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welldayというHRSaaSチャレンジのAtoZ


テーマと自己紹介

お疲れ様です、牟田と申します。
はじめましての方に改めて自己紹介させて頂くと、私はwelldayという従業員のエンゲージメントを最大化するHRSaaSの創業CEOでした。
先日にこちらのプレスリリースでもあったように、ご縁があってHRBrain社にM&Aという形でグループ入りをさせて頂きました。

IPOを目指していたwelldayですが、結果としてはM&Aを選択しました。

そのため今回のnoteのテーマは:
・IPOできなかった理由(≒選ばなかった理由)
・M&Aという選択をとった理由(≒取れた理由)

可能な範囲でオープンに書いて行きたいと思います。
IPOを創業初期から目指していた起業家として、創業から本日までのAtoZを起業家・今後起業家を目指される方向けに書きます。

本題の前に:EXIT手法としてのIPOとM&A

本題に入る前に、改めて「M&Aって何?」に関する自分の理解を前提として書き出します。
経済活動としてスタートアップには、大きく2つの出口(EXIT)方法があると言われいていて、基本的に1.IPO(株式公開)もしくは、2.M&A(買収&合併)というのが一般的です。
弊社の敏腕CFO井出が先日セカンダリーにPEファンドからマジョリティ出資する、みたいなマイノリティスキームを除いて、基本は投資家から出資を受けた場合、上記どちらかを目指す(もっと正しくいうと起業家として実行)必要があります。

1.IPO(株式公開)

IPOは2019,20年のスタートアップ・SaaS全般的な盛り上がりと比べて情勢が比較的調整局面ということもあり、IPOも企業にとってはダウンラウンドで比較的シビアなEXITケースもあります。
とはいえ本来はIPOは一つスタートアップにとってのステージアップであり、投資家へのリターンを出すのとともに、より大きなチャレンジや継続的な会社経営にとって重要な手段であり、起業家やスタートアップの経営チームにとっても大きなキャピタルゲイン・トラックレコードを手する重要なマイルストーンです。

2.M&A(買収・合併)

「2」のM&Aは北米では比較的主流なEXIT手段ではありますが、一方で日本ではまだまだ主流なモデルケースではないのが事実です。
M&A自体は事業継続・経済的リターン等についてはIPOすることと同様、一つ有効な手段ですが、一方でM&AはIPOと異なり、他社と合弁することが前提となるので、買収後のPMIが最重要ドライバーになります。
バリュエーション含めた金額面の話は勿論のこと、両者(ジョイント・ベンチャーだとより複雑で複数社)のシナジー、オペレーション・システム、更に人材・文化の統合が全部上手くいくのは針の穴を通すようなことであり、極めて難易度が高く、売却側にとっても、買収側にPMIスキームを持ててないとジョイン後想定していたシナリオにならず、アンハッピーなことになることもあります。

welldayのEXITまでのAtoZ

IPOまで行けなかった理由とTake away(学び)

それでは、なぜIPOを目指していたはずのwelldayは最終的にM&Aしたのか?

1.嘘のPMFが本当のPMFの足を引っ張る

YCやa16zのポッドキャスト、講演等を浴びるように聞く・観る起業家は数多くいるかと思います。必ずと言っていいほど「顧客の声に耳を傾け、本当のニーズを掴め」というフレーズが脳に響いてくるかと思います。
ただ、実際に思っている以上に顧客のニーズは十人十色で、玉石混交です。本質的課題を掴み取るのは思った以上に時間を要する理由の一つです。
SaaSプロダクトは早くてもARR1億円迄到達するのに2.5年かかると言われていて、米国の平均だと4.5年かかります。
Box.comの創業者AaronのX(旧Twitter)でも言及されているように、とにかく忍耐が試されるビジネスモデルです。

AaronとJeff Changのツイート
素晴らしいビジネスモデルを築き上げるのに速さと我慢が同時に必要

初期welldayの場合、PMFへの焦りでどこか違和感があったものの、早くPMF到達してスケールしたい故の焦りもあって、「顧客から有料で導入してくれた(CEOの気合による導入)」「AIを活用していて面白いプロダクトだと評価された(個人的意見であり、ペインキラーであるという話にはならない)」「投資家からいい評価を受けた(製品の良し悪しを評価できるのは顧客だけ)」等重要でないモメンタムを信じ、本来のPMFを評価する重要な「ターゲット顧客に、高いリテンションで、統一した理由よる継続的利用の実績」と「堅実なARRのMoMグロース」のファクトを作り切る前にグロースしようとしてはうまく行かないと繰り返し、最短距離でPMFへのエントリーができず、潜在的競合の顕在化する前のグロースするベストタイミングを逃していました。
経営者としてグロースへの焦りをいかに活力に変えて、忍耐強くすることが本当に事業づくり(特にSaaS)において重要だということを学びました。

2.パーパスは天動説、事業は地動説

なにかパーパスを持って世界を変えようとするスタートアップを立ち上げた瞬間は、起業家のビジョンやパーパスは決して儲かりそうだからとか、競合が少なそうだからとか、では決まるものではなく、その人の生き様や情熱で決まるものです。
パーパス自体は一定の思い込み・偏愛が必要で、ある意味天動説のようなものです。

朝倉:ファイナンスに限らず、事業は「天動説」ではなく「地動説」だと思っています。自分たちがどうしたいという意思は、もちろん大切です。でも、自分たちはものすごく大きなマーケットの中をぐるぐる回っているひとつの惑星にすぎません。そう考えたとき、いくら自分たちがどうしたいと言ったところで、無理なものは無理なんですね。外部環境に常に自分たちを合わせていかなければならない。それが本質だと思います。

「地動説」から考える「スタートアップの存在意義」とは
https://diamond.jp/articles/-/309543?page=3

一方で事業の具体になった時には、上記朝倉さんのコメント通り、自分たちはあくまでも星の数ほどいるスタートアップの一つにすぎず、Market Cap、比較優位性とMOAT、業界全体のランドスケープ、競争環境などを常に意識する必要が本当にあります。
welldayの場合、資金調達観点では2020年のSaaS全盛期で調達したものの、囁かれてはいたが、その後の比較的厳しい調整局面になること、そしてSaaSマルチプルの計算式の変化に対して講じる対策のアクションは遅かったというのは否めないです。
また、welldayのみならず、どこかHRSaaSのマルチプロダクト化、コンパウンド化することも予測はあったものの、自分たちの製品が顧客のペインを解決してれば競合へのtoo muchな意識は必要ないという考え方でした。
その結果として部分的なペイン解決への自負はあったものの、本当の広い意味でのパーパスの実現に至らず(コンパウンド化へのエントリー等)、天動説のパーパスを実現するためにも、徹底的な地動説経営が必要ということが大きな学びでした。

3.「不可逆的意思決定はあとで取り戻すのに大変苦労する」

「創業時にぐちゃぐちゃなスタートアップはあとで直せない」というピーター・ティールのZero to Oneでティールの法則を説明する時の有名なフレーズです。
このコメントのすべてに賛同はしていませんが、少なくとも「不可逆的意思決定はあとで取り戻すのに大変苦労する」という表現ならかなり賛同します。
スタートアップの80%の意思決定はCrush and Buildの繰り返しで、高いアジリティーと強度が求められています。一方でスタートアップの20%の意思決定は不可逆的で、創業期に間違えるとその後かなり軌道修正しにくい意思決定もあります。よく言われているのは「共同創業者を選ぶ・株式の割合」「資本政策」「マーケット・ターゲット選定」等があります。

welldayの場合、一例としてマーケット・ターゲット選定についてかなり不可逆的なミスをしていました。今となって振り返ってみると、本来難易度は高いものの高単価・エンタープライズ一択のチャレンジだったはずが、Time to Salesが短い、獲得し易いSMBに集中していました。
その結果としてエンタープライズへのエントリーを後々したい時にはプロダクトがSMB・MID High向けに作られていて、エンタープライズの獲得ノウハウは勿論のこと、プロダクトを抜本的にゼロから作り直すことになるので、出遅れる事になってしまいました。スタートアップにとって不可逆な問いか、Leanでやるべき問いかを見極めることが重要です。

EXIT(M&A)できた・選んだ理由

逆に、なぜ最終的にHRBrainにM&Aしてグループ入りできたのか?

We don't F**k up the Culture

「Don't F**k up the Culture」というAirbnbブライアン・チェスキーのブログが有名ですが、エンプロイーサクセスをテーマとした会社というのもあり、wellday創業したDay1から私が唯一と言っていいほど自信を持っているのは、会社が目指したいことや我々のあるべき姿について考え抜いて、胸張って「Go right way,Do right thing」したことです。
正しい&必要なことであればwelldayでは最後までいてくれたメンバー全員は役割などに一切とらわれず、全員がセールスであり、全員がPMであり、全員がHR担当でした。

私から見て、CPOの河野は日本でも上位1%のエンジニアリングスキルを持ちながらもカスタマーサクセスのタッチポイントには必ず同席し、クライアントとの懇親会も欠かさず参加していました。
VPoEの加藤は一緒に営業してそのVoCを要件にして、自ら開発してリリースしていました。
VPoR(revenue)の加藤(光)はPMバックボーンですが、必要なタイミングでは自らインサイドセールスとしてアウトバウンドコールにコミットしていました。全員が経営を考え、必要なコミットを120%やり、カルチャーをクリエートして、もしかしたら外部からするとすべてが異常かもしれないことがwelldayでは一般的でした。
そして、このチームと、一定のセグメントではありますが顧客から愛されるプロダクトをリリースできた私達をHRBrainの経営陣のCEO堀さん・CFO井出さんから評価を頂き、M&Aしてグループ入りできた理由かもしれません。

4年強の年月の中に、いかなる場合でも自信を失わず、どんな課題に対しても真っ直ぐに向き合うチームができたからこそ、自分たちの目指す「エンプロイーサクセスとカンパニーサクセスの両立する社会」をこれからも引き続き追いかけることができています。
また、暖かくwelldayのチームを受け入れ、引き続きOne teamでの働き方ができると思えたHRBrainのカルチャーがあったからM&Aを最終的に選べました。

弊社HRBrain代表CEO堀をはじめとするHRBrain経営陣との懇親会

スタートアップのGRIT or QUIT議論

スタートアップにとってのGRIT or QUITは本来だと続けることがGRIT、M&A等含めてピボットしたり、一度事業をやめることをQUITと定義されているかと思います。ただ自分個人としてはどんな形であれ、パーパスへのチャレンジを続けているならM&Aするということも含めてそれがGRITです。
GRIT or QUIT判断は極めて難しく、IPOにせよ、M&Aにせよ、最終的になにかしらの形までGRITすることは本当に大変です。

自分の場合、上記メンバーは勿論のこと、セコンドの株主の皆様のおかげも大きく、One Capitalの浅田さんは資金面は勿論のこと、それ以外でも自らwelldayをdemoしながらセールスしてくれたり、最後まで実践的な支援を頂いたり、ジェネシア・ベンチャーズの田島さんと相良さん並びにGVファミリーは本当に起業家フレンドリーで、CxO候補の紹介、VC先の候補までサポートを頂きました。エンジェルの佐藤裕介さん、佐久間衡さんにも誰にも相談できない悩みを親身になって相談乗っていただけたから、最後までQUITしなかった理由の一つです。

最後に

最後に、業界内でもよく出てくる議論として日本はまだまだM&Aのケースが少なく、オープン・イノベーションへの促進、起業家を志す母数が減るなどのようなお話はあると思います。
個人的にもこれに関する課題感が大きく、HRBrainでは展開が少し早いのですが、それこそwelldayのPMIはすでに現場では順調に進み、自分はwelldayから離れて、マイノリティ・マジョリティ両方の投資担当を任せて頂いております。HRBrainは顧客体験の最大化を目指すべく、旧wellday含めて7つのHRプロダクトをリリースしていますが、これからよりマルチプロダクト戦略としてプロダクトラインナップを増やすことは勿論のこと、HR・B2B領域のアライアンスをどんどん強化して行きたいと考えています。

投資のことは勿論のこと、個人的になにかしらの壁打ち・相談もウェルカムなのでぜひ気軽にご連絡いただけると嬉しいです。自分の経験を活かしてできる限りスタートアップのエコシステムに還元していく所存です。

作者プロフィール
1993年生まれ、幼少期に中国の長期滞在経験あり。立命館大学卒。リクルートホールディングス新卒入社、新規決済事業「AirPAY」の開発ディレクションおよび事業推進等に従事。
2017年12月、大学時代にシード期から参画していた株式会社フラミンゴに取締役COOとして再ジョイン。2019年4月、株式会社wellday設立。エンプロイーサクセス事業「wellday」をリリース。
2023年10月にHRbrainへM&Aでグループ入りし、HRBrainではHead of Investment(投資責任者)を務める。
Twitter:@Yeahman18Roots

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