#2 嗅覚障害の世界 ~味覚編~
今日はひさしぶりに鼻の調子が良いので、うれしくなってスパイスカレー食べた。左手にししとう。最高。
味覚を構成するものはなにか、健康な人はあまり考えたことがないと思う。
ジュースやコーヒーをごくごくごくと一気飲みして、ごくんと飲み込んだ後で初めてその風味を感じた経験がある人もいるんじゃないだろうか。ごくごくの最中に味を感じているのは舌、ごくんの後に風味を感じるのは鼻腔。
コロナで味覚障害と嗅覚障害を発症した人が、「コーラが炭酸水」と言っていた。私の場合は、コーラは甘いだけのソーダになる。炭酸は触覚で感じるので、舌も鼻もゼロでもしゅわしゅわ感は楽しめるのだ。
味 = 味(舌)+風味(鼻)+食感(舌、歯、口腔粘膜)
あまり理解してもらえないのだけれど、鼻がきかないと味覚が大きく損なわれる。舌も鼻もなんらかの物質を検知するセンサーなわけだけど、舌で感じられるのは、甘い・辛い・しょっぱい・すっぱい・苦い・渋いくらい。あとアミノ酸のうまみ。一方で、鼻で検知できる物質は数え上げたらきりがない。
あるとき、フルーツゼリーの詰め合わせをもらって、みんなで好きな味を選んで食べていた。途中でわたしは自分が食べているものがアップルゼリーかピーチゼリーかがわからなくなった。食べ終わって底を見たら、ホワイトグレープと書いてあった。見た目が薄黄色で、触感がゼリーで、味が甘いということしかわたしにはわからなかったのだ。ぶどう大好きなのに。心底がっかりした。ちなみにオレンジゼリーは「甘い・すっぱい」なので区別できる。
冒頭にスパイスカレーを食べたと書いたが、カレーもまた鼻がきかないと残念な食べ物だ。味は「しょっぱい・辛い」で食感は粘度によってかわる。つまり、目をつぶって食べたら粘度の似たタイ風グリーンカレーとスープカレーの区別は難しいのだ。エスニック料理が食べたくなって、あのココナッツミルクやこぶミカンやレモングラス、ナンプラーの香りを味わいたくてお金を払い、おなか一杯になったのに「しょっぱい・辛い」しか味わえなかったときの絶望感たるや。
クッキーなら抹茶味もココア味も一緒。ポテトはノリ塩もコンソメも一緒。杏仁豆腐と牛乳プリンも一緒。柚子胡椒もからしも梅肉風味もかつおだしの香りも青じそもごま油もバジルもバニラもメープルもシナモンもキャラメルもバターも燻製も山椒も私の世界にはない。
すきだったパン屋さん巡りもいつの間にかやめてしまった。
白ワインと日本酒の区別すらむつかしくなって、お酒を飲むこともめっきり少なくなった。
ハーブティーをいろいろ集めていたけど、どれも同じ味だから選ぶ楽しみがなくなった。
知らない国の料理に挑戦するのが好きだったけど、家族のための料理は想像で味付けができる馴染みの調味料だけで作るようになった。
匂いが分からなくたって、死ぬわけじゃないけどさ。
だから鼻の調子のいいときは、あれもこれもとおいしそうなものを食べたくなる。
香りのわかる幸せは、普通の人より何倍も知れたと思う。
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