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ゼロから1を生み出す思考の練習:『ゼロトゥワン』

【質問】◯◯に当てはまる単語を答えよ。
「世界のほとんどの人は◯◯を信じているが、真実は◯◯の逆である。」

今回紹介する本の著者でありPayPalの創業者ピーター・ティールは新しい何かを創り出すには、隠された真実を見つけなければならないと言います。

ティールはこの本を、起業の手引きではなく、新しい何かを創り出すための「考える訓練」と位置付けています。

質問に対する著者ティールの考えと、それに至る思考の手順は文末に図解しています。

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ゼロトゥワン 〜君はゼロから何を生み出せるか〜
ピーター・ティール
[訳]関美和
NHK出版 2014.09
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ゼロトゥワンとは?

一度は耳にしたことがある「ゼロトゥワン」という言葉。みなさんはこの言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか?

ほとんどの人は、新規事業や起業を思い描くのではないでしょうか。

この本では、0から1を創り出すことは「垂直的進歩」だといいます。垂直があるのだから、水平もあるわけですが、「水平的進歩」は1からNを創り出すことを指します。

具体的に「垂直的進歩」とは、テクノロジーを指します。蒸気機関車や新幹線、飛行機がつくられたことで人類の生活が圧倒的に豊かになりました。タイプライターからワープロ、ワープロからコンピューター、コンピューターからスマートフォンがつくられたことで、仕事の生産性が圧倒的に高まりました。これだけではなく、政治や経済の分野においても新たらしい何かを行う手法はすべてテクノロジーであると位置付けています。

対比する「水平的進歩」とは、グローバリゼーションを指します。Apple社で開発されたiPhoneが販売された直後、iPhoneに似たスマートフォンが大量につくられ販売さるようになりました。また、どの国においても、政治のあり方は民主主義か共産主義かの2択に絞られています。このように、既にある成功例をコピーすることがグローバリゼーションということなのです。

今までに味わった人類の進歩は、自動的にやってくることはありませんでした。今の私たちに与えられた挑戦も、未来をこれまでより平和な繁栄の時代にしてくれる新たなテクノロジーを思い描き、それを創り出すことであり、新しいテクノロジーを生み出すのは、スタートアップだと著者はいいます。

では、どのような企業が新しいテクノロジーを生み出す企業なのでしょうか。


0から1を生み出す企業とは?

Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft。

これらの企業が0から1を生み出した企業であることに異論を唱える人はいないでしょう。それでは、これらの企業にはどのような特徴があるのでしょうか。

それは、独占企業であるということです。

Googleは検索市場を独占しています。広告市場という切り口で見ると3%しか占めていないと言い張りますが、検索市場においては圧倒的です。Appleは現在、アプリケーションの取引市場(App Store)やウェアラブルデバイス(スマートウォッチなど)市場を独占しています。FacebookはSNS市場を、AmazonはEC市場を、MicrosoftはOS市場を独占しています。

これらの企業が独占禁止法に違反したとの疑いで裁判にかけられている姿をニュースで見たことがある人も多いのではないでしょうか。資本主義は競争により成り立っている(と思われている)ため、独占を良しとしない人は多いわけです。

それでは、資本主義の特徴とされている完全競争市場とはどんな市場を指すのでしょうか。

需要と供給のバランスが取れて、市場によって価格が決定される市場のことを指します。市場に参入した企業は利益を分かち合います。参入企業の数が増えすぎると損失が生まれるので、一部の企業が撤退することで価格が戻ります。このように、完全競争下では長期的に利益を生み出す企業は存在しないことになるです。

資本主義は資本の蓄積を前提に成り立ちますが、企業間の差別化が存在せず同じような製品を販売する完全競争下では、市場を奪い合うだけで、収益は分散し消滅します。まるで、資本主義と完全競争市場は対比する関係のようです。

ところが、独占企業は新たな市場を創り出し、他社とは替えがきかない価値で利益を生み出します。ここでいう独占企業はショバ代を刈り上げるような存在ではなく、むしろ消費者により多くの選択肢を与え、より良い社会をつくる原動力となるような企業を指しています。まさに、はじめに挙げた企業群がそれに当たります。

一律、均衡、平等、同化、均一を目指す現代の経済社会において、成功する企業の条件は独占なのです。

もはや競争はイデオロギーだであり、替えのきく歯車にするために小さい頃から叩き込まれた思想なのです。

競争は、存在しないチャンスがあるかのような妄想を抱かせる。
....負けるよりは勝った方がいいけれど、戦争自体に闘う価値がなければ、全員が負ける。
...競争は価値の証しではなく破壊的な力だ

ここまで、0から1を生み出すとはどうゆうことなのか、0から1を生み出す企業の特徴は何かについて紹介しました。

それでは、どのようにすれば独占企業を築けるのでしょうか?


「存続」することのすゝめ

価値ある企業になるには、成長するだけではなく存続しなければならないと著者はいいます。

著者は、決して金儲けのための起業や独占を語っている訳ではありません。
私たちが待ち望む未来、より良い未来を作るための手段としての起業を説いているのです。

そんな著者が「存続」を重要視する理由は、「短期成長をすべてに優先させれば、自問すべき最も重要な問いを見逃してしまう」からです。

まず、起業をする前に、新しい何かを行う前に自分に問うてみてください。

このビジネスは10年後も存続しているか...

さて、事前準備ができたところで、独占企業の特徴とどうすれば独占を築くことができるのかを紹介していきます。


独占企業の特徴は?

まず、独占企業の特徴は以下の4つがあるといいます。

⒈ プロプライエタリ・テクノロジー
⒉ ネットワーク効果
⒊ 規模の経済
⒋ ブランディング

プロプライエタリ・テクノロジーとは、模倣されることのない優位性のことを指します。「2番手より少なくとも10倍は優れている商品やサービス」を所有していることが独占企業の特徴です。Googleの検索アルゴリズムがまさにそれに当たります。

10倍優れた商品やサービスは、PayPalのように既存のソリューションを10倍以上改善するか、Amazonのように既存の書店より10倍多い書籍を持つか、Appleのように既存のポータブルデバイス(スマホやタブレットなど)に比べ10倍優れたデザインにするか、はたまた、まったく新しいものを発明することで、生み出すことができるといいます。

もちろん、この「10倍」というのは「替えがきかない、圧倒的に優れているもの」という意味で用いられています。

ネットワーク効果とは、利用者が増えるにつれて、利便性が高まり、その商品やサービスの価値が高まることを指します。FacebookやtwitterなどのSNSはまさにそれに当たります。

ただ、ネットワーク効果を狙う際に、意識すべきことが2点あります。

一つ目に、ネットワークがまだ小規模な時の初期ユーザーにとって価値のあるものでないといけないということです。ユーザーの人脈が資源であり、ユーザーに喜んで資源を開拓してもらうことがネットワークを広げる方法だからです。

二つ目に、矛盾するようですが、小規模な市場から始めないといけないということです。Facebookも初めはハーバード大学の学生しかターゲットにしていませんでした。それが今や全世界の人とつながるプラットフォームになっています。

規模の経済とは、規模が拡大すればするほど得をする仕組みのことを指します。販売量が拡大するにしたがって、固定費は分散されます。全ての業界がその恩恵を受ける訳ではありませんが、ソフトウェアのスタートアップは、販売増加により限界費用はほぼゼロに近い状態となるのです。

費用が低いということは、利益率が高いということですが、独占企業の利益率は、Google(Alphabet Inc.)とAppleが20%台、Facebookが50%台です。一般的な企業の利益率は4%、優秀な企業でも10%といわれているので、そのすごさは一目瞭然です。

規模の経済を狙うのであれば、規模の経済の恩恵が受けられる業界であり、かつ、初めの段階で規模の拡大の可能性を視野に入れた経営をデザインすることが必要でしょう。

ブランディングとは、企業固有の共有イメージをユーザーに認識させることです。強いブランドを作ることは独占につながると著者はいいます。特に、今いちばん強いテクノロジーブランドはAppleでしょう。


独占企業をどう築くか?

もうお分かりだと思いますが、テクノロジー、ネットワーク効果、規模、ブランドのいくつかを組み合わせ、慎重に市場を選び、順を追って拡大させていく、これが著者の考える独占を築く方法です。

著者のティールは、「数打てば当たる」や「計画はないが、まず初めてみて改善はその後だ」といった考え方をする起業家に疑問を投げかけています。未来をどう捉えるかは人それぞれですが、予測不可能であることが、計画なしに起業をしていい理由にはならないのです。

起業は、君が確実にコントロールできる、何よりも大きな試みだ。起業家は人生の手綱を握るだけでなく、小さくても大切な世界の一部を支配することができる。それは、「偶然」という不公平な暴君を拒絶することからはじまる。人生は宝クジじゃない。


独占をどう見つけるか?

でも、独占できる商品やサービスはどう見つけたらいいんだ?と疑問に思う人も多いではないでしょうか。

冒頭ですでにお伝えしましたが、独占をするには隠れた真実を見つけなければいけません。ただ、隠れた真実を見つけようなんてほとんどの人は思いません。


隠れた真実を見つけられない理由

現代の世の中を見渡すと、一見全ての問題が解決されているかのように見えます。経済の均衡は保たれ、飢死ぬ人など見かけることはありません。欲しい情報にはいつでもアクセスできる上、地球の裏側の様子を電車に座りながら見ることができます。

また、私たちは小さな問題や違和感を感じたとしても、「自分が思いつくことなんてみんなも思っているに違いない、もうすでに誰かが解決するために動いているのだろう」と、難しい問いに向き合おうとしません。

漸進主義に基づいた教育、間違うことへの恐れ、現状への満足、みんなも同じことを思っているだろうという諦めが、まだ発掘されていない真実への探究心を失わせているのです。

現代を生きる私たちにとって、隠れた真実を見つけることは、川の流れに逆らって泳ぐようなものなのです。まず、そのことに気づくことが隠れた真実を見つける第一歩ではないでしょうか。


隠れた真実を見つけるには?

車の空席を見て、うまく活用できないのかという疑問からUberが生まれました。使われていない部屋を活用できるのではないかというアイディアからAirbnbが生まれました。

車の空席や空いている部屋は容易に目にすることができますが、UberやAirbnbの創業者と私たちにはどのような差があったのか...

それは、疑問や違和感の中により良い未来を描いたかどうかにあったのでしょう。

...彼らは誰もが異論のない「常識」をもとに明るい未来を描いていた。偉大な会社は隠れた真実に気づいている。具体的な成功の理由は、周りから見えないことろにある。


まとめ

この本は、起業家に向けて書かれている本ではありますが、一般的なビジネスマンにも適用できることがたくさんあります。

日々の仕事をいかに効率化するか、自分が関わるサービスをより価値あるものにするためにはどうするべきか、などを考えている人は、当たり前を疑うことが始めてみてはいかがでしょうか。

また、より良い仕事やサービスにしたいなら、他の人より、他のサービスより10倍価値を生み出すには何をすべきかという基準で考えてみても良さそうです。

最後に、冒頭の質問に対するティールのコタエです。見にくい図解ですが、参考になれば嬉しいです。

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読んでの感想

現代に生きる私たちの中に、コロンブスのように、未開の地の存在を信じ大冒険に出ようとする人はどれほどいるでしょうか。そのような人は、マイノリティです。詐欺やカルト宗教であるかのように周りからは、白い目で見られることもあります。

ところが、過去の人類の進歩は、白い目で見られるマイノリティによってもたらされました。そして、より良い未来を信じる彼らの側には、同じ志を持った仲間が集まりました。

新しい何かを行おうとしている人は、孤独や恐れを抱くはずです。未開の地を開拓するために船出をしたところで、本当に未開の地があるのか分からないからです。

特に今は、大航海時代とは違いGoogle Mapのような優れたツールがあります。便利ではあるものの優れているからこそ、Google Mapにも載っていない場所があるかも知れないと、想像することも信じることも容易いことではありません。でも信じ続けなければ、最後まで船を漕ぎ続けることはできません。

新たな船出をする人には、より良い未来を思い描くこと。そして、今とは違う姿の未来をつくることが最大の原動力になって、ぜひ自分の信じる未来を信じ続けて欲しいと思います。


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