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【第1弾】”TAKEO株式会社”のマーケティングトレース

こんにちは、当アカウントの管理人です。
普段は、とある地方の高等教育機関で教員をしています。
主な担当科目はマーケティング論や商学概論といった、商学分野です。

当アカウントでは、私が担当する講義『マーケティング戦略論』の中で学生たちがグループワークの一環として実施した”マーケティングトレース”の事例を紹介します。
ちなみにこの「学生たちが」という点が一番重要で、決して私が考え作成したものではない、ということをあらかじめお断りしておきます。

というのも、今回初めての試みとしてマーケティングトレースを題材に講義を実施したのですが、どのグループも素晴らしいアウトプットをしてくれたことに私自身大いに感激したのです。
そして、その学生たちの素晴らしさを後世に残していこうと企図しており、決して横着して、彼らの傑作を横取りしたくないというのが、私の思いです。ぜひ、ご理解いただけると幸甚です。
※記事に挿入する資料も、学生たちが全て作成したものであり、当人たちの許可を得て掲載しています。



さて、ご紹介するマーケティングトレース事例の第一弾は、
「TAKEO株式会社」です。

さて…どんな会社でしょうか?
一言で表すと「昆虫食の開発・製造・販売を手掛ける会社」です。
昆虫食…、まだまだ我々の生活には馴染みが薄い、食の概念かもしれません。しかしながら、昆虫食ビジネスは既に一つの市場を創り出しており、新時代のビジネスとも評されるポテンシャルを持っているのです。






1.TAKEO株式会社をマーケティングトレースする理由


まず、TAKEO株式会社をマーケティングトレースの題材に選定した理由は以下の4点です。

・昆虫食産業は成長産業である。
・TAKEOは研究開発から販売まで行っている。
・昆虫食業界の中で高いシェアを誇っている。
・扱う商品の種類が多い。

まず一つ目の成長産業であるという点ですが、キーワードとなるのは「たんぱく質」です。たんぱく質は言わずもがな、私たちの身体にとって欠かせない栄養素の一つですが、実は現状のままだと、2030年には世界中のたんぱく質の需要が供給を上回ってしまうという試算が出されています。

そこで、従前ではメジャーでなかった新たなたんぱく源として、昆虫=昆虫食が注目されているのです。

次に2つ目の理由ですが、TAKEO株式会社は昆虫食の研究開発~販売までを一貫して手掛けている点が特徴的だと考えたからです。この垂直統合型のビジネスモデルによって、外部との取引コストを削減しつつ安定的に売り上げを伸ばすことができ、競合他社との優位性を確保しているといえます。
これが3つ目の理由につながりますが、TAKEO株式会社は、同業界内でも高いシェアを誇っており、その点にも着目しました。

グラフから読み取れるように、昆虫食市場自体が右肩上がりで成長していること、そして業界内の売上シェアの上位にTAKEO株式会社が位置していることから、マーケティングトレースのしがいがありそうです。

最後に4つ目の理由である、扱う商品の種類が多いという点についてですが、これが中々に衝撃的というか、非常に趣深いのです。
百聞は一見に如かず、ということで、以下の画像をご覧ください。

(加工感の強い商品画像を選定していますが、昆虫が苦手な人は、スクロールをお願いします…)





…いかがだったでしょうか。昆虫食というイメージが一転したのではないでしょうか。
「タガメサイダー」や「コオロギアイスもなか」など、中々に発想が先鋭的ですよね。この商品ジャンルの幅広さも、TAKEO株式会社の売りの一つです。


2.会社概要・事業内容


次に、会社概要と事業内容の説明です。
こちらも資料をご覧ください。


先の記事で、TAKEO株式会社の主な事業内容について触れましたが、昆虫食の開発、製造のほかにも、昆虫食ビジネスに関するコンサルティング業務や「TAKE-NOKO」という実店舗の昆虫食専門店の運営(昆虫食の販売は、ECによる販売が一般的)など、昆虫食を柱として多角的な事業運営を行っています。この点もTAKEO株式会社の独自性を担保していると言えるでしょう。

3.フレームワーク分析

このTAKEO株式会社の戦略的特徴をより深く理解するために、フレームワークを用いて具体的に分析を行っていきます。

3.1 PEST分析

まずはマクロ分析から。
昆虫食業界の動向を、PEST分析を用いて分析します。

市場規模が徐々に拡大傾向にあることは先に述べましたが、その背景には政府による昆虫ビジネスに向けた支援・取り組みや、世界的なニーズの拡がり、生産技術の向上など、まさに昆虫食業界にとっては追い風となる環境が整ってきていることが、PEST分析より理解できます。

3.2 STP分析

次に、よりミクロな視点から、昆虫食ビジネスにおけるターゲットの特定と、競合他社とのポジショニングについてSTP分析を行います。

まずは、昆虫食ビジネスの市場におけるニーズをもとに、有効なターゲットを見定めていきます。
今回は、食品に対する人々のニーズを「環境意識」と「新規性」の二軸で細分化しました。その結果、「環境意識が高く、新規性が高い(新たなことへの挑戦に前向き)」な人にとっては、昆虫食が最適ではないかという結論が得られました。

次に、昆虫食業界に属する競合他社について詳しく分析していきます。

競合他社の調査してみると、実はこの昆虫食を事業で取り扱っている企業が国内でも意外と存在していることが明らかになります。先の分析から、伸長するポテンシャルのある市場だということは見て取れますし、先見の明で投資を行う気概のある企業が国内で育っているのは誇らしいことです。

さて、競合他社の分析から得られた情報の整理すると、以下のようにまとめられます。
・特定の種類の昆虫に特化した事業展開を行っている企業が多い。
・流通チャネルはECのみが一般的。
・研究開発~生産~販売と、川上から川下まで一貫して自社で行っている企業は少ない。

このポイントについて、より分かりやすく見える化すると、以下のポジショニングマップのようにすみ分けできます。

こうすると、TAKEO株式会社の競争優位性が端的に理解できますね。
「マーケティングトレースをしようと思った理由」や「会社概要・事業内容」でも触れてきた通り、TAKEO株式会社の特徴は①幅広い商品ラインナップ、②EC・十店舗の両経営、③研究開発から販売までの垂直統合型ビジネスモデルですので、これらの特徴全てが競合他社にはない強みとして機能し、独自のポジショニングを築いていることが明らかになりました。

3.3 4P分析

そんな競争優位的立ち位置を確立するTAKEO株式会社が、具体的にどのような武器を持っているのか、4P分析でより詳しくみていきます。

Productでは、先に述べた通り多種多様の商品ラインナップが強みであることに加え、第三者機関の認証を受けていたりと、その品質も担保されていることが分かります。
Priceでは、価格帯も商品ごとに低~高価格とレンジが広いため、顧客はニーズに合った商品選択ができることが分かります。
Placeでは、ECが中心でありながら実店舗も経営することで、複数の購買チャネルを提供していることが分かります。
Promotionでは、SNSを中心としたウェブマーケティングに加え、大手企業とのコラボレーションによる認知度向上の施策も効いていることが分かります。

以上のことから、競争優位とする強みを存分に活かす形で4P戦略が展開されているということが明らかになりました。

4.分析結果の考察・解釈

ここまでの分析結果を内省し、考察と解釈を加えていきます。

TAKEO株式会社の強みは、豊富な商品ラインナップや、その中でも話題性があり、且つ試してみやすい商品コンセプトがあります。一方で、加工感の弱い商品だと、ありのままの昆虫の見た目から敬遠される恐れがまだまだあることや、成長産業であるためこれからどんどん新規参入が増える可能性があるため、自社独自のブランド力を高めていく必要がある、といった点は弱みだと解釈しました。

5.もしもTAKEO株式会社のCMOだったら

そこで、最後にもし私たちがTAKEO株式会社のCMOだったら、どのようなマーケティング戦略を実行するのか考えてみました。

着目したポイントは、昆虫食といえばTAKEOというブランドをより多くの人の心の中に浸透させるためのブランディングが必要であるという点です。
この点を具体化するための取組みとして、「初心者用サイトとコア層用サイトの二分化」と「初級・中級・上級」の三段階で商品をパッケージ化して販売する戦略を提案します。

昆虫食が初めてで慣れてない人向け→段階的にレベルをあげていける仕組みを創り上げることで、食わず嫌いで潜在的な顧客が離脱してしまうことを防ぎながら、徐々に昆虫食の良さを浸透させ、持続的な購買を促進させることができるのではないかと考えます。

初級パックは昆虫感が薄く、普段と変わらない感覚で食すことが出来る。
昆虫感が徐々に増してくるが、初級で昆虫食に興味を持った人にはぴったりの商品群。


ザ・昆虫食。でも中級までクリアした人にとっては朝飯前?


【おわりに】
TAKEO株式会社をマーケティングトレースした結果、競合他社との明確なポジショニングの差別化を実現しており、独自性の強い商品ラインナップとビジネスモデルを確立していることが分かった。
一方で、成長余地のある市場だからこそ、これからの新規参入プレイヤーも増えてくるだろう。その新規参入の脅威に対し、今回提案したような商品レベルに応じたパッケージ戦略などを主軸に新たなマーケティング施策を投下することで、TAKEO株式会社のブランド力を向上させることができるはずだ。



≪教員コメント≫
非常にレベルの高いマーケティングトレースでした。
本人たちもほとんどなじみのない業界・企業だったかと思いますが、「本当に成長し得るビジネスなのか」をマクロ環境分析で明らかにしたのち、競合他社を丁寧に調査したうえで、どこがTAKEO株式会社の差別化ポイントなのか、それは具体的にどのような施策に現れているのかというミクロ環境分析に至るまで、模範的な分析と考察を行ってくれましたし、最後のCMOになったらという提案でも、学生たちのアイデアで独自性があるだけでなく、これまでの調査や解釈に基づいた実現性の高い戦略的視座で、感心しました。
短いグループ活動の時間の中、よくここまでのアウトプットをしてくれたと思います。



【参考・引用資料】
TAKEO株式会社HP(https://takeo.tokyo
日本経済新聞 2023年1/23(https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP647948_T20C23A1000000/)
株式会社BugMoHP(https://bugmo.jp/business/)
株式会社無印良品HP(https://www.muji.com/jp/ja/feature/food/460936)
FUTURENAUT株式会社HP  (https://futurenaut.co.jp/)
Ellie株式会社HP(https://www.ellieinc.co.jp/)
大阪環農HP(https://www.knsk-osaka.jp/portal_info/doc/2020090900040/)
国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所HP(https://www.fao.org/japan/jp/ )

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