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19.ルービックキューブの憂い

一番最初に世間に「ルービックキューブ」なる立体パズルが登場した時、私は小学4年生だった。

まずは、家が自営の同級生男子たちが、こぞって買い出し、学校に持ってきてカチャカチャやり始めて、それから徐々に教室内に広がっていった。
ルービックキューブは、明らかにおもちゃだけれど、学校に持ってくることは、なぜか禁止にならなかった。

登下校時にもカチャカチャ、

休み時間もカチャカチャ、

「何面できた?」が合言葉。

私は持っていないからよくわからず、「4面クリアの次は、なんで5面クリアじゃないん?」と聞いて、「おめぇ、バカかよ」と隣の席の男子に呆れられた。
5面揃うということは、必然的に6面揃ってしまうとのことだった。

挙句には、国語の作文や詩のネタにルービックキューブ使い出す子も出てきて、それらが学級文集用のプリントに印刷されたのを見て、無性に挫折感を味わった。
こいつら勉強できないくせに、たかがルービックキューブを持ってるだけなのに、それで文集に載せてもらえるなんて!
私は毎回がんばって書いてるのに…。

私は弟と結託して父に懇願した。

「パパ、ルービックキューブがほしい」と。

無論、却下である。
理由はすぐ飽きるから。

「◯◯ちゃんちなんか、きょうだいみんな持ってるよ」

◯◯ちゃんは父の友人宅の3きょうだい。
おばさんはすぐ「金ねぇんよ〜」というけれど、子どもたちの欲しいものは、割と自由に買い与えている家庭だから、当時、1,980円したルービックキューブも子どもそれぞれに買い与えていた。

「だったら、◯◯ちゃんちに3個あるんだから、行った時に借りればいいがな。うちはそんなに買えねぇよ」

すかさず言われる。

「みんな持ってるんだよ!」

「みんなって誰だ?本当にみんな持ってるんか?」

そう言われたらぐうの音も出ない。
欲しいけど、「高い」を理由に買ってもらえない子は他にもいた。
私たちは引き下がり、◯◯ちゃんちへお邪魔した際に、遊び飽きて放置してあるルービックキューブを取り合いで遊ぶしかなかった。

そして考えた。
高くて買ってもらえないのなら、安いのを探すしかない。
しばらくすると近所の文房具屋に、今考えたら便乗して無理矢理作った感満載な『ペーパーキューブ』なるものが、100円で売られていた。

私はそれに飛びついたが、しかし…。
正方形で色が揃わないルービックキューブっぽい厚紙と穴の空いた黒枠の厚紙何枚かが、真ん中を割りピンで止められているだけで、遊び方の説明もなく、買ってみたもののなんだかよくわからない。
学校で男子に聞いても「なんだこれ?」な代物だった。

それからまたしばらくして、同級生から耳寄り情報が届いた。

「むつなちゃん、あそこのスーパーに1,480円で売ってたよ!」

500円安い!
ただし、そのスーパーは車でないといけない場所。
そして、当時の私のひと月のお小遣いは500円。
自力では到底買えるものではなかった。

一度、そのスーパーに行ったので、おもちゃコーナーを探すと、確かに1,480円のルービックキューブはあった。
今思えばパステルカラーだったからパチモンだったんだろう。

当時はそんなことはわからないから、とにかく「来年のお年玉で買おう!」と決意したけれど、お年玉をもらう頃には1,480円のルービックキューブは店から消えていた。

そして、その頃にはもう学校の中でのルービックキューブ熱も冷めていた。
「そんなのすぐ飽きる」という父の見解は正しかった。

でも。

それでも40年近い歳月が経ち、ある時、たまたまルービックキューブに再会した時。
気持ちのどこかにまだ残っていた、買ってもらえなかった悔しさとか残念さが、昨日のことのように浮かんできて自分でもびっくりした。

本当に欲しかったんだね、ルービックキューブ。

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