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『冬の日差しの下で』

文章:ならざきむつろ BGM:ゆう
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この作品は、リレー小説企画『片想い~l'amour non partage~』の7話目です。
企画詳細:https://note.mu/muturonarasaki/n/nb994a7209d23
6話目:Caori Takayさん『グレイッシュブルーの恋』( https://note.mu/caorimba/n/na8a39c54e921

マガジン『片想い~l'amour non partage~』(https://note.mu/muturonarasaki/m/m336ee66c2ea7
※次の人がイメージしやすいよう、最後に登場人物の設定を記載しています。

      ※

良く晴れた昼下がり。
僕はぽかぽかと暖かい日差しを全身に感じながら軽やかなステップでアパートの階段の下から二番目に飛び乗り、直射日光ですっかり温まっていたその場所でゆっくりと空を見上げた。
(――冬の空って、なんでこんなに高いんだろ)
ふとそんなことどうでもいいことを考えていると、どこからか軽やかなかん、かん、という靴音が聴こえてきて、僕はそのまま階段の上へと顔を向ける。
「あ、また来てたんだ」
靴音と一緒に聴こえてきたソプラノの優しい声に、僕は嬉しくなって思わずにゃあ、と返した。

――え?なんで『にゃあ』なんだ、って?
そりゃそうですよあなた。
僕は猫だもの。


『冬の日差しの下で』作 ならざきむつろ


「ちょっと待ってて、いまゴハン持ってくるね」
優しい声がそう続いた後、靴音が上へと遠ざかっていく。
僕には言葉の意味は良く分からないけど、あの声の人が『ゴハン』って言ったらぜったい何か食べさせてくれるから、僕は今日はどんなゴハンが出てくるんだろう、ってワクワクしつつそこでおとなしく座っている。
するとすぐにまた靴音が階段を下りてきて、僕の目の前に小さなお皿がちょん、と置かれる。
そのお皿の上からおいしそうなにおいがして、僕はまっしぐらにお皿の上のとろっとした食べ物を食べ始めた。
「おお、すごい。噂通りの威力ね、この『ちゅ~る』って」
(ちゅ~るっていうんだこれ。めっちゃおいしいよ)
優しい声の人に食べながらそう言ってみると、その人は僕と同じ二段目のステップに座って、「やだ、にゃごにゃご言いながら食べてる」ってクスクス笑って――そして僕に顔を近づけてきた。
その人の顔。
人間でいう『女性』ってタイプのその顔が、僕の目の前でにっこりと笑い、そしてすぐに不思議そうな顔に変わる。
「そういえば、名前なんて言うんだろ。首輪はあるけど……」
髪の毛って言うんだったか、僕と同じ茶色の長い毛が、僕のおでこのあたりをさわ、となでる。
それがくすぐったくて、僕はなぜか喉を鳴らしてしまう。
「やだもうかわいいんだから……決めた。これから君のこと、『ひろくん』って呼ぶね」
「にゃあ?」
「そう、『ひろくん』」
(――ひろくん?)
僕がその言葉にもう一度にゃあ、と鳴いてみると、彼女は嬉しそうに僕の耳と耳の間を優しく掻いてくれる。
(――そっか、『ひろくん』って呼ばれたらお返事すればいいんだ)
僕がそう納得してると、彼女は僕が全部舐めてきれいにしたお皿をひょい、と取ると、バッグって人間が呼んでるおっきな袋から透明な液体の入った容器を取り出して、お皿の中にたぷたぷと注ぐ。
「まってねひろくん。おいしいお水だよお」
「にゃあ」
そう言ってもう一度僕の前に置かれたお皿には、お日さまの光でピカピカ光るお水。
一瞬どうしようか、って迷ったけど、この優しい声の人がほかの人間と違って僕を傷つけたりしないの知ってるから、思い切って飲んでみることにした。
(――あ、おいしい)
「――ね?おいしいでしょ?」
ぴちゃぴちゃと飲み始めた僕に、彼女は少し高いトーンの声をかけてくる。
「――あ、そうだ。私の名前覚えてよ、ひろくん」
「にゃあん?」
「いい?私は『みらい』。み・ら・い、だからね」
(――みらい?)
繰り返されたその言葉を繰り返してみると、
「にゃあん」
「あ、うんうん。みらいだからね」
と、えらいえらい、と頭をなでられた。
(――そっか、『みらい』でも喜ぶんだ)
僕は喉を鳴らしながら、もっと彼女が喜ぶことをしてあげたいな、って思っていた。

(了)

【片想いされてる人】※6話より追記あり
幸島 未来(こうじま みらい)
20歳。専門学校生。目標がなく、将来が微妙に不安。母親が産みの母親でないことを数年前に知り、ショックを受けつつも、母親との関係はホドホドに良好。感受性が豊かで、暇があると妄想している。影のある人が好きだが、安心感も求める。欲ばりでお調子者。ソプラノの優しい声で、ソバージュがかった髪は茶色に染めている。猫好き。

【片想いしてる人……人?】
ひろくん(ひろくん)
3歳。野良猫。人間不信の茶トラ。
お尻のあたりに心無い人間がつけたカッター傷がある。
未来とは1か月前くらいに出会い、最初は警戒していたものの、未来の献身的な態度に心を許すようになる。

※今回もBGMにゆうさんの曲をお借りしました。
『intermission#02』( https://note.mu/monometrika/n/n4f097bfa02af

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