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私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション110『篠(しーの)』
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作者駐:『私的国語辞典』は全文無料で閲覧が可能です。ただ、これらは基本『例文』となっておりますので、そのほとんどが未完となっています。基本的にそれらの『例文』は続きを書かないつもりではおりますが、もしどうしても続きが気になる方は、コメントいただければ前向きに検討させていただく所存です(←政治家か
私がその軽やかな笛の音を耳にしたのは、夕暮れ迫る河川敷で、堤防に上がる斜面に寝転
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション109『使途(しーと)』
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作者駐:『私的国語辞典』は全文無料で閲覧が可能です。ただ、これらは基本『例文』となっておりますので、そのほとんどが未完となっています。基本的にそれらの『例文』は続きを書かないつもりではおりますが、もしどうしても続きが気になる方は、コメントいただければ前向きに検討させていただく所存です(←政治家か
4月も終わりに近づいたある日曜日。私はこのうららかなる常春の昼下がりに、何故かア
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~セレクション2『汗(あせ)』
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セレクション2『汗(あせ)』
こめかみから汗が一滴、じんわりと降りていく。
拭き取りたい衝動を堪えて、私はファインダーに神経を集中した。
ファインダーの先には、長年追い求めていた獲物が、居る。
獲物はゆっくりと辺りを見回すと、前脚の辺りをうろうろしていた子供に、その精悍な鼻を近づけている。
私は震える手を必死に抑え、シャッターチャンスのタイミングを狙う。
子連れである以上、下
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション3『宛(あて)』
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セレクション3『宛(あて)』
都会の一人暮らしで嫌なもののひとつに、自分宛の郵便物がある。
少なくとも人付き合いの非常に悪い私のような人間にとってはそうだ。
まだダイレクトメールなら、シュレッダーにかけてやれば済む。
問題は、普通の便箋で送られてきた郵便物だろう。
例えば…今手にしているようなものがそうだ。
ファンシーな便箋に丸文字で書かれている私の名前。
切手も住所も無く
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション4『兄(あに)』
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セレクション4『兄(あに)』
小学生のころ、同級生に『鬼子』と呼ばれていた女の子が居た。
容姿が鬼のようだった…とか、性格が狂暴だった…とかではなく。
問題は、彼女の兄貴だった。
彼女の兄は、まさしく鬼のようだった。
中学生なのに身長は2m位でガタイも良く、三白眼に薄い眉、低い鼻に大きな口と来れば、今ならともかく、当時の小学生が見れば誰もが震え上がるだろう。
もちろん、
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション5『姉(あね)』
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セレクション5『姉(あね)』
「行ってきます」
凛々しい軍服に身を包み、父親や伯父に最敬礼をする姉を見て、僕は悲しみを覚えた。
何故我が姉が死地に向かわねばならないのか。
既に妙齢の女性は尽く戦争に駆り出されているとは言え、姉は他の女性と違って肉体労働は向いてないのに。
僕はそんな想いを顔に出さないよう必死に笑みを浮かべながら、皆からバンザイ三唱を受けている姉を見つめてい
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション6『仇(あだ)』
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セレクション6『仇(あだ)』
男は、自分の手下が次々と倒されていくのを、静かに見つめていた。
手下を斬らせる事で相手の刀筋を見極め、更に刀心を大量の血で曇らせるのが本来の目的であるとは言え、50人は居た手下の大半をほんの一時で地に伏せるその腕前は並ではない。
しかし、男の眼に浮かんでいるのは絶望では無く、むしろ歓喜の色であった。
男は心底嬉しそうに手下を次々と斬り殺している
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション7『網(あみ)』
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セレクション7『網(あみ)』
「さあて、暇だし、お題を基にみんなに即興ショートショートを考えて頂きましょーか!」
突然の雄叫びに、のんびりライトノベルを読んでいた部員の面々ががたがたと椅子から転げ落ちる。
「ええ?そんな無茶振りしないで下さいよ、部長」
一番最初に立ち直った副部長が反論するが、部長は聞く耳を持たない。
「まあ突然の話だし、すぐに結果発表もして欲しいから、…そう
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション8『あら(あら)』
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セレクション8『あら(あら)』
「…あら、何かしらこれ」
美月が玄関のドアを開けると、目の前に小さな箱が置かれていた。
どう考えても怪しさ満点なのだが、だからといって放置しておく訳にもいかない。
美月は腕組みをしてしばし思案していたが、やがて諦めたように肩を落とすと、部屋の奥に姿を消した。
「あら。久しぶりじゃない。どうしたの?」
紗枝はドアフォンのモニター越しに懐かしい友
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション9『泡(あわ)』
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セレクション9『泡(あわ)』
私の記憶は、まるで水面に浮かんでくる泡のようだ。
若い頃は炭酸水のように次から次へと浮かんでくる記憶が、歳を取るごとに、まるで炭酸が抜けるように、近い記憶から少しずつ浮かんでこなくなり、今では何を覚えていて何を忘れたのかさえも解らなくなった。
だから私はこの何処に在るとも知らない施設の中で、他の人達と同じように椅子に座っている。
ぼんやりしてい
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション10『入り(いり)』
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(作者駐:以下は執筆前日に書いた日記より抜粋)
今回の「入り(いり)」ですが、この言葉、単独ではあまり使われませんよね。大抵は『入り〇〇』って後ろに何か付け足すことが多い気がします。
そこで今回は、こんなお題を自分で設定して書いてみることにしました。
以下に列挙する『入り~』という言葉を全て使用し、ショートショートを作成せよ。
入会(ある地域の住民が一定の場所を共同で利
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション11『色(いろ)』
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セレクション11『色(いろ)』
突然決まった非番の昼下がりほど、退屈を持て余すものはない。
私は近所の小さな公園にあるありふれたベンチに座り、あくびを噛み殺していた。
平日の昼下がりの公園は思っていたよりも人がおらず、私は左手で玩んでいた缶コーヒーを口に含みつつ、目の前の母子をぼんやりと眺めていた。
いや、誓って言うが、変な気を起こそうと思っている訳ではなく。
その母子の妙な
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション12『飢え(うえ)』
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セレクション12『飢え(うえ)』
「ええそうよ。私は愛に飢えてるの」
悪びれる事も無く言い放つ華織に、正樹は憤りを隠せずにいる。
「だから、猛を捨てたのか。そんな理由で」
「ええ。愛がない関係なんて不用だもの」
しれっとした表情で華織は応える。正樹は怒りを抑えるように、目の前のすっかり冷え切ったコーヒーを一気に飲み干す。
「だから、猛さんには申し訳無いけど、よろしくお伝えくだ
私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション13『魚(うお)』
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セレクション13『魚(うお)』
「おなか、すいたねえ」
「うん…」
「だめだよ、余計におなかがすくから」
「わかってるけど、がまんできないんだもん」
「流されちゃって食べ物無いんだから、がまんしなきゃだめだよ」
「でもお…」
「お寿司食べたいね」
「わあ良いね、お寿司」
「おいしいよね、大好き」
「もう!みんなやめなよ!」
「みんなは何が好き?」
「マグロ!」
「イクラ!」