『ハクソー・リッジ』じつは戦争映画の王道だったー昔、映画が好きだった。そして今も好きなのだ 60s映画レビュー(24)
「良心的兵役拒否」を主人公にした異色の戦争映画・・・と言いたいところですが、じつは戦争映画の王道です。
主人公のデズモンド・ドスは実在の人物。彼は愛国の真情から兵役を志願しますが、自分の人生体験と宗教的な理由から銃器等をもつことを拒否します(ですから正確に言うと兵役拒否ではないわけで、映画の謳い文句とはややズレてます)。
彼は軍事裁判で自分の信条を貫き、衛生兵として認められて日本軍との熾烈な戦闘が繰り広げられている沖縄戦へと出征します。
さて、どこが戦争映画の王道か?と言えば・・・部隊内の仲間との対立・葛藤、それを乗り越えての相互理解、悲惨な戦場の現実、友の死、主人公の命を顧みぬ活躍・・・ほぼ王道の展開なんです。
この映画は、主役の立ち位置が衛生兵であり撤退後もたった一人危険な戦場に残って負傷兵を一人また一人と助けるというシチュエーションがこれまでとは違うという点です。
感動的な映画です。しかも、これが実話だとなればその感動は何倍にもなります。
ただし、デズモンド・ドスが多くの戦友の命を救ったことは称賛に値しますが、そのドスの命を「守った」のは銃を手にして敵を撃った彼の戦友たちであり、彼らも当然称賛されるべきです。そこのところを間違えてはいけません。
誤解を恐れず言えば衛生兵・ドスも「武器」なのです。なぜなら、彼が救った命は再び銃を手にして戦場へ赴きます。それはドス本人だって否定できない冷徹な事実でしょう。
最後に・・・映画としては見て損のない出来ばえなんですが、日本人の私としては日本兵の描き方がかなり気になります。
映画の舞台となった戦場は沖縄の前田高地という日米両軍が大激戦になった場所で、ここを米軍側はハクソーリッジと呼んだのです(弓鋸のように細長く隆起したところという意味)。
米兵のセリフに「ここは地獄だ。あいつらは絶対に諦めない・・・」とつぶやくシーンがあり、当時の日本軍兵士の士気の高さがわかります。物量で劣る日本軍は創意工夫と精神力で沖縄の地と祖国・日本を守ろうとしていたことがこのセリフから垣間見えます。しかし、最後の日本軍将校の自決シーンなどはいわゆるステレオタイプの描写で辟易です。
日本兵が脇役なのはもちろんいいとして、もう少し米軍の敵である日本軍をリスペクトする表現で貫いて欲しかった。もっとも一般的な日本人クリエイターが作る戦争テーマの幼稚性や日本軍の表現の酷さ・インチキは目も当てられないほどなのでそれに比べればマシですが。
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