今日の弁当昨日と同じ

「お弁当はちゃんと持った?」

 さっきから母が何度も確認してくる。

「持ってるっつってんだろ。そんなにいちいち言わなくても、わかってるって」

 つべこべ言い返しながら、俺は朝支度を済ませ、学校へ行く。

 今日は体育の授業で、初めてバスケをやる日だ。
 みんな初心者ばかりでボールを触るのに不慣れなようだった。そんな中、数少ないバスケ部員の俺はかっこよくシュートを決めて、みんなに自慢してやった。最高に良い気分だった。

「俺はバスケ部だから、お前ら素人とは違うんだよ」

 なんとなく周りから冷めた視線を感じたが、構わず俺は爽快感と優越感に浸った。

 なんやかんやあって午後になり、俺は屋上に行き、お弁当箱の蓋を開けた。
 おむすびに枝豆、だし巻き玉子にミートボール……。
 またまただ。何もかも、昨日とまったく同じ具材だ。

「ちっ、あのババア腹立つわ。何回同じもん食わせるんだよ……」

 ボソボソ一人で愚痴を吐いていたところへ、仲良しのクラスメイトが遅れてやって来た。

「遅くなってごめん、一緒に食べよう」

 俺たち二人は、お弁当を食べながらおしゃべりをした。

「俺の弁当さ、また昨日と同じやつでさ、腹立つんだよね」
「おい、あっち見ろ」

 クラスメイトが指差した方には、美術部の三軍陰キャ女子がいた。普段から全然しゃべらず、友達もいないので、今一人だけでお弁当を食べている。

「あいつ、今日もぼっちかよ。かわいそうに」
「さっきの体育の授業でも、ボールを投げるのすごい下手くそだったんだよ」

 昼休みでも、俺たちが会話で盛り上がる中、その陰キャ女子だけは黙々とノートに落書きをしていた。
 俺がふとノートに目をやると、全裸の人間らしき線画が見えた。

「うわっ、裸描いてるの、引くわ」

 俺が思わず口に出した途端、彼女はびっくりして咄嗟にノートを閉じた。そして、とても恥ずかしそうにうつむいてしまった。

「何を。今さら隠したって、もうバレてるからな」
「人の目につくところで、エッチな絵描くとか馬鹿かよ」

 彼女のことが馬鹿馬鹿しく思えてきて、俺たちはついつい笑ってしまった。

「これだから、陰キャは何考えてるかわからないよな」

 俺は、何の変哲もない平凡な学校生活を過ごしていた。そんな当たり前な日常が、この後突然、理不尽に崩れ去ってしまうとは、知るよしもなかった……。
 事の発端は、放課後のバスケ部の練習試合の時。試合の最中、唐突に気持ち悪くなり、頭がくらくらしたのだ。やがて意識が朦朧としていき、しまいに俺は倒れてしまった。

 病院の中で、俺は目が覚めた。
 目の前には母がいた。いつもはうざったい母が、病室で泣きながら、俺の名前を呼んだ。

「良かった、生きてて良かった……」

 話によると、俺は重病を患ってしまったらしく、しばらくの間入院しなければならなくなったという。
 入院生活は苦しいし、辛かった。普段通り学校に通うことも、自分の好きなように動き回ることもできない。
 今まで当たり前だった日常が、今はもう当たり前ではなくなってしまった。今、俺は、人の力を借りなければ生活できない状態になったのだ。

「俺は何も悪くないのに。どうしてこんな目に遭わないといけないんだ……」

おわり

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