私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション99『コーラ(こーら)』
作者駐:
『私的国語辞典』は全文無料で閲覧が可能です。ただ、これらは基本『例文』となっておりますので、そのほとんどが未完となっています。
基本的にそれらの『例文』は続きを書かないつもりではおりますが、もしどうしても続きが気になる方は、投げ銭して戴ければ有料部分に続きを執筆いたしますので、よろしくお願いいたします。
セレクション99『コーラ(こーら)』(1390文字)
「ぷはあ」
うめえ、とつぶやきながら満足げにコーラのペットボトルを見つめる隆明を、私はゆったりとした気持ちで見つめていた。
私達が座るベンチには昼下がりの柔らかな陽射しが照り付け、舞い散る桜の花びらをキラキラと輝かせている。
「なあ正雄、知ってるか?」
ペットボトルを見ていた隆明が、ふと思い出したように、私と逆側に座っている正雄に問い掛ける。
「なんだよ」
正雄が不機嫌そうに応えるが、隆明は素知らぬ顔で話を続ける。
「コーラってな、熱帯にあるコーラノキ、って木の種から作ってるんだ」
(参考:コーラノキ)
隆明の自慢げな口調に、正雄の目が真ん丸く見開かれた。
「コーラの木?」
「ちげーよ!コーラノキだよ!」
すかさずつっこんだ隆明に、しかし正雄の目は見開かれたままだった。
「すげえな、コーラがいっぱいぶら下がってる木」
(参考:コーラの木)
わあい、話を拡げたよこの人。
「怖いわ!誰のいたずらだよそれ!」
あ、隆明も付き合うんだ。
「良いじゃん、都会のオアシスっぽくて」
(参考:都会のオアシス)
「なに爽やかテイストちりばめてんだよ!
『アイフィールコーク♪』じゃねえよ」
(参考:『アイフィールコーク♪』)
隆明、ノリノリだなあ。
っていうか何そのアイフィールコークって。
「で、木の下に埋めとけばまた生えてくるんだよな」
「種か!ボトルは種か!?リサイクル完璧か!?」
(参考:完璧なリサイクルシステム)
隆明のツッコミを、しかし正雄はさらりと流すかのように立ち上がり、隆明の持っていたペットボトルを掴み取ると、目の前にある桜の木の下まで歩いていってしゃがみ込んだ。
「ねえ、知ってる?
桜の木の根元にコーラの種を植えると、運命の人と結ばれるんだよ」
あ、やっぱり種なんだ。
っていうかなんで豆しばみたいな口調なんだろ。
「ねえよ!女子高生のおまじないか!」
隆明がツッコミを入れる間に、正雄がしゃがみ込んだままなにかやっている――って、まさか。
「ほら、植えてみた♪」
「できてねえよ!
底の方しか埋まってねえじゃねえか!」
うん、少し傾いてるね。
「さあ、これで後は彼を待つだけ♪」
「なんでオネエ言葉なんだよ!こねえよ誰も!」
隆明がしごく真っ当なツッコミを入れた直後。
「お、みんな何してんだ?」
「早瀬かよ!なんで今来るんだよ!」
隆明のツッコミに、早瀬はしかしケロッとした表情。
「ん。バイトの帰り」
「またお前はバイト先までただ往復してきたんかい!」
(参考:早瀬の『バイト行く』)
「だってもったいないじゃん……ん?どうした正雄?」
今気づいたのか、早瀬が乙女ポーズな正雄に目を向ける。
「あなたが私の運命の人だったのね?!」
まだ行くんだ。
しかもそっちに。
「ねえよ!なんで早瀬なんだよ!」
隆明のツッコミに、心外だ、と言わんばかりに身体をくねらせる正雄。
いやん、キモい。
「あら、運命の前には性別なんて」
「関係あるわ!だいたいお前じゃ早瀬が萌えねえよ!なあ?はや――」
隆明が振り向くと、しかし早瀬が真剣な顔で正雄を見ていた。
――って、まさか。
「正雄!」
「早瀬!」
ひしいっ!
「なんでこの状況でボケを合わせられんだよ!」
隆明のツッコミを、しかし二人はさらりと流す。
「正雄、出会えた記念に、欲しいものあんだけど」
「なんだい、早瀬」
正雄が応えると、早瀬は肩に手をかけたまま身体を離し、じっと彼を見つめた。
背後には見事なまでの桜吹雪。
(参考:背景を埋めつくす桜吹雪)
「俺な、」
「うん、」
「……コーラが欲しい」
「いやお前らいつ仕組んだよ!」
ドヤ顔でこちらを見る二人に、隆明の雄叫びが飛んだ。
――だめだこりゃ。
(参考:本家「だめだこりゃ」)
(1390文字)
『コーラ(こーら)』
1 コーラノキの種子に含まれる成分を主原料とした炭酸清涼飲料。《季 夏》
2 コーラノキの別名。コラ。※ コーラのき【コーラの木】 アオギリ科の常緑高木。葉は卵形で先がとがる。花は黄色。 果実は淡紅色で、種子をコーラ飲料の原料や薬用にする。熱帯アフリカの原産。
(大辞林より引用)
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