#5 嗅覚障害との今
今通っている病院はもう2年くらい。ほんとにお世話になっている。
鼻の調子が悪くなるのは、花粉症の季節と、風邪をひいたとき。そんなときは先生の出してくれる薬が欠かせない。
風邪なんて昔は勝手に治ってたけど、今はそうはいかない。風邪を引いて2週間くらい、本来なら治ってくるタイミングで、急激に悪くなることがある。
一日中鼻水が止まらず、そのうち鼻から膿が出てくる。さらに進むと鼻は完全に詰まってかめなくなる。鼻うがいの水が通らなくなる。鼻をかもうとするたび、空気が耳に抜けて中耳炎になる。息ができなくて夜中に目が覚める。頭蓋内の体積変化に気圧がついていかず、唾が飲めなくなる。飲み物をごくごく飲むと、2口目で息継ぎしないと溺れそうになる。熱もないのにだるくて寝込む。
すがる思いで耳鼻科に行く。先生の出してくれる薬で、症状は劇的に改善する。
風邪の原因のほとんどはウイルスなのに抗生物質なんて出す医者はやぶだと思っていた。腸内細菌叢のためにと、出されても飲まなかったりした(よいこは真似しないでください)。でも私の体にはそれが、本当に劇的に効いた。
そして先生は、嗅覚障害に効くとっておきの強い薬も出してくれる。先生の見立てによると私は治りにくいタイプの副鼻腔炎で、強い薬以外は効果がないのだそうだ。けど強い薬は長いこと飲むと副作用が心配ということで、2週間までしか出してもらえない。2週間経つと薬が切れて、風邪を引いたりするとまたすぐに匂いがわからなくなる。
だから強い薬を飲んでいる期間がこの世の春。ここぞとばかりに気になってた食パンを買ってきたり、ハイボールを作ってもらったり、エスニック料理を食べに行ったりする。
旅行先で食べる名物も、記念日に食べるごちそうも、味がわからないのはさみしい。特別な食卓を囲んで、「美味しいね」を家族と共有できないのはさみしい。そんな私にとっては魔法の薬だ。
難治性の副鼻腔炎は、重症例に限ってだけど難病指定されている。手術しても再発しがちで、一生薬でごまかしていくしかないらしい。下手すると耳に飛び火して難治性の中耳炎になり、聴力を失うこともあるらしい。さらにレアケースとしては脳に飛び火することもあるとか。匂いがわからないくらいと、放置する選択肢はない。
だから、この先もずっと薬を飲んだりやめたりしながら、だましだまし付き合っていくしかない。
と、思っていた。
つづく。
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