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『Say!Let's Boom!』

※ これは『私的国語辞典』の『コーラ(こーら)』の続編を(投げ銭を戴いたので)考えていたら、今日突然『降りて』きたお話です。
 まあそういうことなので、お気楽にお読みくださいませ。

ちなみにBGMはこちら推奨。

SOUL'd OUT 『And 7』


『Say!Let's Boom!』Written By ならざきむつろ


「……なあ」

とあるワンルームマンションの一室。
ベッドにもたれかかってテレビを観ていた隆明が、何かを思い出したかのように振り向き、ベッドの上で腹筋運動をしていた正雄に声をかけた。

「なんだよ、俺忙し――」
「いやだからベッドの上で腹筋しても意味ねーって」

自分の言葉をあっさりと遮られた正雄は不満そうに口を尖らせながら、なんだよまったく、と身体を起こして、枕元に転がしてあったコーラのペットボトルをつかむ。

「そもそも腹筋運動しながらコーラ飲むってお前――」
「はあん?!これが良いんじゃねえか。腹筋→コーラ→腹筋→コーラ……」
「いやお前それぜって途中でゲップで死にそうになるって」
「そうかあ?」

ツッコミに首を傾げる正雄にため息をつきながら、っていうかそうじゃねえって、と我に返ってテレビを指さす。

「それより節分だよ節分」
「は?せつぶん?」

せつぶんってなんだよ、とマジメな顔で聞き返す正雄に、節分は節分だよと冷たく返す隆明。

「いやだから何だよそのせつぶんって。アレか?カッコいい系の何かか?」
「”セッツ・ブーン”とかそんなんかよ!
 ラッパーっぽいポーズしてんじゃねーよ!ちげーよ!」

【セッツ・ブーン】
”Say!Let's Boom!”の略語で、『俺らと一緒に流行を作ってこうぜ!』という意味を持つ。ジャパンのトーキョーの一部で通じる。

「ヘイメーン、ジャーナンダヨー!」
「うるせえって!2月3日のアレだよ!」

ヒップホップ調で返す正雄に怒鳴り返す隆明。

「アレ?……って、ああ」
「思い出したか?」
「ああ、アレだろアレ。有田哲平と吉岡美穂と柳原可奈子の誕生日
「ちげーよってちがわねえけどちげーよ!」

【2月3日が誕生日】
有田哲平:1971年
吉岡美穂:1980年
柳原可奈子:1986年

「はあっぴ、ばああす」
「うるせえよ近所迷惑だろがってかどこから出してきたそのバースデーケーキ!
「つううゆうう♪」
「俺かよ!俺はちげーよ!先月やっただろ!」
「そだっけ?まあいいや」
「そだよって良くねーけどまあいいよ俺も」

正雄の軽い返しに思わずツッコミそうになって冷静になる隆明。

「んで2月3日が何よ」
「ちげーって!節分だよ、せ・つ・ぶ・ん!」
「ヘイセイ――」
「ちげーってだから!」

隆明が思わず怒鳴り返した直後、ちわーっすというお気楽な声とともに玄関から早瀬がやって来た

「なになになにどしたのどしたの僕もまぜ」
「うるせえよこの万年痛パンツ!」

【万年痛パンツ】
アニメオタクの早瀬は好きなキャラのパンティを一年間通して履き通すことで大学内でも有名になっている。

すかさず遮った隆明に、早瀬が顔を真赤にして怒り出す。

「違うって言ってんじゃん!アレは『デュラララ!』のセル」
「黙れこの2.5次元パンティ男

【2.5次元パンティ男】
上記と同様だが、早瀬の口癖である
「フィギュアは3次元じゃないの、2.5次元なの!」
からこの別称も使われる。


「お、カッケーなそれ」
「うるせーよお前も正雄!」

すっかり板についた二方向ツッコミを駆使しつつ畳み掛ける隆明。

「良いから話を進めさせろって!」
「だから話を聞かせろって言ってんじゃん!」
「だから2.3次元は黙ってろって!」
「だからせつぶんって何だよ!」
「だから節分って節分だよ!鬼に豆まくアレだよ!」

とうとう隆明が至極まっとうな説明をすると、
正雄は一瞬ポカン、とした表情を見せてから、
早瀬は何の話か、と首を傾げてから、
二人して同時に『ああ、そっちか』とハモる。

「なんでそこでハモれるんだよお前ら。夫婦か!」
「――隆明、それは夫婦に失礼だろ!」
「自覚あんのかこのオタク野郎!」
「そりゃそうだよ、オタクは世間に遠慮して生きてんだから」
「うわそのセリフカッ」
「ケーくねえ!とにかくアレだ、節分だよ!」
「ヘイメーン」
「しつけーってこのバッドボーイ!」

【バッドボーイ】
ヒップホップをやってる人たちを総称する言い回しの一つ。
決してコウモリも木製バットも手にしてはいない。

さすがに二人相手だと疲労がたまるのか、隆明はそこで一旦胸に左手を当てながら息を整える。

「大丈夫?心臓病?」
「死なねーよ!……で、節分だけどよ」
「お、まだがんばんだ」
「頑張るよ!ここまで来たら意地でも頑張るよ俺は!」
「えー、どうせまたシモネタでしょお?」
「シモネタじゃねーよ!それ言うなら小ネタだろ?!」
「おお、自分で小ネタって言った」
「うるせえ!大人しく聴けっての!」

顔を真赤にして怒鳴る隆明に対し、仕方ないなあ、とばかりにベッドの上で並んで正座する二人。

『はい、どうぞ』

「お前らホントに息ピッタリだな!」

すかさずツッコミを入れたあと、隆明はとりあえず大人しくなった二人の前で軽く深呼吸をして、そして胸を張りながら右手の人差し指を立ててこう言った。


「いいか。節分にな、北海道じゃ豆じゃなくて落花生を投げるんだと」


しばしの間のあと、正雄が口を開いた。

「――いやそれ東北でも普通だし」
「うそ?!」
「っていうか宮崎とか大分でも最近見かけるし」
「うそだろ?!」
恵方巻きはセブン-イレブンが全国に広めたんだし」
「マジで?!」
「そもそも恵方巻きって大岡越前が南町奉行に就任した記念に始まったんだし」
「は?え?」
「ちげーよ、大岡越前が死んだ日にちなんで、だろ?」
「うわマジかよ!チョーやべえ!」

驚きに目をパチクリさせている隆明に、ベッドの上の二人はラッパーみたいなポーズで、「マジマジ」「これマジ」と自慢気に答えた。



そんな隆明が真実を知り、二人の全身にアザが残るくらいに大量の豆を投げつけるのは、それから1時間後のことであった。

(了)



#節分
#ラッパー
#デュラララ
#救いようのないボケ
#獅子奮迅のツッコミ
#そして豆だけが残った


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