猿と人間のアナゲー戦争

 昼間の誰もいない大都会の公園。
 小さな子供の私は、ブランコやジャングルジムなど様々な遊具で遊んでいた。

 その真っ最中そこへ、チンパンジーのような猿のようなものが現れた。
 猿に興味を持った私は、猿と仲良くなりたいという思いから猿に近づき、手を差し伸べた。

「ねぇお猿さん、友達になろうよ」

 その途端突然、猿は力づくで私の手を振り払った。

「ただただ救いようがない愚かで危険な種族と友達になりたいだなんて、誰がそんな馬鹿な事を言った!」

 その反動で私は後ろへとなぎ倒された。猿は鬼の形相だった。

「人間は邪悪な生き物だ! 森を燃やし、花を枯らし、水を濁し、空を汚し、そして自分たちの大事な宝物を壊した! あげくには大事な仲間や家族でさえ蔑ろにしてきた!

そんな恐ろしい生き物と仲良くなりたいなんて、だれも思わないはずだ!」

 驚き怯んだ私は、パニックになりそのまま走って公園から逃げた。
 公園だけでなく、その外の路上や街の中などさまざまな場所に、普段は見ない猿がしかも数匹以上もいた。
 反面、普段なら街を出歩いているはずの人間が一人もいなかった。
 普段とは全く違う、異様な光景。
 何かおかしいと思ったその時。

「捕まえたぞ!」

 あっという間に私は猿たちに囲まれ、身動きが取れなくなった。

「最後の人間を捕らえた。これでようやくすべての人間が消える」

 街の人間は、猿たちにさらわれたり襲われたりして一人残らず街から姿を消してしまったのだ。
 猿たちは人間を全て消そうと目論んでいた。もちろん、私のことも。

 こうして、夢から覚めた私はその朝、夢が夢であったことにほっとし、胸を撫で下ろした。しかし体は小さい子供のままだった。
 その後の午前中、私は母から自分の名前を呼ばれ、ゲームに誘われた。

「ママと一緒に、ゲームして遊ばない?」

 私はうなずいた。

「いいよ、何で遊ぶ?」
「これで遊ぼうと思うんだけど」

 そのアナログゲーム__以下アナゲーは、一対一で戦うバトルゲームだった。
 アナゲーの箱には、四十ほどのミニチュア人形が内蔵されていた。一方の陣営の人形二十人は、相手の人形二十人と戦うルールである。
 プレイヤーの一人は、人間を滅ぼそうと目論む猿側の人形を操作し、もう一人は人間側の人形を操作する。
 そう。このゲームのストーリーは、猿と人間の存続をかけた戦いなのだ。

 ゲームの内容とルールの説明を理解した私は、先程の猿が襲ってくる夢を思い出す。
 しかしそれだけではない。次の瞬間、私はアナゲーの箱に入っている人形たちを初めて目にするのだが、人形たちの中に一人だけ変わったものがいた。

 そいつは、猿の姿をしていた__が、他の猿の人形や夢で見た猿とは違い、通常よりも一回り大きい体に鋭い牙や爪、睨みつけるような目つき、そして金の王冠をかぶった真っ黒いチンパンジーの姿をしていた。まるでゲームによく出る魔王のような、恐ろしい雰囲気だった。

「これ……」

 そいつを見て、私は思わず呟いた。

「夢で見たような!」
「どうしたの、怖い夢でも見たの?」

 突然母が心配するような口調で私に呼びかけた。ここは現実世界。
 本物の母の声で目覚めると、私は元の中学生の姿に戻っていた。
 どうやら母には、私の寝言が「死んじゃう……」という不吉な言葉に聞こえたようだ。

「うん……怖い夢見ちゃった」

 平穏に過ごしていたところを何の前触れもなく怖い存在が襲ってきた結果、平穏そのものを奪われてしまったのだから。

「そっか……怖かったね」

 私が悪夢を見たことを察した母は、怖がっていた私に寄り添い、なぐさめてくれた。爽やかな朝の光が窓を通り、寝室を明るく照らしていた。
 その日は、他にこれといって何も起こらなかった。ただ、ずっといつも通りの一日だった。

おわり

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