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おめめの水漏れ


最近、なんだか涙もろくなった。

最近といっても、数年ぐらい前からだろうか。
わんわん泣いたりするわけではないが、些細なことでも気持ちが高ぶって、うるうるっときてしまう。
そして、ぽろっと目から涙の粒がこぼれ落ちるのだ。

例えばあれだ。
ディズニーソング。

何年も前に世界中で大ヒットした「アナと雪の女王」。
その劇中歌である「レット・イット・ゴー」……ではなく、神田沙也加さんがうたった「生まれてはじめて」。
これは何度聴いてもうるっときてしまう。

長年閉ざされていた城が、姉の戴冠式のために開かれ、色々な国の人たちがお祝いのために訪れることに喜びを感じるヒロインのわくわくした気持ちをうたった歌。
なぜだか私は、いつ聴いても涙腺を刺激されぽろっとしてしまう。

それから、生田絵梨花さんが主人公の声を務めた「ウィッシュ」という作品もそうだ。
この作品の生田さんが歌うメインソングを聴くと、やっぱりぽろっとしてしまう。
しかも、こちらに関しては映画をまだ観ていない。
CMやYouTubeで聴いただけだ。

どうやらどちらも歌詞や作品の内容とは関係なく、
神田沙也加さんと生田絵梨花さんの歌声に心が刺激されているようだ。
(神田さんの歌声がもう聴けないのは残念だ)


それからドラマ。

今年は珍しく朝ドラを観ていた。
「虎に翼」。
リアルタイムは難しいので、NHKプラスで追っかけて観ていた。

これはおそらく観ていた人全員にわかってもらえると思うのだが、
ヒロインの夫が出兵する場面には、自分でもびっくりするぐらいぼろぼろ泣いた。
鼻もずるずるだった。


しかし、水漏れしやすくなった私の目ん玉は、毎話ちゃんと観ていなくてもぽろっとできるようになっている。

例えば、たまたまつけたらやっていたドラマの再放送。
一度も観たことなければ、内容もよく知らない。
だけど、画面に映る俳優の渾身の演技で演じるキャラクターの魂の叫びを見せられると、よくわからないけどぽろっしてしまう。

いったい、どうしてしまったのだろうか……

最近では、そんな私に彼はちいかわのハチワレよろしく「泣いちゃったぁ」と言って、ティッシュを差し出してくれる。


とはいえ、一度ドン引きされた。
ゲームを紹介するテレビ番組で、パワプロの「栄冠ナイン」というモードについての短い紹介VTRを観ていたときだ。
プレイヤーが監督として育てた選手が、試合で好プレーをしたのを観たら、なぜか「よかったねぇ」と言って泣いていた。
(ちなみに一度も遊んだことがないので、パワプロに思い入れはない)

それをみた彼が、さすがに「ええ〜。なんで泣いてんの!?」と、引いていた。


ほんとうに、どうしてしまったのだろうか……


思い返すと、20代前半の頃は、そういう人に対して苦手意識を抱いていた。

というのも、当時、バイト先にいた年上の女性がすぐに目に涙を浮かべる人だった。
べつに、怒られると泣いてしまうとか、そういった類いのものではない。
彼女曰く「笑っても涙が出ちゃうんです」とのことだったし、実際そうだった。

それについて周囲もけして嫌な顔をしたりはしなかったし、それが彼女のキャラクターだと認め、愛され、親しみを込めて周りも本人もそれをネタにしていた。

でも、私はちょっぴりそれが苦手だった。

しかし、これは完全なる彼女への嫉妬だ。
なぜなら、彼女は可愛らしい人だったから。

見た目も中身も可愛らしい人。
そこに涙までついてきてしまったら、可愛いの層が折り重なって、それはもうあまいあまい可愛いのミルフィーユだ。

いいなぁ……
うらやましいなぁ……


あらためて思うと、当時の私は、人の上べだけしか見られない薄っぺらいやつだったかもしれない。


じゃあ、私は泣かない人間だったのだろうか。


おそらく、この年上の女性や今の私ほど、日常のささやかなことで泣いたりはしなかっただろう。

泣くときは、どちらかというとぽろっとではなく、しっかり泣いた。

家族とケンカをしたり、外で嫌なことがあったり、人から悲しいことを言われたり……

そんなときは、ベッドに入る。

掛け布団を頭まですっぽりかぶって、その中でぎゅっと小さく丸くなるのだ。

ベッドの中は深海だ。

光もないし、誰もいない。
私だけの暗闇だ。

その中で、私はぼろぼろ泣いた。
声は出さない。

深海はたしかに私だけの深海だけど、さほど広くはない。
あくまでシングルサイズ。

その外側には、壁一枚隔てて姉の部屋がある。

そして、私にとって深海はまぎれもなく深海だけど、
現実はとても浅い。
声をあげれば、丸聞こえだ。
しかし、それは嫌なのだ。

そうやって声を押し殺して泣いた日は、決まって翌朝目が腫れた。


幸いなことに、ここ数年はそこまで泣くことはないように思う。
かわりに日常の何でもないことで、ぽろっと泣いてしまう。

それも、基本は人にばれないように気をつけている。
外で人と話していても、内容によっては涙が出てきてしまうのだが、とはいえ、人前で泣くのはなんだか憚られる。

相手を驚かせてしまうだろうし、気をつかわせてしまうかもしれない。
また、いい大人が感情をコントロールできないのは、恥ずかしい。


それに、時折りこの涙が偽善のように思えてくる。

例えば、凄惨なニュースを観たときだ。
本当に泣きたいのは、そのニュースの当事者のかたたちのはずだ。
なのに、なぜ私が泣くのだろう。
泣くことで心を痛ませていると、何かにアピールでもしているのだろうか。
本当に心揺さぶられた人間ならば、そのニュースのために何か行動を起こすのではないだろうか。
ただニュースから刺激をうけているだけの私に、泣く資格はあるのだろうか。

そう思うとき、私はこの涙もろさがイヤになる。
どうにかならないだろうか。


そういえば、ポストに「お水のトラブルはコチラまで」という、マグネット式の広告が入っていた。

私の目ん玉の水もれも、なんとかしてくれないだろうか。クラシアン。












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