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2020年5月に観た映画で面白かったやつ5本

※敬称略

ここに書き記しますは、2020年5月に観た17本の映画の中で特筆したい5本です。『マイ・インターン』以外クセつよ映画ですがどうぞご了承くださいませ。


マイ・インターン (2015)

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アン・ハサウェイ演じるファッションサイトを経営する会社の若手敏腕CEOの女性の元に、シニアインターン事業の一環として配属されたロバート・デ・ニーロ演じる人生の大先輩がやってくる…なにもかもが違う二人の出会いを描くほっこりヒューマンドラマ映画。

まず、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイのW主演ってのがめちゃくちゃデカい。このキャスティングは素晴らしすぎる。

年齢も性別も歩んできた人生もまったく異なる二人のコントラストが肝になっていて、特にデ・ニーロが静かに優しくアン・ハサウェイを見守りながらも人生の道標となっていくその身体中から溢れるような父性が、まさに貫禄の演技。
アン・ハサウェイの社長役もぴったりで、めちゃくちゃできる女なのに危うい雰囲気もあって、仕事への責任・重圧と家族を顧みなければならないプライベートとのせめぎ合いが痛いほどにこちらへ伝わってきます。そこを長年の経験からお助けしていくデ・ニーロの優しさたるや、こんな大人になりてぇなぁ…と感慨深くなってしまう。

基本はコメディベースで進行していくのに、なぜか大掛かりなミッションを請け負った特攻チームのようなアクション展開になるし(ここめっちゃ爆笑ポイント)、途中でハッとする場面もあるしで、観終わったあとは本当に良い映画だな~と独り言を言ってしまうくらい。

ハンカチの正しい使い方を知りたい方は絶対に観てください。


見知らぬ乗客 (1951)

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サスペンスの巨匠、アルフレッド・ヒッチコックによる名作サスペンス。
主人公のテニスプレイヤーは電車で出会った一人の男に突然「交換殺人しないか?」と持ち掛けられる。バカげた話だと無視していたのにその男に勝手に妻を殺されてしまい、どんどん追い詰められていく…というお話。

この作品は演出と脚本、これに尽きる。
まず主人公はテニスの有名なプレイヤーなので名前も知られているし家族関係もよく取り沙汰される。そこにつけこむヤバいやつが関わってくるっていう、自分じゃどうしようもできない事態にまんまとハマっていくのがめちゃめちゃ理不尽だけどこういうのありそうだよな、と思ってしまうのが怖い。

そしてその"ヤバいやつ"を演じたロバート・ウォーカーの演技が、カメラワークや演出の巧みさもあって本当に怖く見えてくる。特に主人公の妻を殺して「さあ次は君が殺す番だ」と何度も何度も主人公の元にけしかけてくる執拗さが気持ち悪く、テニスコートの場面は本当に鳥肌が立つくらい悪寒が走ります。
人間が感じる潜在的な恐怖とサスペンスの作り方を熟知していたヒッチコックならではの演出です。

そして語り草になっている最後の遊園地の場面!
1950年代にこれだけインパクトのあるクライマックスシーンを作り出せたのかと驚嘆しました。まだ映画に色がついていない時代にもかかわらず、いやだからこそ、どういう映像で観客をハラハラさせようかと知恵を絞ったその熱意に頭が下がります。


哭声/コクソン (2016)

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『チェイサー』などで知られるナ・ホンジン監督が作り上げた重量級ホラーサスペンス。
その僻村では住民が突然家族を惨殺するという猟奇殺人事件が相次いでいた。いつの日からか、事件が起き始めたのは山の奥地に謎の男が住み着いてからだと巷間の噂に上るようになる。警察官はその謎の男に会いに行くが、事件は思わぬ方向へ動いていく……

観るのにとても体力を使う映画です。
2時間30分というランニングタイムもそうなのですが、まず一つのテーマに留まらないような様々な要素が入っている多重構造的な内容、そして完全に終結せずリドルストーリー的に描く難解さ、そしてそれを韓国映画的バイオレンス風味で仕立てているので、目に飛び込んでくる映像の一つ一つをちゃんと観よう(理解しよう)とするととんでもなく時間がかかります。現に僕は観終わったあとなんのこっちゃわからず考察を検索しまくりました。

難解だと言っても抽象画やアート映画のようなものではなく、しっかりとエンタメとして楽しめます。
猟奇事件を追う警察官と山に住み着いた男の謎を追うサスペンスとしても楽しめるし、謎の男の正体や謎の女のこと(そう、この映画には謎の女も出てきます)を巡るオカルトテイストも楽しめるし、はたまた宗教映画としても観ることができます。

個人的な感想としては、現実的解釈と宗教的解釈のどちらとも観れる映画で、そのどっちつかずの不安定な作り(おそらくこれも意図的でしょう)にしてもメタ目線での解釈すら可能になっていると思いました。
観れば明らかに宗教、というかキリスト教が根底にある作りだなと思いますが、そこに警察官の視点が入ることで主観的な物語(ミステリーでいう信頼できない語り手の手法)になっています。

とりあえず小難しいことはいいので観てください。観なきゃこのヤバさは伝わりません。そして日本から抜擢された國村準氏の狂った演技が物凄い。これだけでも観る価値アリ。『全裸監督』のときを何倍にも煮詰めたような演技です。


チワワちゃん (2019)

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岡崎京子氏の短編マンガの長編実写化。
学校が一緒だったわけでも会社の同僚でもない、ただなんとなくその場にいたメンバーで構成された遊び仲間の中で"チワワちゃん"と呼ばれていた女性がある日バラバラ死体遺棄事件の被害者になってしまう。でも残されたメンバーはチワワちゃんのことは何一つ知らなかった。

あらすじこそ事件が起きたりして犯人探しものなのかな?と思いますが全然違います。チワワちゃんという女性を巡って、そこに関わった人々の思い出から自分を再発見したり他人の思いに気付いたりを掘り起こしていく青春映画です。

青春と呼ばれる時間は人生の中においては本当に一部分でしかなく一瞬で過ぎていきます。でもそのときはこの時間が永遠に続けばいいのになと思ってしまう。そんな刹那的な儚さを独特な映像表現で見せてくれるのがこの『チワワちゃん』という映画です。

まるで劇中に出てくる若者たちの見ていた景色や心に疼く衝動を追体験するように繰り広げられる圧倒的にフォトジェニックな映像美は今までに体験したことのないものでした。
目が痛くなるほどにビビットな色彩が舞うダンスフロアやナイトプールで一時の情動に駆られてキスしたりセックスしたり。まさに自分が主体。そこにはピュアな想いがあるだけです。
チワワちゃんの残影を追いかけることで体験した青春を冷徹に眺め、それでも立ち止まってちゃいけないと前を向く。言葉にすると単純ですが、ストーリー性だけではなく映像で訴えかけてくるのは映画ならではではないでしょうか。

エンディングテーマの Have a Nice Day! - 僕らの時代 もマッチしていて抜群に良い。


ウィッチ (2015)

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2015年のサンダンス映画祭で監督賞を受賞した中世アメリカの魔女狩りがテーマとなっているホラー映画。
教義の不一致により村を追放された敬虔な一家が、赤子の失踪をきっかけに崩壊していく物語。

映像、演出、音響の使い方がアリ・アスターの『ミッドサマー』を思い出します。映るものに自然物が多いのと弦楽器を多用した音遣いのせいでそう思うのかもしれませんが。

『ミッドサマー』は独特の風習が残る夏至祭に招かれた若者グループが悪夢に襲われていくという筋でしたが、この『ウィッチ』は基本的にある一家の中で話が完結します。つまり家族同士の不和や疑心によって自滅していきます。家族は宗教的価値観の違いで郊外に追いやられているので、助けてくれる外部の世界もありません。近くには深い森があるだけ。家
族が住んでいるところは非常に痩せこけた土地で作物も豊穣に育つことは難しいと傍目にはわかるのですが、そんな中で疑心暗鬼が生まれるのでもう破滅しかないわけです。

映画全編に渡って閉塞感が支配していて、テーマも家族の崩壊なので結構しんどい部分はあるかもしれませんが、魔女というものに翻弄された中世の人間社会を垣間見るにはとても意味のある作品だと思います。
理解不能なもの、不可解なものをひとえに魔女の仕業と決めつけていた時代、それが家族であっても考え方は同じで、娘のトマシンがひたすら不憫でなりません。そんなトマシンに救いはあるのか。最後に受ける救済はなんなのか。当時の女性はとりわけ非力な存在でした。トマシンが何に縋っても誰もとやかく言うことはできないのではないでしょうか。

考察すると家族全員が"七つの大罪"になぞらえた咎を持っていたり黒ヤギはバフォメット(悪魔)だったりして興味深いですね。『ミッドサマー』や『パンズ・ラビリンス』などが好きな人にはオススメです。

余談。監督のロバート・エガースが撮った最新作、『The Lighthouse』が観たいんですが日本未公開でつらい。巷では傑作と言われてるようなのでなんとかして日本で公開してほしい。

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