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年末売買が総平均法における損益計算に与える影響を考える

仮想通貨botter Advent Calendar 2024の5日目の記事です。

今年は年初からBTC ETF上場期待があり、その後実際に上場、ETFへの資金流入上げの上昇相場で始まりました。途中ドイツ政府売りやMt.GOX売りなどの夏枯れ相場があったものの、年末はトランプ大統領再選や利下げ期待などによる再熱があり、結果としては年始4万ドルから始まり年末11万ドルを達成するという、素晴らしい年でしたね。

上の文章は7月に書いたのですが、12月5日時点では10万ドルを超えた記念日になったものの、残念ながら11万ドルには届かず。年末までに11万ドルを達成することを期待してそのまま残します。

もう少し後の日を指定して記事書くべきだったかなぁ

そんな上昇相場においては、結構な含み益を抱えたまま年末を迎えている人も多いのではないでしょうか。含み益がある現物を売ってしまうと、利益確定になってしまう・・・ということは良く知られていると思いますが、

・逆に買い増した場合
・年中ごちゃごちゃトレードした場合

などにどうなるかは、あまりイメージがない人が多いのでは、と思います。

本Noteではそんな年末売買の影響について、定量的に考察していくことを目的としています。前提として本Noteは、個人取引における損益計算のデフォルト方法である総平均法での考え方に基づきます。法人取引における損益計算は全く別の方法であることに留意ください。

免責事項
本Noteには日本国における暗号資産税制への解釈が含まれますが、その正確性について一切保証するものではありません。以降の記述や解釈には誤りが含まれている可能性があります。




損益変化を定量化する

ある時点(例えば12月30日)までの売買状況を踏まえ、それ以降(例えば12月31日)に売買した場合、どのように損益が変化するかを考えてみます。

ある時点(t=0)での売買状況を以下とします。

購入数量:$${Q_{b0}}$$ 
購入金額:$${A_{b0}}$$
購入単価:$${P_{b0}}$$
売却数量:$${Q_{s0}}$$
売却金額:$${A_{s0}}$$
売却単価:$${P_{s0}}$$

※文字はQuantity, Amount, Price, 添字はbuy, sell, t=0の意
※数量や金額は、その年の売買だけでなく、前年からの持越し分の数量と金額であることに注意

この時、購入単価、売却単価はそれぞれ

$$
{P_{b0}=\cfrac{A_{b0}}{Q_{b0}}} ,{P_{s0}=\cfrac{A_{s0}}{Q_{s0}}}
$$

であり、この時点での損益は「単価差×数量」なので、

$$
(P_{s0}-P_{b0})Q_{s0}=(\cfrac{A_{s0}}{Q_{s0}}-\cfrac{A_{b0}}{Q_{b0}})Q_{s0}
$$

となります。ここからさらにある時点(t=1)で売却、購入した場合にどのように損益が変化するかを考えます。


ケース①:売却の場合

追加売却数量:$${Q_{s1}}$$
追加売却金額:$${A_{s1}}$$
追加売却後の通算売却単価(※):$${P_{s1}}$$
により売却を行ったとします。

(※)$${P_{s1}}$$は追加売却分の単価ではなく通算単価であるため、
$${P_{s1}=\cfrac{A_{s1}}{Q_{s1}}}$$
ではなく、
$${P_{s1}=\cfrac{A_{s1}+A_{s0}}{Q_{s1}+Q_{s0}}}$$
と定義していることに注意。

損益は、売り単価と数量が変化することから、

$$
(P_{s1}-P_{b0})(Q_{s0}+Q_{s1})
$$

と書けるので、このとき損益変化は、

$$
(P_{s1}-P_{b0})(Q_{s0}+Q_{s1}) -(P_{s0}-P_{b0})Q_{s0}\\
=P_{s1}Q_{s0}-\cancel{P_{b0}Q}_{s0}+P_{s1}Q_{s1}-P_{b0}Q_{s1}-P_{s0}Q_{s0}+\cancel{P_{b0}Q_{s0}}\\
=P_{s1}(Q_{s0}+Q_{s1})-P_{s0}Q_{s0}-P_{b0}Q_{s1}\\
=\cfrac{A_{s1}+\cancel{A_{s0}}}{\cancel{Q_{s1}+Q_{s0}}}\cancel{(Q_{s0}+Q_{s1})}-\cfrac{\cancel{A_{s0}}}{\cancel{Q_{s0}}}\cancel{Q_{s0}}-\cfrac{A_{b0}}{Q_{b0}}Q_{s1}\\
=A_{s1}-\cfrac{A_{b0}Q_{s1}}{Q_{b0}}\\
=(\cfrac{A_{s1}}{Q_{s1}}-\cfrac{A_{b0}}{Q_{b0}})Q_{s1}\\
$$

となります。

単純に
(追加で売った分の単価と、元の買い単価との差分)×追加で売った数量
という形になっていますね。

元の買い単価さえ分かっていれば、後は売るときの単価差を取り、数量をかければ利益変化は計算できます。


ケース②:購入の場合

追加購入数量:$${Q_{b1}}$$
追加購入金額:$${A_{b1}}$$
追加購入後の通算購入単価(※):$${P_{b1}}$$
により購入を行ったとします。

(※)売りの時と同様
$${P_{b1}=\cfrac{A_{b1}+A_{b0}}{Q_{b1}+Q_{b0}}}$$
と定義していることに注意。

損益は、買い単価のみが変化することから、

$$
(P_{s0}-P_{b1})Q_{s0} 
$$

と書けるので、このとき損益変化は、

$$
(P_{s0}-P_{b1})Q_{s0} -(P_{s0}-P_{b0})Q_{s0}\\
=Q_{s0}(P_{b0}-P_{b1})\\
=Q_{s0}(\cfrac{A_{b0}}{Q_{b0}}-\cfrac{A_{b0}+A_{b1}}{Q_{b0}+Q_{b1}})\\
=Q_{s0}{\cfrac{A_{b0}({Q_{b0}+Q_{b1}})-Q_{b0}(A_{b0}+A_{b1})}{Q_{b0}(Q_{b0}+Q_{b1})}}\\
=\cfrac{Q_{s0}}{Q_{b0}(Q_{b0}+Q_{b1})}(\cancel{A_{b0}Q_{b0}}+A_{b0}Q_{b1}-\cancel{A_{b0}Q_{b0}}-A_{b1}Q_{b0})\\
=\cfrac{Q_{s0}}{Q_{b0}(Q_{b0}+Q_{b1})}(A_{b0}Q_{b1}-A_{b1}Q_{b0})\\
=\cfrac{Q_{s0}}{Q_{b0}+Q_{b1}}(\cfrac{A_{b0}}{{Q_{b0}}}-\cfrac{A_{b1}}{Q_{b1}})Q_{b1}
$$

となります。

後ろの方は、

$$
(\cfrac{A_{b0}}{{Q_{b0}}}-\cfrac{A_{b1}}{Q_{b1}})Q_{b1}
$$

(追加で買った分の単価と、元の買単価との差分)×追加で買った数量
という、売りの時と似たような形になっていますね。

しかし前の方に

$$
\cfrac{Q_{s0}}{Q_{b0}+Q_{b1}}
$$

という係数が付いてますね。
買いの時は、単価差分と数量だけではなく、
「売り数量」「買い数量」「追加での買い数量」
という3つ値によって係数が掛かるようです。

この係数は原則として0~1を取ります。
買わなくては売れないので、買い数量>売り数量($${Q_{b0}}$$ > $${Q_{s0}}$$)であり、すなわち分母>分子であるためです。

0に近くなるのは、売り数量が0の場合
($${Q_{b0}=0}$$)
や、売り数量が買い数量に比べて非常に小さい場合
($${Q_{b0}>>Q_{s0}}$$)
ですね。

反対に1に近くなるのは、
売り数量と買い数量が近しい場合
($${Q_{b0}≒Q_{s0}}$$)
や、追加での買い数量がそれまでの買い数量に比べて小さい場合($${Q_{b0}>>Q_{b1}}$$)
と言えそうです。


ここまでのざっくりまとめ

①売却の場合
・それまでの買い単価と、追加で売る分の単価の差を出して、売る数量をかけてやれば利益変化が求まるよ。
・利益になるのか損失になるのかは、追加で売る分の単価で決まるね。高いほど利益が出るし、買い単価より低ければ損失になる(いわゆる損出し)よ。
・売る数量が大きいほどその度合い(絶対値)は大きくなるよ。

②購入の場合
・それまでの買い単価と、追加で買う分の単価の差を出して、買う数量をかけてやれば利益変化が求まるよ。
・利益になるのか損失になるのかは、追加で買う分の単価で決まるね。高いほど損失になるし、買い単価より低ければ利益になるよ。
・もっとも係数部分があるから、x(0~1)を掛けたものが実際の数字になるよ。
・xがいくつかは計算が必要だね。売った数量が買った数量に近いほど1に近くなりそう。売った数量が0に近いと利益変化もほぼ0になるよ。


年末に何をすべきか

まずは自分の今年の現物取引状況を把握する必要があるでしょう。
大量に取引している人は、取引所に問い合わせしてデータ取得、集計する必要があるかもしれません。

ここで集計すべきものは、取引状況のすべてです。つまり、
・年始からガチホしているコインの数量と金額
・エアドロップ/ステーキングなど売買以外で手に入れたコインの数量と金額
といったものも踏まえて数量と単価を計算する必要があります。

そのうえで、年末に余計な利益を計上したくないと言う人(ほとんどがそうでしょう)は年末の売買戦略を考える必要があります。後述のトレードごとの性質を押さえたうえで、適切なトレードをしていくべきでしょう。

ちなみに利益を先送りにすることで得られるメリットについては過去のアドベントカレンダーで書きました。


注意が必要なトレード

ここでは利益が出てしまうものを注意が必要なトレードとしています。

①現在の価格 > 買い単価、コインの売り
現在はATHを付けているコインも多く、そうでなくても今年最高値であるコインが多いため、基本的にガチホしている含み益コインは売ると利益になってしまいます。

②現在の価格 < 買い単価、コインの買い
いわゆるナンピン。よっぽど高値掴みしたか低迷し続けているコインでないと、そもそも条件を満たさないと思いますが、そういうコインをうっかりナンピンすると思わぬ利益計上になってしまうので、注意すべきです。


あまり問題のなさそうなトレード

ここでは利益が減る、もしくは利益に影響しないものをあまり問題のなさそうなトレードとしています。

①現在の価格 > 買い単価、のコインの買い
いわゆるピラミッティング。利益が乗っているコインをさらに買い増しするパターンですね。これは利益が減るので問題ないタイプです。

②現在の価格 < 買い単価、のコインの売り
今年の相場ではほぼなさそうですが、いわゆる含み損のコインを損出しする、というやつですね。これも利益が減るので問題ないでしょう。

③先物(レバレッジ取引、証拠金取引)でのトレード
先物は現物とは別扱いなので、現物利益計算への影響はなさそうです。
ここまで全部現物取引の話をしていましたが、先物は現物取引とは全く関係ないものとして個別に扱ってよく、単純にその先物ペアの、
(クローズ時の価格 - エントリー時の価格)×数量
が、クローズに利益(損失)として計上されると考えられます。

現物取引とは別枠で、先物トレードの損益としてクローズすべきかどうかだけ考えれば良いですね。

現物取引と同じコインだから、現物を買った数量とロングした数量を足して年間の総買い数量として…とかはしなくて良いかと思われます。本当にそうかと言うと明確な根拠はないですが、一応以下。

・もし一緒にするなら四半期先物とか明らかに価格違うやつはどうするのという論点がある。国内レバ取引や無期限先物は同一視するが四半期先物は別?じゃあオプションはどうする?など論点山積みで線引きできないはず。
・タックスアンサーでも証拠金取引の損益合計(⑨)は、年中購入金額(③)や年中売却金額(⑤)など現物取引とは区別して、損益を計上する枠が存在する。

「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」から一部引用https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf

上記を参考に、問題のあるトレードはなるべく避け、来年にかけて繰り越したいポジションやコインがあるなら、問題のないトレードを基軸としてどういう売買をするか考えるとよいでしょう。


計算の具体例

実際にありそうな状況をいくつか想定し、実際に計算してみました。

①ほとんど売ることのないガチホBTCがある場合
(前提条件)
・1BTCを単価200万で年初からずっとガチホ中
・年中にこれまで売買はしていない。
・年末に(10万ドル=1500万円)で0.2BTC(300万円)の買い増しを考えている

求めた式に代入していくんですが・・・

$$
=\cfrac{Q_{s0}}{Q_{b0}+Q_{b1}}(\cfrac{A_{b0}}{{Q_{b0}}}-\cfrac{A_{b1}}{Q_{b1}})Q_{b1}\\
=\cfrac{0}{1+0.2}(\cfrac{2,000,000}{1}-\cfrac{3,000,000}{0.2})*0
$$

結局最後の項が0なので、0になります。
年中に全く売っていない場合、特に損益には影響を与えないということですね。
今年の利益をこれ以上計上したくない人でも、ビットコイン買って大丈夫です。


②年中たくさん売買したコインがある場合(現在価格が高い)
(前提条件)
・3-4月にBTCが伸びたため10,000,000円付近でたくさん売買した(売り買いともに10億円、100枚ほど)
・現在保有は0だが、年末さらに伸びており(15,000,000円)、もっと伸びる期待を持っているため、買い越し(2枚)を考えている。

求めた式に代入していきます。

$$
=\cfrac{Q_{s0}}{Q_{b0}+Q_{b1}}(\cfrac{A_{b0}}{{Q_{b0}}}-\cfrac{A_{b1}}{Q_{b1}})Q_{b1}\\
=\cfrac{100}{100+2}(\cfrac{1,000,000,000}{{100}}-\cfrac{30,000,000}{2})*2\\
=\cfrac{100}{102}(10,000,000-15,000,000)*2\\
=-9,803,921
$$

ということで負の値になり、損失が増えますね。
年中の売買回転が多い場合、最初の係数がほぼ1に近くなる(100/102の部分)ため、単価差×数量がほぼ損益変化になります。
今年の年末はビットコインATHなので、今年の利益をこれ以上計上したくない人でも、ビットコイン買って大丈夫です。


③年中たくさん売買したコインがある場合(現在価格が低い)
いやそんなもんあるんか・・・?
TGEから春頃だけ盛り上がって、ロックアップ解除のインフレに追いついてないトークンとかでしょうか。めったになさそうですがPythとかですかね。

Pyth価格
https://www.coingecko.com/ja/%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%B3/pyth-network

(前提条件)
・3-4月にPythが伸びたため150円(1ドル)付近でたくさん売買した(売り買いともに1.5億円、100万枚ほど)
・現在保有は0だが、年末になって伸びる兆しが見えているため、買い越し(0.5ドル=75円、10万枚)を考えている。

$$
=\cfrac{Q_{s0}}{Q_{b0}+Q_{b1}}(\cfrac{A_{b0}}{{Q_{b0}}}-\cfrac{A_{b1}}{Q_{b1}})Q_{b1}\\
=\cfrac{1,000,000}{1,000,000+100,000}(\cfrac{150,000,000}{{1,000,000}}-\cfrac{75,000,000}{100,000})*100,000\\
=\cfrac{100}{110}(150-75)*100,000\\
=6,818,181
$$

ということで正の値になるので、利益が増えますね。
既に十分利益を出しており、これ以上は増やしたくない・・・という人は、これから伸びると考えていたとしても、年末価格が低いコインをあまり買うべきではないかもしれません。
仕方ないのでその利益はビットコインを買うことに使いましょう。


④年末にデルニュー(※)で年越しする場合
※ここでは現物買いと無期限先物売りを同数量行う事で価格リスクを取らずにFunding Rateだけ受け取ろうとするポジションのことを指す。

デルニューといっても、先物ショートは現物損益計算に影響しないことは既に述べた通りです。よって現物購入側の価格がどうかだけ見極めておくべきです。
②のようなATHコインは問題ないでしょうが、③のようなコインをデルニューしている場合は、取得単価がどうなっているか一考すべきでしょう。思わぬところで利益が出ているかもしれません。

個人的な所感としては、多くのコインをデルニューで持ち越すと損益計算が煩雑になってしまうため、なるべく年末までにデルニューを解消して、持ち越すコインは1つとか2つとかに絞った方がいいと思います。
例えばビットコインとか。


終わりに

本Noteでは現物売買が損益に与える影響を考察してきました。
これは特に節税目的というわけではなく、単純に現物売買は思いもしないところで損益に与える影響があるので、それは知っておくべきだよねという趣旨です。自分の今年の損益状況を押さえた上で、意図しない売買は避けられるなら避けた方がいいですし、損失が出ている人はむしろ利益が出る方向で売買したいかもしれません。
また現在のバブル的な相場も、歴史を振り返れば長くは続かないでしょう。その時は2022年のように、年末が安値となる相場が来るかもしれません。その時もまた損益状況によって行動は変わりそうですね。

適切な行動は人それぞれ。

来年の確定申告時に後悔しないようなシンプルかつ効率的な取引を目指していきましょう。確定申告時に後悔しなかったことなんてないんだけどな、ガハハ


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