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7曲目: 柳家小菊「とっちりとん」と香落ちについて、など

曲名:とっちりとん
アーティスト:柳家小菊
初出盤の発売年:2006年
収録CD:『江戸のラヴソング 柳家小菊・ひきがたり寄席のうた』[SICL 148]

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かつて、フランク・ザッパはベンド(=チョーキング)を交えて弾くエレキ・ギターの音を「reent-toont-teent-toont-teent-toont-teenooneenoonee」と表現したが(「Outside Now」の歌詞参照)、三味線の場合、何番目の糸(=弦)か、あるいは糸を押さえた音かどうかで音の表記が決まっているそうだ。
本曲の演奏前に柳家小菊が口三味線を実演してくれるところもCDに収録されているが、「なるほどなぁ」だった。

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本編の歌詞はタイトルとは何の関係もない、将棋に引っ掛けたダシャレの羅列である。
小林旭の1964年のヒット「恋の山手線」や、2匹目のドジョウを狙った?同年の「自動車ショー歌」などと同じパターン。
それから、子門真人「およげ!たいやきくん」のB面だった、なぎらけんいち「いっぽんでもニンジン」。これはひとひねり加えた「数え歌」ではあるけれど、数え歌自体がダジャレ系の1ジャンルのように思える。

「恋の山手線」の歌詞は4代目柳亭痴楽の同名落語から拝借したと言われている。
この手のことばあそび歌(筆者は「ダジャレ歌」と呼んでいるが、一般化しているジャンル名があるのか不明)は以前からあり、古くは江戸時代に流行ったと思しきものも残っているようだ。

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将棋ネタの「とっちりとん」については、立川談志も何かで話していたと思うが、出所を覚えていない。
その代わり、弟子の立川談笑がNIKKEI STYLEのサイト内にあるコラム「将棋と落語は似たセンス 藤井七段に届けたい言葉遊び」(2020年7月5日付)で紹介しているので引用したい。

♪ 将棋さす手を つくづく見れば
♪ やっぱり恋路も同じこと
♪ この手できくのか、きかぬのか
♪ ししゃをとばして呼び出し
♪ かくの次第をこまごまと
♪ 語れど、先の腑(ふ)に落ちず
♪ とんだ桂馬にはねられて
♪ 無駄に使った金銀は
♪ つまらないでは ないかいな

微妙なバリエーションはあるかもしれないけれど、出回っている歌詞の多くがこんな感じだと思う。確かに面白いのだが、将棋に詳しい人なら「惜しい」と思うかもしれない。

ところが、このCDの「とっちりとん」を聞いた時、思わず「あっ」と言ってしまった。改行位置が上記と異なるが、歌詞カードの記載どおり引用する。

♪ 将棋さす手を つくづく見れば
♪ やっぱり恋路も同じこと この手できくのかきかぬのか
♪ 使者(飛車)をたのんで呼びにやり
♪ かく(角)の次第を細々(駒々)に 話せど先の腑(歩)に落ちず
♪ とんだ桂馬にはねられて 無駄に使った金銀は
♪ つ(詰)まらないではないかいな

これで溜飲を下げる将棋ファンも多いのではないかと思う。

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このCDは、都々逸、新内、小唄、甚句などを三味線で弾き語ったライヴ盤である。どの曲も短いのでサクッと聞ける。
1曲目は有名な「梅は咲いたか」だが、貝ネタの2番が歌われていない。まあ、意図的にオミットしたのかもしれない。

なお、本CDのクレジットによれば、太鼓を叩いているのは古今亭志ん輔。「だんご3兄弟」が流行った頃、「おかあさんといっしょ」にレギュラー出演していた人だが、もちろん落語家として今でも現役バリバリの真打である。自ら買って出たのだろうか。

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以下は、将棋をご存じない方への蛇足解説。
将棋の駒には、
・「玉将」通称「玉」(または「王将」通称「王」)
・「飛車」通称「飛」
・「角行」通称「角」
・「金将」通称「金」
・「銀将」通称「銀」
・「桂馬」通称「桂」
・「香車」通称「香」
・「歩兵」通称「歩」
がある。上記の歌詞には駒の名称に加えて、
・「こまごま」⇒「細々」と「駒々」
・「つまらない」⇒(相手方の「玉」が)「詰まない」
がそれぞれ掛詞になっている。

歌詞に「玉」「王」が出てこないのはいいとして、立川版には「香車」も欠けているのが惜しいと思う点。(あるいは筆者が気づいていないだけ?)
では、柳家小菊版の何が「あっ」なのか。

ヒントは「呼びにやり」。

これでも分からないという方は「将棋 香車 別称」で検索していただければ。検索ワード自体が既に答だけど。(笑)
ただし、歌詞カードに注釈がないので、案外スタッフ側も気が付いていないのかもしれない。

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