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ウールインナーの話① 〜希少な超極細メリノウールとの出会い

2020年12月、MUUGIからメリノウール100%のカットソーを発売しました。

これまでシルクにこだわってシルクのアンダーウェアを作るというお話をしてきましたので、今度はウール?なぜ?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、このメリノウールのカットソーをどうしても世の中にお届けしたかったお話をさせてください。

これまでのnoteでも書いてきたとおり、わたしは下着やインナーによる肌荒れに悩まされてきました。
とても有名な某あったかインナー、以前のわたしも冬になるとお決まりのように着ていました。
でも、背中ニキビやお腹周りの乾燥による痒みなどが気になりだし、化繊もその原因のひとつと知ってからはそれらも一斉処分、代替品をシルクに求めてから肌荒れが改善してきたのはこれまでもお話ししたとおりです。
そんなわけで、真冬もコットンのブラキャミの上にシルクのノースリーブなどを着て、その上からニットを着る生活をしていました。
肌には良いのですが・・まあ寒い。
外をほとんど歩かない日はまだ良いけれど、屋外に一日中立つ仕事の日や、街を歩く日、旅行の時など、さすがに寒くて代替手段を探し始めました。
コットンカットソーや、ウールやシルクのカットソー、アウトドアブランドのインナーレイヤーなど、いろいろ試してみましたが、洋服のインナーとして着るには厚すぎてモコモコしたり大き過ぎたり(わたしはトップスにタイトなものが多いのです)、ニットの首元から出たときのテクスチャーが微妙だったり、ニットへの響き方のラインが気に入らなかったり(透けたときの深いUの字が、服のネックラインに沿ってなくてなんだか微妙)、納得できるものに出会えない日々。しかも冬用のインナーは春夏になると急に出番がなくなり、タイツとともに衣替え要員となって仕舞われていくのも、うまくものを活用できていない気がして少し残念な気持ちになるのでした。

そんなわたしの前に現れたのが、今回採用することになったスーパー180という超極細のメリノウールです。
これは、14.5マイクロンという、カシミヤと同等もしくはカシミヤよりも細い繊維(ちなみに一般的にカシミヤは14〜16マイクロン。エクストラファインメリノは18.5〜19.5マイクロン。数字が小さいほど繊維が細く上質です)。この14.5マイクロンというのは、世の中でほとんど見かけることのない、特にインナーとして使われることはきわめて稀な細さの繊維です。
そんな細い繊維からできた生地は、最初見たとき「これってウール100%ですか?」と聞いてしまったほど。薄くてツルツルしていてすべらか、光沢感がほのかにあり、いわゆるウールと聞いてイメージするザラザラ感やほっこり感を感じられなかったからです。

この素材を紹介してくれた生地屋さんは、ちょうどこの原料を使った生地を試作してなにか製品化できないか?と考えていたところでした。
「すごく良い生地なんだけど、高すぎてなかなか(ブランドさんに)買ってもらえないんだよ。高いから使うとしても値段をとれるアウター系(外に着る洋服)になっちゃうし。でも良い生地だからこそ、アウターではなく肌に触れるインナーに使わなきゃもったいないと思うんだよね。」
そのとき、長年わたしが感じていた冬用インナーへのニーズを、この生地なら満たしてくれるのではないか?と思ったのです。

そもそも、インナーでウール100%というのは意外と少ない。メリノウールのインナーで調べても、ウール100%ではなくポリエステルなどが混ざっていることも多いのです。
さらに、スーパー180、つまり14.5マイクロンという細さのウールでつくられたインナーは、ほとんど目にすることができないレベルのものになります。(メリノ)ウールのインナーを探すと「なめらか、ちくちくしない」といったコピーもよく並んでいるのですが、それらも18,17マイクロン前後のものがほとんど。少なくともわたしが自分で探しているときに、14.5マイクロンという細さのウールでつくられたインナーを見つけることはできませんでした。
もちろん、数字はあくまでも数字。繊維の細さというスペックはあくまで服における一要素に過ぎず、肌の感じる心地よさは様々な要素から出来上がるものですが、生地の上質さ、すべらかさを表す一つの目安としてお伝えさせていただきました。

ではどうして、そんな上質な繊維がここにあるのに、市場にはほとんど出ていないのか?他のブランドさんやメーカーさんは使っていないのか?
わたしは、素朴な疑問を生地屋さんにぶつけてみました。
生地屋さんいわく、「まず、14.5マイクロンはとれる量が少ないから、そもそも流通量がかなり少ない。それに、私みたいなちょっと頭おかしい人じゃないと、こんな高い糸買わないんだよ。普通はこんな糸、高過ぎて売れないから。実際いろんな人たちに紹介してるけど、みんな興味はもつけど、値段を聞くと引いちゃうよねー。」
ふうんそういうものなんですねぇ。わたしは服飾業界の常識があまりにもなさすぎるのかもしれません。
でも、そう言われるとそんな生地に取り組んでみたくなってしまうわたし。出会ってしまったからには、なかなか他のブランドさんは手を出しづらいであろうこの生地を使ってみよう、そしてこれで冬用のインナーを作ってみよう、という思いが湧き上がってきたのでした。

さらに嬉しい追加情報も。
ザ・ウールマーク・カンパニー(ウールに関するグローバルオーソリティー)の方にお会いしてメリノウールについてお話を伺ったところ、暖かいだけではないメリノウールのすぐれた点がたくさんあるというのです。
冬用の繊維というイメージのウールだけれど、実は吸湿性や放湿性にすぐれていて、汗をかいたときにも速乾してくれるので夏にもいいんだよ、とか。たしかに、最近は春夏用のウールTシャツ・カットソーの提案を様々なブランドさんがされていますよね。ここまではアウトドアブランドを漁っていたわたしも知っていたのですが、さらなる情報が。

まずは防臭・抗菌効果。メリノウール繊維はバクテリアやにおいの発生・繁殖を抑えてくれて、洗濯の頻度が減らせるというメリットがあるのです。アメリカなどでは、このメリットをメインコンセプトに打ち出したベンチャーが複数出てきており、数週間の旅行中一度も洗わなくていいメリノウールのTシャツや、100日間同じメリノウールの服を着るというチャレンジなども行われているのです。
(この動きはウォッシュレス・ムーブメントとしてサステナブルの文脈で日本のファッション界/ビジネス界でも知られるようになってきていますが、清潔好き・匂いに敏感な日本人にどの程度浸透するのか注目しています。わたし個人としては、服のためにも環境のためにも、必要以上の洗濯はせずに数日くらいは着てしまっていいと思っているのですが・・。)

そして、これは知りませんでした、実は細いメリノウールは肌にやさしくてアトピーや湿疹にもいいんだよ、ということ。オーストラリアやアメリカで行われた実験で、17.5マイクロン以下の細さのメリノウールを素肌に直接着用することで、湿疹やアトピー性皮膚炎の症状が軽減するということが明らかになっているのです。実際にわたしも論文を見て、幼児や成人を対象にした研究で症状の改善が認められたということを確認しました。しかし、これはあくまでもオーストラリアやアメリカでの実験結果。日本においては同様の研究成果はまだ認められていません。よって日本ではこれを「アトピーに効く」と謳うことはできないとのこと。
ですのでこれを声高に言うことはできないのですが・・・。肌のかゆかゆに悩んでいる人に、ぜひお届けしたい!この情報!ということでここでこっそりと?お伝えしております。
(詳しくは「ザ・ウールマーク・カンパニー」さんのファクトシートに実験結果なども載っています。)
https://www.woolmark.jp/industry/research/factsheets/

このようにして、既存のウールの概念を覆すような高級な超極細メリノウール素材に出会ったわたしは、その繊維がもつ様々な機能性がインナーにぴったりなことにますます感動し、この生地でインナーカットソーを作らねば・・・!という使命感に似たようなものに駆られたのです。
さっそくこの生地で試作品を作ってみたのですが、商品化にはもうひとつの壁がありました。そのお話は次回に。


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