり、逃げる小動物を捕まえるかのようにカバンの中の物を強く押さえつけたり。
私にはそれが、何か秘密を隠そうとしているような仕草にしか見えない。
怪しんだ私が直接指摘すると、彼女は慌てて、何でもない何でもない、と苦笑いしてごまかす。
恐らく彼女には何らかの、人に知られてはならない秘密があるのだろう。実は私にも、誰にも言えない秘密があった。
それは小さい頃の夢、キラキラした魔法少女になることだったのだが……。
その日の放課後、他のクラスメイトが教室からいなくなると、彼女はまた私に声をかけてくれた。
「せっかく隣だし、友達になろうよ」
それを聞いて私は小さい頃のトラウマを思い出し、黙り込んでしまった。沈黙が続いた後、彼女は心配してくれたのかまた声をかけた。
「どうしたの、何でも話聞くよ」
「大丈夫、何でもないから」
「本当に何でもないの?」
笑ってごまかしたが、彼女には何でもなくないことを察されてしまった。彼女に念を押され、私は小さい頃の秘密と友達の話をした。
小さい頃の私は、テレビで見た憧れの魔法少女になりたいと思っていた。その夢を話すと、幼稚園の男の子にいつも笑われて嫌な意地悪もされた。すると、友達の女の子が私を庇ってくれた。
しかし今度は、友達が代わりにいじめられるようになってしまった。私がいじめを止めても、今度はまた私がいじめられる。
結局、友達は他の幼稚園へ移ってしまい、今もまったく顔を合わせていない。もしかしたら私は嫌われたのかもしれない。そう思うようになってから、私は夢を語ること、友達を作ることが怖くなり、心を閉ざすようになった。
「やっぱり私、嫌われたんだ」
私が悲しい気持ちで呟くと、彼女は明るい表情でなぐさめてくれた。
「そんなことない、あなたは何も悪くない。それに、魔法少女になりたいっていうのも、すごく素敵で立派な夢だよ」
「そう言われれば……」
彼女の言葉で、私はようやく微笑み、自信を取り戻した。また彼女の方も、自分にも秘密があることを明かし、その秘密について話してくれた。
「これは、誰にもばれちゃいけない大事な秘密よ」
彼女はそうささやくと、本来絶対に聞かれてはいけないその秘密を、私にだけこっそり教えた。キラキラ輝く不思議な宝石を、そっと手に握りしめながら。
私と彼女は、秘密を分かち合う秘密の友達になった。
おわり
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