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ゆらゆら帝国⑪ シングル集 2002~2007+α

ちょっと前に「空洞です」のレビューを書いたが、残りのこの年代のアルバム未収録曲を書いてメジャーデビュー後のゆら帝の全楽曲のレビューが完了する。
「+α」としているのは、「LIVE 2005-2009」にライブ音源のみ収録されてスタジオ音源が無い例の3曲も含む為である。

5th Single「冷たいギフト/貫通」

2002年にゆら帝が唯一発売したシングルで、両A面として発売されたのもこのシングルのみ。
当時の時点でもうあまり出回らなくなっていた8cmCD形態による発売で、しかも2枚組にしてそれぞれのディスクに一曲ずつ収録というかなり特殊な形態で発売された。
確かに一般に両A面として発売されたシングルはどうしてもCDの1曲目側ばかり目立ちがちな傾向があるため、2枚組にしてどちらも対等な扱いにしようとしているようで面白い試みだと感じる。

今作のシングル二曲はどちらも違ったタイプの楽曲で、後に発売されたアルバム「ゆらゆら帝国のしびれ」「ゆらゆら帝国のめまい」ではそれぞれ別々で収録された。
どちらも収録されたアルバムの雰囲気を凝縮したような曲であり、アルバムの方向性を示唆するようでもある重要な位置づけのシングルだ。

Disc 1 冷たいギフト

めまい収録曲。アルバムにそのまま収録されているので以下の記事に書いてある。


Disc 2 貫通

こちらはしびれに収録された曲だが、アルバムの音に合わせて新たなアレンジによるアルバムバージョンで収録された。そのためシングル版はここでしか聴けない。

「冷たいギフト」が子供の合唱を取り入れた童謡らしい温かさを持つポップな歌ものだったのに対して、こちらは従来のゆら帝の延長にあるハードなガレージロックとなっている。
タムを中心とした重厚なドラムに、鋭いギターが鳴り響くアレンジは確かに冷たいギフトの温かさとは対極の位置にある楽曲。歌詞もとても独特で、特に2番Aメロでの「背広が三人」から始まる一連のフレーズはシュール極まりないナンセンスな歌詞がとても好き。

そしてこの曲の最大の特徴は間奏であり、文字通り耳を貫通しにかかっているかのようなノイズのような轟音の嵐が始まる。全ての楽器がただ力任せにノイズを広げる演奏は正に圧巻であり、知らないで最初に聴いたときは本当に耳が壊れるかと思ったほど。更にたちが悪いのがこの間奏が中盤に約3分にもかけて行われることである。
ちなみに演奏時間は7:47と、次作の「つぎの夜へ」と並んでシングル曲で最も長い曲でもある。


6th Single「つぎの夜へ」

2006年に唯一出したCDで、前回のシングルからの間隔は約4年と最も長い。
2004年にベストの発売、2005年には事務所の移籍、移籍後初のアルバム「Sweet Spot」の発売などキャリアの中で一区切りがついて落ち着いたあたりでの発売となった。

前作までのシングルは解散後に発売された「Singles 1998-2002」という編集盤で聴くことができるが、今作と次作のシングルは収録されなかったため今作収録の2曲は完全にこのシングルでしか聴くことができない。(ライブ版なら「LIVE 2005-2009」でどちらも聴けるがアレンジは大きく異なる)
2曲のみ収録と前作と同じくシングルの中では少なめだが、2曲とも演奏時間が7分越えの長尺曲のためフルで聴くと20分近くあるので案外ボリュームは多めに感じるだろう。

01. つぎの夜へ

シングル曲では初の落ち着いたメロウな曲調の曲で、スライドギターやトレモロのギターのアレンジが目立つ正に後期の音楽性らしい歪みの少ないアレンジになっていて、坂本氏のソロにも繋がるアレンジにも感じる。

また、ゆら帝の中では比較的前向きな歌詞でこれもとても良い。痛みや悲しみをつぎの夜へ連れて行こうという内容は気分によって前向きにも後ろ向きにも捉えられるだろう。バスドラの4つ打ちが淡々と夜道を進んでいるかのようで、落ち着いているようでいて妙な明るさとか前向きさも感じる。

02. 順番には逆らえない

カップリング曲含めた全シングル曲の中だと最も演奏時間が長い曲で、前作「Sweet Spot」の作風にも近いミニマルでかつダークな雰囲気の曲。
9分近くある曲にも関わらずたった1コードのみで進む非常に実験的な曲で、ベースに至ってはほとんど同じフレーズしか弾いてないという徹底ぶり。Sweet Spotでも見られたもはや機械音のような歪み方のギターがまたとても無機質で、「夜」とついている前曲よりも遥かにこちらの方が冷たさを感じる。

歌詞は本当タイトル通りのことを歌っているのだが、順番は社会のルールや自然の摂理など人一人では抗えないものを指しているようでもあり、それらにはどうやっても逆らえない絶望感や諦めを歌っているように感じられる。サウンドや歌詞のどうしようもない虚しさといい、しびれの収録曲の作風に通じるものも感じる。


7th Single「美しい」

シングルとしてはラストとなる今作は、2007年にアルバム「空洞です」に先駆けて発売された。
完全新曲4曲入りというとてもボリューミーな内容となっており、アルバムに収録された「美しい」「なんとなく夢を」は二曲ともアルバムでは大幅なアレンジを加えられもはや別物のような形で収録されたため、今作も全曲このCDでしか聴けない。

ドリーミーでポップな前半2曲と、怪しげでダークなリフものの後半2曲という感じの構成になっており、「なんとなく夢を」では次の曲のフレーズが入るなどこの一枚でコンセプトアルバムのような統一感がある内容となっており、これはこれ単体でEPとしても楽しめる作品になっている。

01. 美しい

このタイトルにして、「クソ」について歌った大変美しい曲である。
しかし、完全な無意味・ナンセンスにとどめることなくクソを通して「美しいこと」とは何かを問われているような内容となっており、実はメッセージ性も帯びた曲にもなっている。クソにリボンを結んでみたり、魂をこめたりと笑えるフレーズで説教臭さもないのがゆら帝の凄みか。

サウンドでいえば、タイトルを体現したかのような煌びやかなギターとポップなメロディがとても良く、盛り上がりどころでは満を持して歌われる「まぶしい」と伸びるフレーズが突き抜けるような爽快感があって気持ちがいい。

02. なんとなく夢を

前曲の雰囲気を汲むかのような明るいイントロが特徴であり、正に夢の中のようなドリーミーで軽やかな曲調のキャッチーな曲。女性コーラスも交えた歌がもあってとてもポップな聴きごたえだ。
後半から別のギターリフが加わって絡み合うアレンジも気持ちいい。

最後には演奏がなくなり「夢 を」とリフレインするのが切なさもあっていい。ここで次の曲の「なさけない&はずかしい」のフレーズも登場して、次に繋がる。

03. なさけない&はずかしい

曲調が変わり、へばりつくようなワウギターでのリフが妖しげなサイケファンク的な内容の曲。
アルバムのテーマにも繋がるやるせなさや諦めを感じる歌詞が特徴的。「悪魔にタマを半分握られたまま…」だなんて、そりゃなさけないし恥ずかしい。

04. 船

トレモロで揺らぐギターのリフを中心に展開される不思議な雰囲気な曲。
男性の象徴を船で暗喩するような歌詞がアダルトでサイケ。後半では語りを交えて演奏するなど、本当に掴みどころがなくなんとも形容しがたいぬるま湯のような曲である。

後のリミックス集ではインストでのリミックスで収録され、メンバーにはこちらが気に入ったのかその後のライブもインストバージョンで演奏されるようになった珍しい曲でもある。


+α スタジオ音源が無い未収録曲

単なる穴

「LIVE 2005-2009」のCDのDisc 1にのみ収録された。
単純なギターリフを中心としたシンプルな楽曲…と見せかけて、ギター、ベース、ドラムがそれぞれ別のリズムのフレーズを弾いているというかなり実験的な曲。そしてそのギターリフを弾きながらまた別のリズムで歌うというリズム感の凄さにひたすら驚かされる…。後半ではリフを弾きながら語るという離れ業もやってのけている。

歌詞はタイトルからも分かる通り下ネタ。

お前の田んぼが好き

「LIVE 2005-2009」のCDのDisc 1と2009年野音のDVDどちらも収録された。
こちらもリフものながら前期のようなアグレッシブさはなく、後期のドロドロとしたねばつくような演奏となっていてなんとも不気味でサイケな曲。

「田んぼ」という日本的なフレーズを交えた歌詞はどこかインディーズ時代の水木しげる漫画のような妖怪感にも似ていて面白い。「田んぼ」が指す意味はまたしても下ネタであり、この二曲のスタジオ音源を残さなかったのはこっちが理由なのでは?とすら感じる。

ちなみに未収録曲の中では唯一2公演の演奏が収録されたこの曲だが、CD版とDVD版では終わり方が微妙に異なるので聴き比べてみると面白い。

いまだに魔法がとけぬまま

「LIVE 2005-2009」のDVDで、2009年野音の公演の様子のみ収録された曲でCDには完全に未収録の珍しい曲である。

ゆら帝でも珍しいバラード調の曲で、アルペジオのフレーズと終焉を感じさせる内容の歌詞がとても切ない。「魔法」や「城」などファンタジーチックな単語が出てくるのがメジャー前期の作風の面影を感じるし、「受け入れなくちゃすべてを とがめる資格もないが」などの諦観としたフレーズは後期らしさもあり、ゆら帝の長い歴史を総括しているような側面も感じる。
後半でのギターソロも非常にメロディアスで耽美的であり、坂本氏のギターソロの中でも屈指の名演を披露している。
長尺の曲ながら、聴いていると様々なゆら帝の曲が走馬灯のように思い起こされるのでいつ聴いても感傷的になってしまうゆら帝の歴史を締めくくる最後の名曲である。

音源として残さなかったのはあまりにも感傷的に作りすぎた照れの感情もあるだろうか。


…さてこれでゆら帝のメジャーデビュー後の楽曲は全部レビューが終わった。
インディーズ時代のアルバムは、それぞれ手に入れることができたら書きたい。
次の全曲レビューは今年最もはまったスージー&ザ・バンシーズでもやろうかと思います。

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