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-Colorful本屋- 恋はミル色【Vo.2】

 ずっと、ボクは気持ちを隠してきた。
今日は、お別れの日。
今度こそ、完全につながりが切れる。
センパイが卒業するのだ。
ボクは、報われないであろう、この気持ちを
せめて伝えようと勇気を振り絞る。

 お正月の初詣からずっと、悩んできた。
伝えずにいたほうがきっと、ボクも楽だろう。
でも、本当にそれがしあわせなんだろうか?
自問しすぎて何もかもが手につかないこともあった。
だけど、言わないで後悔するなら
伝えて忘れたほうがいいと判断したのだ。

 センパイを呼び止めて声を掛ける。
「あの、藍原先輩。」
「あ、海松か。どうした?」
心臓が飛び出しそうに早く打ち始める。
「今までありがとうございました。
あのう、ずっと先輩がスキでした。
先輩としてではなく、その……」
「分かってたよ。連絡するから。」
センパイは優しい笑顔でそう言った。
「え?それは、どういう?」
「ま、明日またな。」

 ボクは、頭の中がこんがらがっていた。
(ん? 「分かってたよ」って。なんだったんだろう。)
考えても答えは見つからなかった。
眠れない夜がまた、やってきた。

 午前0時。リビングに降りるといつものとおり、
酒浸りの家族がヘラヘラと迎える。
「起きてたんだ。海松くん。どうかした? 」
母親の大きな声。これもむかつく。
「いや。ちょっと目が冷めただけ。」
「ふぅーーん。悩み事があったら言ってね。」
(言葉は、優しいんだけどな。)

「あははは〜おもしろい、この動画。」
と、姉ちゃんが笑っている。
「ん? どれどれ〜〜」
すぐに会話が移り変わる。
やっぱ、嫌いだわ。この二人。

 まぁ、あったかいご飯と
自分の部屋をもらっているから
文句は言えないか……と落ち着かせる。
そう思うたびに先輩の笑顔がちらつく。

 冷蔵庫のドアを開けて、
麦茶をコップに注いだ。
飲み干して
「おやすみ。」
言い残す。ボクは自分の部屋に行く。
家族がいるのにボクはここで孤独だ。
何も考えずに没頭できるアプリゲームをして夜を明かした。

 今日は、週末で学校は休みだ。
部活も午後から。
だらだらと午前中を過ごしていた。

 携帯が突然、震えた。画面を見るとなんと、センパイからだ。
緊張しつつ、スライドさせる。
「あ、海松? 藍原だけど。」
「は、はい。」
「ちょっと、今から逢える?
来て欲しいところがあるんだ。」
「はい。」
「住所、言うからさ、メモできるかな。」
「はい、ちょっ……ちょっと、
待ってください。」
あわてて紙と鉛筆を用意する。
何度も落としそうになりながら。

「すみません、どうぞ。」
「〇〇区**町3−6の802だ。
書けたか? 」
「はい。」
「1時間後くらいに来れるか? 」
「はい、たぶん。」
「じゃ、待ってる。」
通話が終了した。

 まだ、心臓がドキドキしてる。
「はぁ……」
それから、着替えを済ませて
急いで家を出た。

(こんな格好で良かったか? )
バスに乗って改めて自分の姿を見る。
くたくたの薄水色のパーカーとGパン。
ダウンジャケットを羽織っている。
おしゃれに気を使うような生活は
今までしたことがなかった。
好きな人と会うとか、
出かけるとかもなかったし、
学校は制服。部活は練習着やジャージ。
まぁ、いっか。
今日は部活の元センパイと会うだけだから。

 センパイが指定した場所は、
ボクの自宅から30分ほど
バスに揺られたところにあった。
外観はふつうのマンション。
オートロックになっていた。

マンション入り口

「802って、言ってたな。」
ボクは、時間を気にしながら
(ちょっと早かったかな。あと、15分ある。)
そう思っていたとき、
正面玄関からセンパイが出てきた。
「おう、早かったな。まぁ、中で話そう。」

 二人でエレベーターに乗り、8階へ。
エレベーターには、誰も乗ってこなかった。
手前から二番目の部屋の鍵を
センパイが開ける。
「あんまり、広くないけど入れよ。」

 玄関から中に入ると廊下の向こうに
すっきりと片付いたリビングが目に入った。
観葉植物がちょこんと置かれていて
すごくスタイリッシュに思えた。
さすがセンパイだ。センスがいい。
言われるがままに部屋に入る。

「お邪魔しまーす。」
「はーい。」
センパイは笑顔で応えてくれる。
「適当にそのへんに座ってて。」
「はい。」
ブルーのソファにそっと座った。
柔らかくて心地いい肌触り。高級感がボクでも分かる。
ずっと座っていても疲れそうにない。

「アイスコーヒーで良かったかな。」
トレーに2つのグラス。
氷が入ったコーヒーを持ったセンパイが
テーブルに近づく。

「ん。緊張しないでいいぞ。
ここは、おれたちの部屋になるから。」
「はい。」
と言ってびっくりした。
「え? それは、どういうことですか? 」
「昨日、告白してくれただろう? スキだって。」
「だ、だから。」
「うん、だから付き合うの、おれたち。」
「始めから一緒に住まなくてもいいからさ。そのうちに、な。」
「……と、言うことは。つまり。」
「そ、俺も海松のことが大好きだ。
少し前から。」
「えーーーーーー!!! 」
目まぐるしい展開にアタマがついてこない。
(どういうこと、どういうことなんだ)

「ここなら大学も近いし、
海松んちからもそう遠くない。
いつでも来てもらって構わない。」
(なんて、すてきな話なんだ。
これは、もしかして夢? )

 そんなことを考えているのを見透かしたように
センパイがボクのほおをツネる。
「いっった。」
「夢なんかじゃ、ないぞ。海松。
本当に俺は真剣に付き合いたいと
思ってるんだ。
元々、俺は女性と恋愛ができない
体質みたいだし。」

(うそだろ。こんなことって、あるんだ。
ボクと同じ感覚の人。っていうか、早くないか?
昨日の今日なのに。なぜ。)

 「あーーー今、昨日告白したばっかなのに
めちゃくちゃ、用意周到とか思ってるだろ。」
(うわっ。考えてること、そっくりそのままだ。)
「海松は、正直もんだからさ、顔に書いてある。」
「へっ?! 本当に? 」
あわてて両手で顔をこする。
(シャカシャカ)

 そんなボクを見て、センパイが吹き出した。
「ぷっ。好きな人のことは、手に取るように分かるもんだ。」
「そっ、そうなんですか?いつからボクのことを?
ボクはセンパイの気持ちなんてワカラナイです。」

 しょぼくれたボクの背中をなでながら
「ふふっ。大丈夫だよ、信じてくれ。
君のことが大好きなんだ。大切にするから。
こう見えて、俺は初めてじゃないんだ。
同性と付き合うの。」

「そうなんですか。その人はどんな……人だったんですか? 」
すごくかっこいい人やかわいい人だったら
どうしようと思いながら聞いてみた。
「あ、嫌じゃなかったら教えてください。」
「んーー海松とは、全然ちがうタイプかな。
女性的な面が強かったと思う。」

 意外に何でもないことのように話してくれた。
「そう……なんですか。」
「うん、俺も未熟でナニもなかったけどね。
あ、でもキスはしてたかな。」
「う……キス。」
キスという言葉に顔が熱くなるのを感じて、
少しカラダが緊張する。すると、センパイはあわてて
「あ、海松とそういう関係をすぐに持ちたいとかじゃないから。
食べちゃいたいくらい、かわいいと思ってるケド。
獲って食ったりしないから。心配するな。
二人でいる時間を大事にしたいんだ。」

(なんだか、ほっとした。部屋まで用意してるから、
すぐにでもどうこうされそうとか、思っちゃった。)
「やっぱ、センパイは優しいですね。
好きになって良かったです。」

「あ、それからさ。そのぉ、敬語は禁止だからな。」
「えっ、でも。」
「すぐには出来なくてもいいから。
だんだんと、でいい。頼む。」
「はい、あーうん。」
「ははは。いいねぇ。」
笑顔になったセンパイは、
いつも部活で見ていた姿と違って、近くに感じた。

 それからの毎日は、忙しかった。
学校の授業と部活が終わったら、すぐにもう一つの家に帰る。
「ねぇ、伎按(しあん)は今日、何食べたい? 」
「うーん、海松かな。」
「もう、食べないでよぅ。」
「冗談だよ、そうだなぁ。餃子とかがいいかな。
一緒に作ろう。」

「うん、じゃあ買い物に行こっ。」
徐々に、でも確実にボクたちの距離は近づいていた。
こうやって、一緒に買い出しに行くのだって最初は照れたけど。
知ってる人に見つかったらとか、
誰かに見られたらどう思われるんだろうとか、
そんな心配は今ではしなくてもいいと思えていた。
伎按がいてくれるだけでしあわせだから。

「そういえばさ、海松をスキだって思ったのは
君の親友からの推薦もあったからなんだ。」
「え? 」
「ほら、いつも一緒に屋上で昼めし食べてる。」
「菊池?! 」
「そう。あの子も相当、お前のことがスキらしい。
友達として、みたいだけど。」

(知らなかった、承和に気持ちがバレてたなんて。)
「何も聞いてはないけど、俺のことがスキって
オーラがダダ漏れだったって。
それで海松のいいところを何度も聞かされたんだ。
うんざりしそうだったけど、いいヤツだな。
でも最後に不幸にしたら許さないって言われたけど(笑)」

「わーごめんなさい。」
「ははは。いいんだよ、結果として彼以上に海松がスキになっちゃった。」
(ボクは、耳まで熱くなるのを感じて恥ずかしかった。)
センパイは、ぎゅっと抱きしめてくれた。うれしかった。
センパイのスキも、菊池のスキも大事にしたい。

 一緒に出かける時は、いつもどちらからともなく、手を繋いだ。
誰かと手を繋ぐなんて、子どものころ以来だ。
母親は心配性でボクがすぐに迷子になるから。
しっかりとホールドするように手を繋がれていた。
ちょっと痛いぐらいの愛情。
そっか。愛情があったから、手を握られてたんだ。
忘れてたな。母が自分を愛していたなんてこと。

 センパイと手を繋ぐとココロが
暖色の虹に染まるような気持ちになった。
ひたすらにまっすぐ、前を向いて歩けそうだ。
行き先にしっかりと矢印がついてる。
そして、隣には伎按の笑顔。

 最近、ボクは将来の目標が決まった。
まず、大学に行く。ボクはデータの分析が得意だ。
小学校から遊びの中に分析力を取り入れて、
独りで孤独に遊んでいた。

 特に家庭用ゲームでモンスターの育成が大好きだった。
音楽CDを読み込んでゲームに反映すると
いろいろな属性、容姿のモンスターが出現する。
毎日、トレーニングや修行を行って、
最強のモンスターを育成し、大会に出して優勝させていく。
強いモンスターを育てると殿堂入りする。
ここまでがふつうの遊び方。

 ここからがボク独自。
殿堂入りさせたモンスター同士を対戦させて、
総当たりトーナメントで本当の最強を決めるのだ。
モンスター1体を育てるのも時間がかかるが
複数体の最強を作り上げるのは、相当な時間を要した。
でも夢中になれた。楽しい時間だった。

 この様子を見ていたボクにとっては毒親である、母が
「すごい分析力だね。そういうのが得意なんだ。」
めずらしく褒めたのでちょっと嬉しかった。
きっかけは、ゲームを知りたいという探究心と
いかに強く育てるかを分析すること。
勝ち続けたいという気持ちが強かった。

 ボクは、昔から数字が好きな子どもだった。
納豆の入れ物にナンバーがあるのを見つけた。
数字は、ボクにとって常にそばにいる存在だったから。
いろんな数字を見つけては、友達のように思った。

 小学校に入学前から、姉の教育玩具で九九を覚えた。
ゲームが楽しくて、いつのまにか研究するようになった。
この特技を活かして、いろいろなものを研究したいと思う。
センパイも応援してくれている。

 まだ、内緒にしているがセンパイが始めようとしている事業を
手伝えるようなスキルを身につけたい。
ずっとセンパイと一緒にいたいから。

 それから、月日が流れてボクは大学生になった。
遠くの大学は、伎按と離れるのが辛すぎるから
二人の住処からも通えそうなところにした。
そう、高校卒業を期に本格的にセンパイと同棲。

 まぁ、高校在学中もほとんどここに
住んでいたような生活になっていたが。
一週間の半分以上がココでの時間になっていた。
帰りたくなかった。それ以上に伎按との時間が
当たり前になっていた。

 母も姉もボクの付き合っている人に関しては、寬容で。
男だと話すのは、勇気がいったけど
「そう。仲いいんだね。」
と、姉ちゃん。
意外にそっけなかった。と、思ったら
「海松が好きになった人なら男でも女でも関係ないよ。
重要なのは、あなたが幸せでいることだからね。」
母親は、本当は偉大なのかもしれない。
育て方には、難があったが。

「ありがとう。理解してくれて。」
ボクも少し大人になったのかもしれない。

 伎按とボクは、順調に愛を育んでいる。
毎日、ダブルベッドで手を繋いで寝る。
時々、夜中に目が冷めても伎按の安らかな寝姿を見ると
ココロがほかほかとする。安心感であふれていた。

 家事は、二人で分担していた。ただ、夕食だけは
何を作るか、話し合って二人で買い出しして
一緒に作って食べた。
このひとときがたまらなく幸せな時間。

「ね、伎按ーー今日は何食べたい? 」
「うーーん、海松! 」
「食べないでょ。ふふふ。」
「しょうがないな。じゃあ、カレーライスはどう? 」
「うん。いいね。買い物に行こっ! 」

黄昏時。Orange色の光が二人の後ろ姿を長く写していた。

手をつなぐ二人

-colorful本屋-エピローグ
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