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15.ランニングエッグ

今でこそ、TKGと呼ばれてアレンジが様々ある卵かけごはんだが、私が子どもの頃は、卵かけごはんといったら醤油味一辺倒だった。
アレンジといえるものといったら、味海苔をちぎって乗せたり、ご飯の上に乗せた味海苔を箸で押さえて小さなおしし(お寿司)を作る。
もしくは、卵かけごはんの上に、海苔の佃煮か納豆をかけて食べる。
そんな程度。
今みたいなアレンジがあの頃あったら、どんなだったろうかとふと思う。

私は小さい頃、ごはんを食べるのが遅くて、毎朝「早く食べなさい!」と叱られていた。
その上、ささっと食べる定番である卵かけごはんでも、決してアレンジしていた訳ではないが
、卵のカラザが鼻水に思えて苦手だったので、器に卵を割り入れてカラザを取ってもらい、それから醤油を入れて混ぜ、それをご飯にかけてもらって食べるという、かなり手間のかかることをしていた。
そんな私を見て、父がある時こう言った。

「卵かけごはんはランニングエッグつって、さっさとこう食べるんだよ!」

少々お行儀悪いことだが、父は茶碗のごはんの真ん中にお箸でグリッと穴を開け、そこにカシャッと卵を割り入れて、醤油をチャチャッと回しかけてきれいに混ざらないうちにズズッと素早く食べた。

「ママ、ボクもパパみたいにランニングエッグで食べる!」

幼い頃は、父を崇拝していた弟たちが即座に真似してごはんを食べる。
もちろん私も真似したい気持ちはある。
しかし…、どうしてもカラザが嫌なのだ。
勢いよく真似してランニングエッグにしてしまった時もこっそり箸で取り除いていた。
案の定、「それも食えんだよ」と叱られる。
でも、当時はどうしても嫌だったのだ。

成長するにつれて、部活などで早出があったりなんてことになると、いちいち器に割り入れて…なんで手間ヒマかけられなくなり、いつしか私もランニングエッグで、ごはんをかっこんで、自転車で飛び出していくようになった頃にはカラザなんて気にならなくなった。
時々、なんであんなに抵抗感あったのかな…としみじみ思う。

あれから40年近い歳月が流れ、私はちょこちょこと味を変えて卵かけごはんを楽しんでいるが、父の卵かけごはんは、相変わらずシンプルなランニングエッグである。

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