意味のない占い

 "過去でも未来でも決して自分と関わらない赤の他人"の未来なら確実に当てると噂の占い師がいた。
 "意味のない占い"を当てるその占い師の話を友人から聞いて、八月のある日、僕は占い師の元を訪れ、占ってもらった。顔も、どこに住んでいるかもわからない、赤の他人の未来を。

 ところが、占いの結果は悲惨なものだった。

 __その誰かは、勉強をしたり友達と遊んだり時に喧嘩もしたりして、幸せな日々を送っていたごく普通の人だった。
しかし三年後の八月のある日、その人は事故に遭って死んでしまう__

「そんなひどい。知らない人とはいえ、これは放っておけない。その人の名前を教えてくれませんか」

 僕は名前だけでも教えるよう要求したが、占い師は拒否した。

 名前一つを取ってもその人を特定でき、意図的に関わる原因になってしまうからだという。さらに占い師は言う。未来を占う対象が"自分と決して関わらない赤の他人"でなければならない理由は、自分あるいは身近な人の未来を知ってしまうと、少なからず未来に影響が出るからだ。本来、未来を知ることは、この世の法則に反することで、あってはならないことなのだ。

 頭ではわかっていたが、僕は諦めが悪かった。

「確かに自分とは関係のないまったく知らない人だろうけど、それでも放っておけない。僕は、その人の未来を救いたい!」

 その日の夜、僕はその人の悲惨な未来を変える方法を、寝る間も惜しんで必死に考えた。しかしその人については名前も住所もわからず、会うための手がかりがまったくなかった。結局、その人を救う方法は何一つ思い浮かばなかった。
 翌日。引き続き考えながら街に出ていると、たくさんの人々がせわしなく歩くのを目にした。

「百人いれば百通りの人生、未来がある」

 頭に考えが浮かんだ。

「あの悲しい未来に、誰もが遭遇するかもしれない。だったら物語を描いて、たくさんの人に見てもらおう!」

 そう決心して、僕は「ごく普通の日常を送っていた主人公が事故で亡くなる」という内容のノンフィクション絵本を描き、出版した。絵本は大きく話題となり、子供たちにも大人気になった。さらに、子供向けに読み聞かせ会も開いた。

「この物語の主人公のように、誰でもいつかは死ぬのです」

 それから三年後の八月のある日。一人の少年は駅前の書店で、ある絵本を手に取った。昔、大人にも子供にも大人気だったあの絵本だった。

おわり

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